引き算で考えるワイン造り
ワイン造りは難しい。そう思ってはいないでしょうか。 確かにワイン造りを細かく見ていこうとすると、そこには微生物学の知識や化学の知識が必須です。ブドウの栽培からお話を始めると、ここにさらに植物生理学や土壌学、気象学、物理学など必要となる知識は増える一方。とてもワイン造りは簡単です、とはいいにくいのが実情です。 ただそんな細かい知識が求められるのは本職の人間だけ。ワイン造りの基礎を学ぶのであれば、このような知識は実は不要です。 むしろそんな面倒くさい話をされれば、人間、好きなものも嫌いになってしまうのが道理と ...
濁ったワインは何が悪いのか
「濁りワイン」 日本では意外に市民権を得ている印象の強いワインのカテゴリーですが、これは日本独特な動きと言えます。 もちろん世界にも醸造過程を通してフィルターろ過を行わない「unfiltered」のワインは多く存在していますし、一部ではこのようなスタイルがブームのようにもなっています。しかしこれらのワインはあくまでもろ過をしていないことが大事なのであって、「濁っている」ことが重要なわけではないことに注目しなければいけません。 なぜ、世界では「濁り」に焦点を合わせないのか。この点について今回の記事ではお話を ...
ワイン用ブドウの栽培 | クローンを知る
ワインの勉強をしていると「ブドウのクローン」という言葉に遭遇することがあります。 クローン。 最近ではワイン以外の分野で耳にする機会も増えてきた単語ですが、まだまだ一般に広く認識されているようなものではありません。しかもワインの分野では醸造面よりも栽培面での意味が大きく、テイスティングの場で注目されることはあまりありません。 クローンがなんなのか、何となくはわかっていても理解しきれていない場合も多いのではないかと思います。一方でこだわる人はこだわり抜くのがこのクローンでもあります。 この記事ではブドウのク ...
ドイツってワインを造っているんですか?
ドイツに住んで、ワイン関係の立場にいるとちょくちょく日本からの観光客の方からこんな質問をいただきます。まぁ、一般的な日本人からすればドイツと言えばビールにソーセージ、そしてサッカー。ワインのイメージなんて殆ど無いですよね。ええ、分かります。ワインと言えばフランス、イタリア、スペインそしてチリじゃないの?と思うその気持ち。 世界上位のワイン生産国、ドイツ でも、ドイツって実はそれなり以上の大きさのワイン生産国です。 OIV (International Organisation of Vine ...
ドイツワイン トップ100 | 2020年版
少し古い話になりますが、昨年、2020年の11月末に Jamessuckling.com にて"TOP 100 WINES OF GERMANY 2020" と題した記事が公表されました。 https://www.jamessuckling.com/wine-tasting-reports/top-100-wines-germany-2020/ 記事のタイトルは2020となっていますが、内容は2019年のワインのテイスティングを中心としたものです。 テイスティングノートは上記サイト内の有料部分に掲載されて ...
アイスワインを造るというギャンブル。果たして気温は下がるのか
異様なまでに暑く、乾燥した夏を経験した2018年のドイツ。そんな気候から一転して湿度の高い冬に、多くのワインメーカーが頭を抱えています。 最近は世界的にも辛口のワインが存在感を増してきているとは言っても、外から見たらまだまだ甘口ワインの印象が強く残るドイツのワイン。そんなドイツの甘口ワインの中でも毎年その生産の可能性が話題になるのが、アイスワイン(Eiswein)です。 アイスワインは凍らせるものではなく、凍ったもの そもそもこのアイスワインというワイン、”アイス”という名前が付いているがために凍らせるワ ...
優良畑はいつまで優良か | ブドウ畑の立地
先日の9月12日に筆者が勤めるワイナリーで2019年シーズン初となるブドウの収穫がありました。ブドウの成長が異常に早く、それに伴い例年よりも1か月近くも収穫が早まった2018年ほどではないものの、2019年もやはり長期平均の視点から見ればかなり早いシーズンの幕開けとなりそうです。 このようなブドウの成熟の早期化の背景には年間平均気温の上昇があります。 地球全体での気候変動が叫ばれて久しいですが、実際にブドウの成熟過程を通して日々その変化を目にしているとその影響の大きさがまさに身をもって実感できます。 そし ...
除葉の季節
2018年のドイツは暑く、ブドウの生育が例年を遥かに超えて早く進んでいます。 その影響を受けて、ブドウ畑ではワイヤーがすでに一番上の位置まで上げられていますし、場所によってはすでにブドウの実の結実も確認され始めています。そんな状況を受けて、一部の畑では除葉作業が始められています。 除葉とはなにか? 除葉とは、文字通りにブドウの樹にある葉の一部を除去してしまう作業のことをいいます。以前はほぼ完全に人の手で行われていた作業ですが、最近は機械で行うことも多くなってきました。 植物にとって光合成を行う上でとても大 ...
ワインが造れなくなる日
2018年という年は少なくとも欧州におけるワイン業界では極めて良好な、歴史的な大豊作のヴィンテージになったと振り返られています。 確かに2018年は欧州としては考えられないほど暑く乾燥した夏が驚くほど長く続いた年でした。このためブドウは例年以上に健康的な状態のままに熟成期を迎え、そのままに高い糖度を持つに至りました。この傾向はかつてはワイン用ブドウ栽培の北限と言われたほどに気温が低く、ブドウの熟度が上がりにくいとされていたドイツでも同様でした。 収穫が終わった今になって振り返ってみれば、2018年という年 ...
台木ってなんだ?
先日、クローンに関する記事を書きましたが(関連記事: クローン、、、何かに似ていませんか?)、このクローンという単語と同じくらいブドウ畑の中でよく聞く単語が台木です。今日はこの台木というものに焦点を当ててみたいと思います。 台木とは そもそも台木とは何でしょうか? これは読んで字の如く、台となる木のことです。これだけだとなんの説明にもなっていないですね。しかしその一方で、この言葉が台木の全てでもあるのです。 ブドウはクローンのお話しの際に書いたように、挿し木によって増やすことの出来る植物です。挿 ...
ブドウの開花と栽培面における意味
ブドウ畑における収穫量を決める重要なポイントは選定である、とよくいわれます。確かに剪定は重要です。ブドウの果実は枝になります。しかも1本の枝につく実の数は大体、決まっています。つまり、枝の数が予めわかっていれば、1本の樹から収穫できるブドウの量はおおよそ決まります。その年に1本の樹から何本の枝を伸ばすのかを決めるのが剪定という作業ですので、剪定がその年の収穫量の大枠を決める、というお話には納得です。 一方で、いくら剪定を通してその年の収穫量の大枠を決めていたとしても、そのまま素直に予定通りにさせない存在が ...
植物の未来の姿を知る実験 | FACE
FACE、と呼ばれる実験をご存知でしょうか。 おそらく多くの方は知らないと思います。ですが、それも当然です。この実験、植物の成長や環境から受ける影響を調べる人たちからするともう10年以上にわたって活用されてきたものですが、一般の人が目にしたり耳にしたりすることはまずないものだからです。 FACEとはFree Air Carbon dioxide Enrichmentの略で、大気中の二酸化炭素濃度を人為的に引き上げ、その環境下で植物がどのように反応をするのかを観察する大型実証実験を指しています。 なぜこの実 ...
ワイン醸造 | 優良な酵母は発泡しない?
ワイン好きの皆さんの中には、発酵中のワインの状態を醸造所で直接、もしくは写真などを通して見たことがある方も多いのではないでしょうか? かく言う私のTwitterでもこんな写真を投稿したことがあります。 新しい記事をお待ちいただいている方、申し訳ありません今のところ、酵母の世話で手一杯で自分のことは洗濯も買い物にも行けない状態です気長にお待ちいただければと思います pic.twitter.com/HDNK5OFajh— Nagi@ドイツでワイン醸造家 (@Gensyo) September 26, 2019 ...
Federweißer(フェーダーヴァイサー)ってなんだろう?
すでに一昨日、8月6日のことですが、ラインヘッセンでフェーダーヴァイサー用のブドウの収穫が始まった、というニュースが出ました。 ブドウの品種はソラリス。果汁糖度は90エクスレだったそうです。ちなみに90エクスレ、という表現は日本では馴染みが薄いかもしれませんが、おおよそで言えば20Brix強というくらいの糖度ですので、相当甘くなっていたことになります。 ソラリスという品種は早熟の品種として知られていますが、それでもこの時期にこれほど糖度が上がることは通常無いことです。 まだ8月上旬といっていいこの時期にブ ...
発酵について語ろう
今までに発酵を実質的に引き起こしている存在である酵母などについてはお話をしてきましたが、発酵それ自体については説明をしたことがなかったので、この機会に改めて発酵というものについて書いてみたいと思います。 発酵のメカニズム 上記の関連記事でも書いたとおり、発酵とは糖からアルコールと二酸化炭素を作り出す反応であり、その反応は酵母によって引き起こされます。ワイン造りにおいて酵母が必須、と言われる所以はここにあります。 どれだけ品質のいいブドウを造ろうと、醸造過程において酵母が介在しなければワインは絶対に造ること ...
ワインと酸と乳酸菌 | MLFを知る
ワインにとって酸は欠かせない要素です。 ただ、酸は多すぎても少なすぎてもダメ。全体とのバランスがとても大事です。 ワインには複数の酸が含まれていますが、ワイン造りの視点から見て特に重要なのは酒石酸とリンゴ酸です。この2つの酸はワインに含まれている酸の中でも特に量が多く、ワインの持つ酸味にも強く影響を与えています。 ワインと酸 | ワインの有機酸を考える3つの視点 https://nagiswine.com/acid-01/ ワイン造りの過程で味を調整するために酸味のバランスを取ろうとするとき、多くの場合は ...
ノンアルコールワインの造り方 | ワインがワインであるために
さて皆さんはワインが と呼ばれる場面に出会った経験はあるでしょうか? この呼び方が世界共通のものかどうかは残念ながらわかりません。しかし少なくとも筆者はドイツでワインの教育を受けている期間、何度かワインをこう表現する場面に出会いました。 発酵させたぶどうジュース。なんとも言い得て妙な呼び方です。 個人的にはとても好きな呼び方で、時々使ってもいました。しかし最近ではこの呼び方をすると、ワインではない、別の製品カテゴリーのことだと思われることが増えてきました。 "ノンアルコールワイン" です。 ノンアルコール ...
ワインの味と酸の関係 | ワインを丸くする2つの方法
ワインにとって欠かすことのできない、とても大事な要素の1つが酸です。 国や地域、ブドウの品種を問わず、美味しいワインには必ずと言っていいほどそれなりの量の酸が含まれています。逆に酸がたりないワインではそれがどんなに有名な産地のワインであったとしても高い評価を得ることは難しくなります。ワインの味の中心は糖分と酸とアルコールのバランスで形作られているといえます。 またワイン含まれる酸の量はワインの熟成に対しても少なくない影響を与えます。このため、いいワインであればあるほどそこに含まれている酸の量が重要になるの ...
Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#13 | 自然派ワインの真実
https://youtu.be/Z-SccwUyehI 聞き手: ヒマワイン (ワインブロガー) Twitter: https://twitter.com/hima_wine サイト: ヒマだしワインのむ。 話し手: Nagi (醸造家) Twitter: https://twitter.com/Gensyo Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。 ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについて語り合うオンライン企画、"N ...
Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#1 | いいワインとはなにか
https://youtu.be/Tybv0uQkHAE 聞き手: ヒマワイン (ワインブロガー) Twitter: https://twitter.com/hima_wine サイト: ヒマだしワインのむ。 話し手: Nagi (醸造家) Twitter: https://twitter.com/Gensyo Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。 ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについて語り合うオンライン企画、"N ...
Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#5 | 気候変動とワインの未来
https://youtu.be/zmiYlbO4pb4 聞き手: ヒマワイン (ワインブロガー) Twitter: https://twitter.com/hima_wine サイト: ヒマだしワインのむ。 話し手: Nagi (醸造家) Twitter: https://twitter.com/Gensyo Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。 ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについて語り合うオンライン企画、"N ...
Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#26 | アイスワイン
https://www.youtube.com/watch?v=W10iU7sxgR0 聞き手: ヒマワイン (ワインブロガー) Twitter: https://twitter.com/hima_wine サイト: ヒマだしワインのむ。 話し手: Nagi (醸造家) Twitter: https://twitter.com/Gensyo Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。 ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについ ...
Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#6 | ワインと添加物
https://youtu.be/3vpP23Xs-YU 聞き手: ヒマワイン (ワインブロガー) Twitter: https://twitter.com/hima_wine サイト: ヒマだしワインのむ。 話し手: Nagi (醸造家) Twitter: https://twitter.com/Gensyo Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。 ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについて語り合うオンライン企画、"N ...
Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#4 | ワインと有機栽培
https://youtu.be/e-9WqBsic_E 聞き手: ヒマワイン (ワインブロガー) Twitter: https://twitter.com/hima_wine サイト: ヒマだしワインのむ。 話し手: Nagi (醸造家) Twitter: https://twitter.com/Gensyo Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。 ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについて語り合うオンライン企画、"N ...