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酸化防止剤が頭痛の原因というのは本当か | ワインあるある

02/25/2019

最近は耳にすることが幾分か減ってきている気もしますが、ワインに含まれる酸化防止剤、つまり亜硫酸や亜硫酸塩と呼ばれる添加物がワインを飲んだ際に生じる頭痛の原因だとする言説があります。

まことしやかに囁かれ未だに信じている人も多いであろうこの説ですが、本当に正しいのでしょうか?

今回はワインを飲む際に生じる頭痛の原因についてまとめるのと併せて、それらと酸化防止剤との関係についてまとめます。

そもそも酸化防止剤とはなんなのか

まずはおさらいです。

ワインに添加される酸化防止剤とは一般的には二酸化硫黄と呼ばれる化学物質で、SO2という化学記号で書き表されます。一方でよくワインのエチケットに見られる亜硫酸とはH2SO3という化学記号で表現される物質を指しています。

化学記号から分かる通り、亜硫酸とは二酸化硫黄と水が結合する形で構成されているものです。

また亜硫酸塩とは亜硫酸がさらに一部の別の分子と結合したものです。代表的な物質としては亜硫酸カリウム (K2SO3) や亜硫酸水素ナトリウム (Na2SO3) などがあります。

いずれの物質にもSO3という部分が含まれていることがお分かりいただけるかと思います。細かい化学的な解説は横に置きますが、このSO3という物質が含まれているという点で、これらの物質がいずれも基本的には二酸化硫黄と同じものなんだな、と思っていただければ大丈夫です。

以前この二酸化硫黄 (SO2) について、「品質管理のキホンのキ | 二酸化硫黄の使い方」と題した記事でこの物質が果たしている役割と、その役割を遂行するために必要となる添加量について解説しました。そしてそこで「遊離型SO2」というものについても解説をしています。

今回の記事では後ほど、この「遊離型SO2」という考え方がとても重要になってきます。これがどのようなものだったか、不安があるようでしたらぜひこちらの記事でおさらいをしてから今回の記事を読み進めてください。

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二酸化硫黄は頭痛の原因となるのか?

結論からいえば、「その可能性は極めて低い」です。

二酸化硫黄は胃を経由して人体に吸収されると基本的には無害化されます。またそうでなかったとしてもワイン中に含まれる遊離型SO2の量は瓶内に含まれる酸素との結合を通して経時で低下するものですので、たかだかボトル1本くらいの量のワインを飲んだくらいでは大した量は摂取されません。もしこれで頭痛をおこすようであれば、ドライフルーツなどを食べた場合には大変なことになってしまいます。

ワイン以外の食品に含まれる二酸化硫黄の量については「二酸化硫黄、正しく理解していますか? 4」という記事でいくつか例を上げて数値を記載していますので、ご興味があれば参考にしてください。

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二酸化硫黄が人体にとって有害であることは事実

別の記事でも事あるごとに書いていますが、二酸化硫黄という物質自体が人体にとって有害であることは事実です。このため、一度に極端な量を摂取すれば頭痛では済まないレベルで健康被害が出る可能性はあります。

また二酸化硫黄に対して、アレルギーとまではいかなくてもかなり敏感な体質の人もいます

実際に筆者がそうなのですが二酸化硫黄の含有に対して過敏と言えるくらいに敏感で、ケラーで仕事をしていても同僚は全く知覚しないのに一人で硫黄臭い!と騒いでいたりしています。

またケラーでは二酸化硫黄を直接扱う仕事も多々あるので、そのたびに涙を浮かべながら咳き込んだりしています。

こうした過敏症気味の人は体質的に実際に頭痛を覚えることもあるでしょうし、そうでなくてもその存在を感じてしまっているがためにイメージ先行で付随的に頭が痛くなったりするケースがあるとは思います。一方でこれらは一部の特殊なケースに分類できるものでもあります。

頭痛の原因はなんなのか

まず頭痛が起きる生体反応としての原因は、血管の拡張および収縮によっている、とされています。筆者は医療業界の人間でありませんのでこのあたりの厳密なメカニズムを追求されると回答できません。この点に関しては予めご了承ください。

頭痛の原因として考えられるものは実はいくつかあります。原因として化学物質が関わっているものに関しては、いずれも血管の拡張や収縮作用を持っているものであり、上記の「血管の拡張および収縮」が頭痛の原因になる、という説を裏打ちしています。

  • 飲み過ぎ
  • アセトアルデヒド
  • 生体アミン
  • イメージ (思い込み)

順番に見ていきます。

量ではなく、アルコール度数で飲みすぎの可能性

これは普段あまりアルコールを飲まない方に多い原因として想定されるものです。

一般にあまりお酒を嗜まれない方は日常的にも低アルコール度数のお酒を飲まれている場合が多いと思われます。仮にお酒自体はアルコール度数が高かったとしても水やお湯、お茶などで割ることで結果的にアルコール摂取量が少なくなっていることもよくあります。

一方でワインは基本的になにかで割ることはありません。しかも日本によく入っているものは比較的アルコール度数が高いものが多くなっています。そのため飲んだ量はそれほど多くなかったとしても摂取アルコール量に直すとそれなりの量を摂取しており、結果として体内で分解できる量を越え、頭痛や二日酔いの原因になってしまう可能性があるのです。

楽しくお酒を飲んでいる時にアルコールの分解可能量などを計算しながら飲むことはあまりないと思いますが、ワインは基本的にアルコール度数が高い、ということを前提に楽しんでいただくと良いかと思います。

なおアルコールの体内での分解や二日酔いの防止については「二日酔いを避けるために。アルコールの分解を知ろう!」の記事を参考にしてください。

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毒性の強いアセトアルデヒド

人体に吸収されたアルコールが分解される際にアルコール脱水素酵素という酵素の働きでエタノールからアセトアルデヒドに分解されることを以前の記事で書きました。

このアセトアルデヒドという物質はエタナール (ethanol) とも呼ばれ、エタノールと比較して10倍程度の毒性があると言われています。

実はこのアセトアルデヒド、ワインの発酵中にも生成されている発酵副生成物でもあります

特に傷んだブドウの房などが混入した場合に多く生成されることがわかっており、量を造ることをメインにした低価格帯のワインなどでは相対的に含有量が多くなる可能性が高くなっています。

また野生酵母での発酵を行う場合などにも生成量が多くなる傾向があります。

ヒスタミンに代表される生体アミン

またあまり知られていないものとして、生体アミンと呼ばれる物質群があります。

生体アミンの1つであるヒスタミンはよく知られている物質だと思いますが、このヒスタミンやチラジンも摂取量が多くなると強い毒性を示し、アレルギーや血圧低下、血管の拡張もしくは収縮などを引き起こす原因となります。つまり、頭痛の原因となりうるのです。

生体アミンは主に微生物 (細菌) の活性を原因としており、脱炭酸酵素がアミノ酸に影響することで生成されます。

生体アミンは主にブドウの房の状態によってその含有量がことなると言われていますが、赤ワインでよく行われるマロラクティック発酵、つまり乳酸菌発酵の際にもアルギニン (Arginin) というアミノ酸の一つがペディオコックスダムノソス (Pediococcus damnosus) という種類の乳酸菌によって分解されることで生成されます。

つまり、この「マロラクティック発酵時における生成」という点において、赤ワインのほうが白ワインよりも生体アミンの含有量が多くなる可能性が高いのです。

白ワインを飲んでも頭痛はしないのに、赤ワインを飲むと頭痛がする、という方の場合にはこの乳酸菌発酵を原因とした生体アミンによる影響を受けている可能性があります。

これが一番可能性が高い?!イメージによる頭痛の可能性

これは極めて非科学的なお話になりますが、「思い込み」が原因の場合です。

自分はワインを飲むと頭が痛くなる、という思い込みがある場合、その思い込みだけで実際に頭がいたくなる可能性があります。偽薬によるプラシーボ効果と同じ理屈です。

各原因と二酸化硫黄との関係

最後の思い込みのケースを除いて、実はすべてのケースで二酸化硫黄との関連があります。

この「関連がある」という点が悪い方向に作用した結果、冒頭のワインあるあるである「酸化防止剤が頭痛の原因である」という言説を裏打ちするような形になってしまっているのではないかとも考えられます。

実際に「関係がある」とはどういうことかというと、アセトアルデヒドが多いほど、もしくは生体アミンの含有量が増えるほど、そのワイン中に添加される二酸化硫黄の量は多くなる傾向があるのです。

アセトアルデヒドは二酸化硫黄のベストパートナー

二酸化硫黄の添加に際しては遊離型SO2の量を管理することが重要だと以前の記事に書きました。

この遊離型SO2の量ですが、以下のような単純な式によって表現することが出来ます。

SO2の総添加量 – 結合型SO2 = 遊離型SO2

要は遊離型SO2とはワインに添加したSO2全量のうちのまだ結合していない残量のことです。

この残量、遊離型SO2のワイン中における存在量を増やしたい場合に考えられることは以下の2つです。

  1. そもそもの二酸化硫黄の添加量を増やす
  2. 二酸化硫黄と結合する対象の物質の含有量を減らす

1.の方は簡単な話で、どれだけ結合しても関係なく、飽和するまで結合させた上で遊離型SO2 の量を確保できるだけのSO2をさらに添加しましょう、という考え方です。一方で、2.の方はSO2の総添加量を抑えるためには必須の考え方となりますが、SO2が消費されてしまう原因である結合相手の物質をそもそも減らすことでSO2の需要量を引き下げましょう、という考え方です。

アセトアルデヒドという物質はおよそワインに含まれる物質のうちでもっとも多くSO2を消費する物質のひとつです。

ではどのくらい消費するかというと、1 mgのアセトアルデヒドは実に1.45 mgものSO2と結合するのです。

このためそもそもワイン中のアセトアルデヒドの含有量が多いと、遊離型SO2を確保するためには必然的にSO2の総添加量を増やさざるを得なくなります。基本的にアセトアルデヒドの含有量は外からは分かりませんので、アセトアルデヒドが原因となった頭痛が生じた場合でも二酸化硫黄の含有量ばかりが目立ってしまい、結果として頭痛の原因は多量に添加された二酸化硫黄だと言われてしまいかねないというわけです。

生体アミンの生成原因と二酸化硫黄の関係

ヒスタミンやチラジンといった生体アミン自体は二酸化硫黄の結合相手としては想定されることは基本的にありません

一方で上述のように生体アミンの生成には細菌が関わっています。

この細菌の不活性化のためには二酸化硫黄が使われている、という点がこの場合の肝となります。

マロラクティック発酵の場合には多少状況が異なるのですが、ブドウの健康状態という意味においては細菌の発生が心配される状態とはつまり、ブドウの実や房が傷ついていたり腐っていたりする状況です。このような状況においては必然的にそれら細菌軍の活性を抑制する目的でそれなりの量の二酸化硫黄を添加することになります。

ワインに使われたブドウの健康状態については具体的なところは外からはそうそうわかることではありません。

このため、このケースにおいても外からは多量に添加された二酸化硫黄の量ばかりが目立つ結果となってしまい頭痛の本当の原因が二酸化硫黄にあったのか、生体アミンにあったのかがわからなくなるのです。

添加量が多いならやはり二酸化硫黄が頭痛の原因なのではないのか?という疑問

アセトアルデヒドにしても生体アミンにしてもその含有量が多いワインでは必然的にSO2の添加量が増える傾向があることを説明してきました。

これを読むと、結果的にSO2の添加量が多いのだからやはりSO2が頭痛の原因なのではないのか、という疑問が生じます。

この疑問はある意味で正しい可能性は当然あります。確かにSO2の添加量を青天井で増やすことができるのであれば、その傾向はより顕著になるでしょう。

しかし実際にはワイン中に添加していいSO2の総量は多くの国において法的に規制されています。如何にワイン中における遊離型SO2の量が少なかろうと、この規制された量を超えてSO2を添加することは不可能です。つまりそのようなワイン中においては生体アミンはともかく、アセトアルデヒドの量は依然として多く残存している可能性が高くなるのです。

逆に生体アミンについては乳酸菌発酵による生成の場合には遊離型SO2の量にかかわらずその含有量が多くなる可能性があることは前述のとおりです。

この事実から、現実的にSO2のみが頭痛の原因だと断定することは出来ません

量を飲むことと二酸化硫黄の関係

お酒に強くない人がアルコールを許容量以上に摂取してしまった場合、というのは言い換えてみればアセトアルデヒド脱水素酵素の働きが低い状態でアルコール量を多めに摂ってしまっていることなので、人体への影響としては分解されないアセトアルデヒドによる被害、と考えることが出来ます。

一方でこの場合の被害はもともとワイン中に含まれていたアセトアルデヒドによるものではなく、アルコールの分解過程で発生するアセトアルデヒドによるものですから内容的には上記のアセトアルデヒドを含むケースとは全く異なります。

ただし含まれるアセトアルデヒドの量がもともと多いワインを飲んでしまった場合には、摂取されたアセトアルデヒドとアルコール代謝の過程で生じたアセトアルデヒドの二重の意味で影響が出ますので、当然ながらその程度はひどくなることが予想されます。

今回のまとめ

頭痛を引き起こす原因を一概にまとめることは難しく、絶対にこれが原因、といえるものはありません。しかし一部の体質的な場合などの例外を除き、基本的に体内で無害化される酸化防止剤、二酸化硫黄が頭痛の原因となると考えることには無理があります

無理に二酸化硫黄が頭痛の原因だというよりも、人体有害性の高いアセトアルデヒドや生体アミンが原因である、という方がより自然なのではないでしょうか。

またこれらの物質を含むワインには結果的に二酸化硫黄もまた多く含まれる可能性が高い、ということを知っていただければ、なぜ酸化防止剤が頭痛の原因になるという、このワインあるあるが生まれてきてしまったのかということへの理解にもつながるのではないかと思います。

アセトアルデヒドや生体アミンの量は通常、外からでは分かりません。またこれらの物質はどんなワインにも含まれる可能性がある物質ですので、ワインを飲む以上はこれらの物質を避けることは不可能です。

その意味ではワインを飲むことで生じる頭痛を避ける明確な手段はありません

ワインを楽しまれる際には水などを並行して飲んで血中アルコール濃度を上げないように気をつけつつ、もし一口くちに含んだ際に「このワイン気に入らないかも」と感じた場合にはそれがどんなワインであったとしても潔く飲むのを止めることが重要です。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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