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変わりつつあるワインの世界 | EUワイン法の視点から

11/27/2020


この記事はドイツで発刊されている専門誌"der deutsche weinbau" #23/20に掲載された記事、"Kalorien sollen aufs Etikett (Seite: 8-9)"の内容に基づいて書かれています

生き馬の目を抜くようなペースで世の中の嗜好が変化をしていっている昨今、どんなに愛されてきた長寿ブランドであっても長くても10年周期で商品をリニューアルしていくことが必須だと言われています。

この一方で、ブランドは変化を余儀なくされていたとしても、そのブランドが属しているカテゴリーは長いこと変化をしていないことはよくあります。「ワイン」はこの「長いこと変化していないカテゴリー」の中でも特に長い歴史を持つものの一つと思われているのではないでしょうか。

実際には「ワイン」というカテゴリーもその長い歴史の中では定義の変化を含めて大小さまざまな変化をしてきています。またその変化の道筋はワイン法の歴史に見て取ることができます。

それ以外にも各国や地域で同じ「ワイン」カテゴリーであってもその意味が違っているケースは多くあります。

「ワイン」というカテゴリーは各時代と場所によって、その意味も定義さえも変化し続けてきているのです。そして今、その定義がまた大きく変わろうとしています。

ワインの概念を牛耳る欧州での変化

本題に入る前に少しだけ寄り道をします。

少し細かい話ですが、カテゴリーとしての定義とその単語を構成する一般的な概念が一致していないケースがあります。ワインはまさにこのケースに該当していると筆者は考えています。

ワインは長い歴史を持つアルコール飲料です。その歴史の大部分は欧州に根ざしており、ワインといえばヨーロッパ、その中でも特にフランス、と無意識に思い込んでいる場合も多いのではないでしょうか。

このためにフランスもしくは欧州のルールがそのままワインとしての世界共通のルールと思われる場合がありますが、これは違います。

ルールは何かしらの公的な規制に基づいて設定されるもので、それはワインでは多くの場合、ワイン法によって定められています。これは概念ではありませんし、世界共通のものでもありません。あくまでもその法律が効力を持つ域内でのみ通用する、いわばローカルルールです。

しかしここがワインの面倒な部分でもあるのですが、前述のようにワインの概念的な部分は世界中の多くの人にとって欧州に根ざしています。世界中の国々で施行されているワイン法の多くが欧州のそれに倣ったものになっているのもそれが故です。

本来は世界中でその意味が違っていてもおかしくはなかった「ワイン」という言葉が世界の共通言語として成り立っているのは偏に、長い歴史とそこで積み重ねた経験と実績を背景に圧倒的な存在感を持つ欧州がこのカテゴリーの実質的な支配権を持っているためでもあります。

本来は参考対象にしか過ぎない存在が、実質的に実用面を支配する存在になっているのです。

そして現在、この世界の参考対象にしてカテゴリーの本丸をなす存在がその軸足を変える、決して小さくない一歩を踏み出そうとしています。

ワイン法の改定内容

EU農相とEU議会との会談が行われ、EUのワイン法の一部改定が話し合われました。現時点では決定事項ではありませんが、その内容は一部に非常に重要なものを含んでいます。

今回の議題として上げられているのは以下のような内容です。


  1. ラベル表示義務内容の変更
  2. ブドウの新規植え付け許可制度の延長
  3. 対象ブドウ品種の拡大
  4. ノンアルコールワインの取り扱い
  5. 補酸の容易化
  6. アルコール濃度規定

この中でも特に重要と思われるのが、ラベル表示義務内容の変更、ブドウ品種の拡大、そしてノンアルコールワインの扱いです。

実はこれらは非常に大きな内容でありながら、一部では今更感のある内容でもあります。なぜなら、一部はすでにこれまでにも自主的に、また一部ではすでにそれに近しいことが事実上行われてきているからです。つまり今回の動きはこうしたすでにはじまっていた動きを法的に明文化しようとするものとも捉えられるのです。

新たな表示義務

ワインのラベル上に新たに表示されるべき内容として、カロリー量と添加物が検討されています。

カロリー量はワインボトルに貼付されるラベル上に明記されなければならないのに対して、添加物リストは必ずしもラベル上でなければならないとはされておらず、ラベル以外の貼付物や2次元バーコードなどを利用してのインターネット上での表示も許可される方向で議論されているようです。

ワインは補糖 (チャプタリゼーション) への誤解や、残糖量との関係などから「ワインを飲むと太るのか?」との疑問の声をよく耳にします。こうした一般消費者の方が持つことが多いであろう疑問への解消という意味では、カロリー量の表示義務付けは決して悪いことではありません。

一方で、これまで明確には示されていなかった正確なカロリー量を目にすることで消費者の方の手が伸びにくくなる、もしくはそれに対応するために低カロリーを謳うワインが造られるようになる、という可能性は否定できません。またカロリーの測定は従来のワインの一般測定項目には含まれていませんでしたので、これを測定するコストや、従来のラボの機材での対応可否などは新たな仮題となってくるであろうことも想像されます。

https://note.com/nagiswine/n/n752d342fc7f8



ワイン用ブドウ品種の拡大

今回の改正議論における最大のポイントと言えるのが、ワイン用ブドウ品種の拡大です。


次のページ以降では以下の内容に沿って説明を続けます。

  • ワイン用ブドウ品種の拡大
  • ノンアルコールワイン用区分の新設
  • 今回のまとめ | 生産側だけに留まらない変化



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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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