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白ブドウとの混醸がもたらす赤ワインの色への影響

04/18/2021

ワイン醸造の手法の1つに混醸 (co-fermentation) と呼ばれるものがあります。

混醸とは2種類、もしくはそれ以上の数の種類の異なるブドウ品種を同じ容器の中でまとめて醗酵させる醸造方法です。醗酵が終わったワイン同士をプレンドする手法に対して醗酵前にブレンドしてしまうことが特徴です。

なお、フィールドブレンドは同じ畑の中に複数の品種のブドウを取り混ぜて栽培する、混植をさします。フィールドブレンドの畑で収穫されたブドウの醗酵は必ず混醸になりますが、混醸自体は別々の畑から収穫された異なる品種のブドウを混ぜて醗酵させる場合もありますので、混醸とフィールドブレンドは同じ意味ではないことにご注意ください。

ワインの混醸を行う理由は様々言われています。

そうした中でもよく聞くのが、黒ブドウと白ブドウを混醸することで赤ワインの色が安定する、というものです。

黒ブドウと白ブドウの混醸は北部ローヌで行われているシラーとヴィオニエの混醸が特に有名で、コート・ロティでは最大20%までヴィオニエを混植、混醸することが認められています。一部のワイン資格の教材ではこの混醸の理由もシラーの色を安定させるため、と書かれているようです。

混醸がもたらす影響は複数あるとされていますが、今回は特に「色味」に注目してその意味を検討します。

色への影響がなかった混醸 | 研究結果から

混醸の影響については複数の研究が異なるブドウ品種間の混醸に対して行われており、それぞれの研究で異なる結果が報告されています。この傾向はワインの色味に関する点で特に顕著で、このために混醸がワインの色味に与える影響を一概に断じることは困難です。

一方で、シラーとヴィオニエの混醸にのみ注目するのであれば、複数行われている研究の結果は一致しています

この2種類のブドウ品種の混醸のおいて、ヴィオニエの混合比率を複数振ってみてもシラーのみで醗酵させた場合と比較して色味への影響はなかったのです。むしろ、ヴィオニエの混合比率をあげた場合には色味が薄くなったとの報告がなされています。

つまり、少なくともRhôneにおけるシラーとヴィオニエの混醸のケースに限定して話をするのであれば、その目的がシラーの色味を「よくする」ことにあるとは言えません。

ワイン、特に赤ワインにおける色味の程度はワインに含まれるフェノール類、特にアントシアニン (Anthocyanin) の量に依存します。

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このため上記で紹介している各種研究でも色味の判断はワイン中に含まれるフェノール類の量でなされています。一方でワインの色味を安定させることにも同じくフェノール類が関与しています。

つまり、混醸したワイン中におけるフェノール類の組成や量に有意差が認められなかった上記の研究結果からは同様に、混醸が色味の「安定化」に対しても影響を持たなかったことを示唆していると言えます。

ではなぜワインメーカーたちは混醸の理由にワインの色味の改善もしくは安定化をあげるのでしょうか。

以下ではこの理由について、抽出、発色、安定化の3つの視点から混醸に期待される効果を考察していきます。

こちらの記事の続きはnote上にてサークルメンバー以外の方でもご覧いただけます。

赤ワインの色味に対する黒ブドウと白ブドウの混醸の効果を3つの視点から考える

アントシアニンの抽出量による色味の改善

赤ワインにおける色味の強度はそこに含まれるフェノール類、特にアントシアニンの量に依存します。これはつまり、アントシアニンの含有量が増えればそのワインの色がより濃くなることを意味しています。

アントシアニンはブドウの果皮に主に含まれていますので、より多くのアントシアニンを果皮から抽出できれば、より色の濃いワインが造れるわけです。

果皮からのフェノール類の抽出に影響する要素は複数ありますが、混醸の点から見てみるともっとも重要なのは果汁の凝縮度です。

フェノール類をはじめとした各種要素が果皮から果汁内に抽出されるためには果汁側にそれを受け入れるだけの余裕があることが前提となります。仮に果汁中に固形分が飽和するほど溶け込んでいる状態だとすると、加温等により飽和量を引き上げない限り、それ以上の固形分を果皮から溶出させることはできなくなります。

そして一般的に果汁中に含まれる抽出物量は赤ワイン用果汁の方が白ワイン用果汁よりも多くなります。

つまり、もともとの固形分濃度の高い黒ブドウの果汁中に固形分濃度の低い白ブドウの果汁を足すことにより果汁全体としての固形分の溶解度を引き下げ、それによって果皮からのさらなる抽出が可能となる可能性がります

一方で果皮からのさらなる抽出可能量に対して添加した溶媒の量 (ここでは白ブドウの果汁) が多かった場合には抽出効果よりも希釈効果が強く働くため、果汁全体の色味が薄くなることにつながります。これが前述の研究結果においてヴィオニエの添加量が多かったケースで色味が薄くなった原因だろうと推測されます。

低pH化による色味の改善

果汁のpH値もまたワインの色味にとって非常に重要な要素の1つです。

pH値の高低が果皮からのフェノール類の抽出量に影響することはありませんが、抽出されたアントシアニンの発色は果汁もしくはワインのpH値に強く影響されます。pHが3を下回っている場合には赤くなり、4を上回っている場合には色彩がなくなるからです。

果汁のpH値は果汁に含まれる酸量と直接関係するわけではありませんが、傾向として酸量の多い果汁ほどpHは低くなります。このため、赤ワイン用の果汁よりも白ワイン用の果汁の方がpHが低くなる傾向にあります。

つまり、赤ワイン用のpHが高めの果汁中にpHの低い白ワイン用の果汁を添加することで果汁全体のpHを引き下げ、アントシアニンの発色を改善できる可能性があります。

一方で熟度の高い白ワイン用ブドウの果汁におけるpH値が極端に低いということはありません。

このため数パーセント程度の混合によって果汁全体のpH値を引き下げられるかどうかについては疑問が残ります

copigmentationによる色味の変化

最近の研究によって色素のcopigmentationがワインの色味に強い影響力を及ぼしている可能性が示唆されています。

copigmentationとは発色性をもった分子に (多くの場合は無色の) 有機分子が結合することによってその構造と分子量を変えることをいいます。分子としての構造が変わるため、光の反射度や吸光度もまた影響を受ける結果、色味の発色性もまた変わるとされています。

混醸を行っているケースにおいては発色性を有するアントシアニンに無発色性のFlavonolが結合するケースが注目されています。

copigmentationとして結合したアントシアンには遊離型アントシアニンと比較してはるかに安定性が高くなるため、結果としてワイン中においてアントシアニンが無色化することなく残存し、発色性アントシアニン量が増加します。

またcopigmentation化したアントシアニンは構造変化を通してより多くの色味を提供するともされています。

ワイン中に含まれるアントシアニンの量及び発色性の改善により、混醸を通してcopigmentation化が促された赤ワインでは色味が良くなりかつその安定性も増すと考えられるのです。

タンニン結合による色味喪失のリスク減少

赤ワインの色味を安定化させる方法としてアントシアニン-アセトアルデヒド-タンニン結合 (Anthocyanin - acetaldehyde - Tannin) の促進が知られています。

この結合の促進も考え方としては上記のcopigmentationと同じです。

不安定な形状である遊離型のアントシアニンをアセトアルデヒドを介してタンニンと結合させることで安定化させ、発色性を保たせることを目的としています。

混醸においては外部、つまり白ワイン用果汁から未結合状態のフェノール類 (タンニン) を持ち込み赤ワイン用果汁中に存在するアントシアニンとの結合を促すことで色味の安定性を高めることが目的となります。

もっともアントシアニンとタンニンの結合は酸素を媒介する必要があるため、多くの場合は発酵後の熟成期間中に反応が進みます。このため必ずしも混醸がこの結合の促進に影響しているかどうかは判断が難しいところでもあります。

なお前述のcopigmentationにしてもこちらのアントシアニン - タンニン結合にしてもSO2を添加することで結合が分断され、色の喪失につながることが知られています。このSO2による色味の喪失については混醸によって改善されることはありません

今回のまとめ | 混醸によってもたらされる化学的、物理的変化と色味の関係

前述の通り、混醸についてはすでに世界中で多くの研究がなされています。ブドウ品種の組み合わせも多岐にわたっており、結果も様々です。

色味の点のみに注目してみても、色味の改善がなされたケースもあれば影響がなかったケース、なかにはネガティブに働いたケースも報告されています。

一方で混醸を通して果汁における溶解度が下がり抽出限界が引き上げられるという物理的な効果が見込めたり、pHの変化、分子結合の変化といった化学的な影響から色味が変わる可能性があることは上記の通りです。

ブドウに含まれるフェノール類の絶対量は年によっても場所によっても異なりますので必ずしも抽出限界量が引き上げられたからといってそれに合わせて抽出量が増えるとは限りませんし、同じ理由で化学的な結合状態に変化をもたらすことができるとは限りません。しかしこれとは逆のこともまたいえます。

混醸がワインの色味にどのような影響を及ぼすのか。この問いに単純な回答をすることはできません。

安易な回答をすることはできませんが、各種化学結合の促進する条件などを考える限りでは、少なくともワインの色味に対しては混醸はあまり大きな意味を持っているわけではないと考えることができるのではないでしょうか。

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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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