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ワイン純粋主義との相克 | 醸造家はパズルを解けるのか

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ワインを造っていると数々の「悩ましい出来事」に直面しますが、その中でもこの時期に多いのがワインを可能な限り「純粋」に保ちたいという想いと、それを実現できない現実との対立です。

世の中、ワインの持つ個性をTerroirといった、ある限定された地域的な特性、つまり独自性に求めることがよくあります。このことの良し悪しはともかくとして、仮にそのような限定された範囲にのみ生じる特性をワインに持たせたいと考えるのであれば、そのワインは少なくともそのような地域から収穫されたブドウで造り、別の個性をもったものとは混ぜ合わせないことが最低限必要となります。

 

この一方で、そのようなワイン造りはある一定の状況を除いて実は難しい事でもあります。

今回はそんな、醸造所の裏側にあるとても悩ましい事情について紹介したいと思います。

 

ワインは純粋がいい?

そもそものお話しとして、ワインは「純粋」であることがいいことなのでしょうか?

この場合の純粋とは、

 

  • 品種の混合がない
  • 畑の混合がない
  • 収穫年の混合がない

 

ということを最低条件としているワインのことです。言ってみれば、畑からボトルまでが一貫して一つのしっかりとしたプロフィールの元に成り立っており、Terroirといった観点からもノイズの入っていないワインのことです。

このような条件に合うワインは世の中にたくさんありますし、こうしたワインの価格帯が高くなっていることもよくあります。しかしその一方で、ボルドーのワインのように複数品種をアッサンブラージュして造ることが前提となっているワインもありますし、敢えて数年熟成されたリザーブワインを数%程度混ぜ合わせる、ということもワイン造りの現場ではよく行われていることです。

こうしたワインもまた非常に高い評価を得、また極めて高価なワインとして世の中に流通していることを考えれば、ワインが「純粋」であることは「いいワイン」としての前提条件とはなり得ない、ということは自明の理とも言えるでしょう。

 

そういった事情を踏まえても、世の中にはやはり「純粋さ」に拘りたい醸造家というものは相当数、存在しています。筆者もそういった「ワイン純粋主義者」の一人に数えていいくらいにはそちらよりの思考を持っている醸造家の一人です。

私自身の個人的な考えを簡単に書いておくと、別に複数のワインを混ぜ合わせることが悪いとは少しも思いませんし、それで美味しくなるのであればやるべきだとも思っています。思っているのですが、それでも可能な限り、純粋さを維持したい、必要に迫られればやるけれど、やる必要が100%でなければやらないで済ませたい、というのが偽らざる本音でもあります。

どちらかといえば、理屈というよりも「せっかく手塩にかけて育てたブドウであれば何も混ぜ合わせずにワインにしたい」という感情的な側面の大きい点でもあります。

 

ワインの混ぜ合わせは日常茶飯事

もしかしたら意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ワイン同士を混ぜ合わせることは実はよくあることです。

ワイン同士を混ぜ合わせるタイミングには以下のようなものがあります。

 

  1. 味の調整
  2. 残糖量の調整
  3. 商品としてそもそもブレンドが前提
  4. 樽への補酒
  5. 各種器材を通したコンタミネーション
  6. タンクの調整

 

1から3は似たような内容ですが、目的が少しずつ違います。

味の調整はあくまでも純粋な状態に近いワインを造る前提でありながら微妙な味の調整のために数%程度、別のワインを混ぜ合わせることを指しています。意味合いは微妙に違いますが、新樽と古樽を使ってそれぞれ熟成させたワインを最終的には混ぜ合わせて一つのワインにするケースに近い方法です。

 

残糖量の調整はもう少し積極的な混ぜ合わせのイメージです。

特に甘口のワインを造る際によく使われる手法でもあります。甘口にする、つまり残糖量の多いワインを造るためにはその程度にもよりますが、基本的には熟度の高い甘いブドウを使う必要があります。そうなると必然的にそのワインに含まれる総酸量は低下する傾向になり、全体として酸味の弱い、悪く言えば甘ったるいワインになってしまうことが往々にして起こり得ます。ここに対して、酸味を補填するために酸味の強めの辛口のワインを混ぜ合わせたりするのがこのケースです。

 

3は完全にアッサンブラージュが前提となるケースです。もともと混ぜ合わせることが前提ですので、むしろ混ぜないという選択肢がありません

 

4から先は醸造面で避けることが難しいケースです。

例えば樽への補酒は常に同一のワインで行えるわけではありません。特に複数の品種のワインを樽を使って熟成させている場合などにはそのワインの種類分だけ補酒用のワインを別に抱えることは現実的とはいえず、実際には1種類のワインですべての樽への補酒を賄っているようなケースが多く存在します。

 

器材を通したコンタミネーションもボトリング前のフィルタリングなどで生じやすい、醸造面でのなかなか避けがたいケースの一つといえます。

もちろん一種類のワインをフィルターを通すたびにすべての装置を完全洗浄して、新しくセッティングすればワイン同士の接触は避けられますが、代わりに多大な時間と労力が必要となりますし、結果的にワインのロスも多くなります。そうした余計なコストを避けるためには多少の混ざり合いを許容してでも連続して作業を行ってしまうことが複数の面から合理的な行為であることは少なくありません。

 

そして最後のタンクの調整というのが筆者的にはもっとも悩ましいケースです。



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