ワイン 品質管理

ワインボトルの保管方法 | 縦置きと横置き、どちらが正解なのか

03/05/2022

ワインを保管するときにおそらく誰もが一度は疑問に思うこと。それがボトルの置き方でしょう。

ワインのボトルは横置きにしなくてはいけないのか、縦置きにしてはいけないのか

少し調べてみると、コルクで密閉しているボトルに関してはコルクの乾燥を避けるために横置きにするべき、という説明を多く見かけます。一方でスクリューキャップのものやプラスチック系の樹脂を使った合成コルクを使用しているボトルでは乾燥による劣化が生じないので横置きの必要はないとされています。

こうした、ある意味における世の中の常識とも思われている保管方法に対して、2018年に大きな一石が投じられました。発言したのは世界最大のコルクメーカーであるAmorim (アモリム) 社の研究開発部門の責任者。内容は、コルクで密閉されたボトルを寝かして保管することには意味はなく、むしろ害になる可能性さえある、というものでした。

詳しく調べてみるとワインの保管方法やコルクに関して、意外な事実がたくさん見つかります。今回はそんな中から、保管時のワインの置き方についてみていきます。

注意

この記事では「コルク」の表記は特に断りがない限り、天然コルクのことをさしています

ボトルを縦置きしてもなぜコルクは乾燥しないのか

コルクを乾燥させないためにもボトルは横置きで保管しなければならない。これはワインの保管において非常によく言われることです。

一方で肝心のコルクメーカーの研究開発部門の責任者はそんな必要はない、単なる俗説だと切って捨てました。どういうことでしょうか。

この責任者によると、重要なのはボトル内の湿度です。

ワインの液面とボトルを密閉している栓との間のスペース、いわゆるヘッドスペース内の湿度は100%。そこからコルクに水分が供給されるのでコルクが乾燥するようなことはなく、わざわざボトルを横置きにする必要はない、というのが彼の意見です。

むしろボトルを寝かして保管することでコルクが常に液体に浸かった状態になると、コルクの細胞劣化を加速させ、密閉するために重要な柔軟性といったようなコルクの機能を損なわせるリスクが高くなるとしています。これはスポンジを長期間にわたって水につけてしまうと脆くなるのと似ています。

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コルクの構造と特徴

コルクは構造的に多くの空気を含んでいることが分かっています。この空気の層が緩衝材となることでコルク特有の柔軟性が保たれています。

これによく似ているのが「プチプチ」の名前でよく知られている、気泡緩衝材です。

気泡緩衝材はシート上に多くの気泡を作ることで非常に高い柔軟性を持っています。一方でこの気泡を潰してしまうと柔軟性はなくなり、体積もとても小さくなります。コルクも同じです。気泡を維持している細胞構造が壊れてしまうと空気が抜けて硬くなり、かつ体積が収縮してしまったりします

ワインのボトル内に入ってくる酸素の一定量は栓を透過するのではなく、栓とボトルが接触している界面を通過しているとも言われています。コルクの細胞が壊れて体積が収縮してしまうとこの界面を通過する空気の量が増えますし、最悪の場合は液漏れの原因となります。このためいかにコルクの柔軟性を維持するのかがコルクを使ったワインボトルを保管するうえでは重要となります。

縦置きでもコルクは濡れる

そうはいっても縦置きはやっぱり不安。そう思ったとしても不思議ではありません。

しかし、現実にはボトルを縦置きで保管してもコルクが濡れることがすでに実証されています

今のところ少なくとも筆者が調べた範囲では横置きの場合と縦置きの場合とでコルクの湿潤度を数値的に測定しているレポートは目にしていません。一方で一部のレポートでは目視での確認により、コルクへの液体の浸透具合を測定しその状態が報告されています。その報告によれば、縦置き保管していたボトルのコルクでも横置きの場合と多少の差はあるものの、やはりコルクへの液体の浸透が確認されたのです。

これは理由はともかくとしても、縦置きでもコルクに水分が供給されている証明であり、同時に縦置きしてもコルクは乾燥から守られていることの証明ともいえます。

ボトルを寝かして保管してはダメなのか

Amorim社の開発部門の責任者はボトルを寝かして保管することがコルクの劣化を加速させる可能性を指摘しています。これをもってワインのボトルを寝かして保存することがダメなのかといえば、ワインの「酸化」という点だけに関してみてみると、必ずしもそうとはいえません。

ワインボトルを寝かして保管しても立てて保管しても、少なくとも5年程度の保管期間では酸化の傾向に差があるとは確認されていないからです。

ここで厄介なのは、差がある、とも、差はない、とも現状では断言できない点です。

これまでにされている報告では横置きの場合と縦置きの場合とで一部の数値に差が出ることが分かっています。しかしそれは明確なほど大きなものではなく、傾向として出やすいように思われる、という程度のものに留まっています。

またワインの酸化の状態を測る指標としてよく使用されている遊離型SO₂および総SO₂の含有量の推移に関していえば、横置きでも縦置きでも少なくとも5年間の保管期間では差が見られませんでした。

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コルクが乾燥するのを防止するために寝かして保管しなければいけない、というのは、要は酸化防止の視点です。コルクが乾燥してしまうとそれが原因でボトル内に空気と一緒に酸素が入ってしまう。そしてその酸素が原因となってワインが劣化 (酸化) してしまう。だから、コルクを乾燥させてはいけない。そういう話です。

寝かして保管しても立てて保管してもワインの酸化を示す各項目にほぼ差がない以上は、保管方法はどちらでもいい、というのが1つの答えといえるかもしれません。

一方で酸化以外の点に目を向けると話は少し変わってきます。

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コルクは香りを奪って与える

コルク栓はワインのボトルの密閉用途のほかにもよく使われています。そうした中で、何か香りの強いものを保管していた容器のコルク栓から保存していたものの香りを感じたことはないでしょうか。

体験的には知っていてもあまり意識したことがないかもしれませんが、コルクは一部の香りを吸着する特徴を持っています。またこれとは逆に、コルクについていた香りが保存した対象に移る場合があります。これはTCA、もしくはブショネとして知られるワインの欠陥臭を考えてみていただけば分かりやすいと思います。

ワインがカビ臭いと思ったら | ブショネとTCA

コルクは香りを媒介するのです。

またコルクは木製品です。ここで思い出していただきたいのがワインの熟成容器として有名な木樽です。木樽は香りやフェノール類をワインに移します。実はこれと同じことがコルクとワインの間でも起きていることが最近の研究で分かってきています。

つまりコルクはワインの味と香りを変化させる可能性があります。そしてその特徴はコルクとワインが直接、接触した際により大きく発揮されます。

仮にコルクとワインの直接的な接触がなくてもコルクはワインの香りを吸着する可能性があることに加え、TCAのような香りをワインに付加し得ます。しかし実際に接触しているかどうかでその程度と内容が変わります。

ワインの味や香りにコルクの影響を与えたくないのであれば、ワインとコルクが直接接触しない縦置きでの保存の方が適しているといえるのです。

ボトルの外の香りはワインに移るのか

コルクとワインが接触することでコルクが元々持っていた香りや味がワインに付加されたり、ワインの香りがコルクに取られてしまう可能性があることは分かりました。では、ボトルの外側にある香りまでコルクはワインに伝えるのでしょうか。

答えは、可能性は否定できない、です。

検証された実験の結果からは、少なくとも合成コルクはボトルの外にある香りが栓を透過してボトルの中のワインに移ることが明確になっています。一方で天然コルクではボトル内のワインへの香りの移行は確認されませんでした。

確かにワインへの影響は確認されませんでしたが、コルクへの香りの吸着と浸透は確認されています。吸着量はコルクの表層部が最も多く、中層部でも量はかなり少ないものの吸着された香り成分が検出されています。

この浸透がボトル外に存在する香り成分の種類や量、コルクとの接触時間によってさらに進行し、最終的にワインまで到達する可能性は否定できません。

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今回のまとめ | ワインは結局どう保管するのがいいのか

まず何よりも重要なのが、保管場所の温度です。大抵の化学反応は温度が高くなると反応速度も速くなります。ワインもこれと一緒です。温度が高いところに保管されるとそれだけで劣化も熟成も早くなります。

直射日光に関してはワイン用ボトルに使われているガラスの多くはUVカット仕様になってはいますが、日が当たることでワインの温度を上げる原因にはなりますのでやはり避ける必要があります。

コルクがボトルの外部からの要因によっては乾燥しないという前提に立つのであれば、湿度はあまり気にする必要はないことになります。もっともボトルの外があまりに乾燥しているとコルクを伝ってより多くの水分がボトルの中から抜けてしまう可能性は否定できません。

ちなみに酸素がない環境でも温度が高い場所に保管しているとそれだけでワインの劣化が早くなることが分かっています。重要なのは酸素の有無よりも温度です。

ワインの熟成や劣化に極めて大きな影響を及ぼす要因は栓の種類、そしてヘッドスペース内の酸素量です。しかしこれはどちらも消費者にはコントロールできません。つまり自分が買ったワインを保管するうえでは考えても仕方のない部分です。

3つの視点から捉える振動の影響 | 振動はワインをどう変えるのか

一般にワインの保管に適した温度は15℃前後といわれます。この温度範囲で常に安定していること。それがワインを保管するうえで最も重要です。

ボトルの置き方は5年程度の保管であれば縦でも横でも構いませんが、より長期間での保管を考えていたり、ワインの持つ香りや味に気を使いたいときにはコルクの影響を考慮して立てて保管する方がよさそうです。

なおコルク以外のスクリューキャップなどでも一部の香りの吸着は確認されています。このため、スクリューキャップだからどう保管してもいい、とはいえません。

現状の検証結果を見る限り、大事なワインは使っている栓の種類に関わらず、日の当たらない常に一定で涼しい場所に立てて保管することが推奨される、と結論できそうです。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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