品質管理

ワインの量と品質の関係 | 液面の高さは何を語るのか

02/20/2022

ワイン、なかでも古酒と呼ばれる、造られてから十数年、長ければ数十年を経たワインではその品質管理の基準の1つに「液面の高さ」が取り入れられていることがあります。

インポーターさんや業者さんの中には独自に液面の高さをチェックして、規定の範囲よりも液面が低い場合には出荷しない、と決めていらっしゃる場合もあるようです。ワインをお好きな方々が集まるワイン会でももしかしたら「このボトルは液面が下がっている」なんて話を耳にするかもしれません。

この「液面が低い」話の特徴は、このセリフが出た場合は十中八九、そのボトルの品質劣化が疑われていることです。このセリフが聞こえてきて、その後に「だから品質は最高に違いない!」となることはまずありません。

では、なぜ液面が低いとワインの品質まで低いと思われているのでしょうか。ワインの液面と品質の関係について解説していきます。

ワインの液面を測る

液面の高さの話をするのであれば、まずは液面の高さが測れる必要があります。「液面の高さ」を測る方法は簡単です。

まずボトルを水平な場所に立てて置きます。次にボトルの一番高い場所、注ぎ口の先端からワインの水面までの長さを測ります。この時に注意したいのが、測り始めの場所をきちんとボトルの先端にすること。ボトルに挿さっているコルクの下やスクリューキャップの下から測ってはいけません。

もし上から測るとボトルの形が変わって測りにくければ、ボトルの底からワインの液面までの高さを測って、ボトル全体の長さから差し引いても問題ありません。大事なのは、ヘッドスペースと呼ばれる、ボトル内の「空の部分」の長さを知ることです。

ワインの「液面が高い / 低い」という指摘は、同時に「ヘッドスペースが大きい / 小さい」という指摘であり、要は「ボトルに入っているワインの量が多い / 少ない」という指摘でもあります。

ワインの液面が高いとヘッドスペースは小さくなり、ワインの量は多くなります。逆に液面が低いとヘッドスペースが大きくなり、ワインの量は少なくなります。

ワインの量が少ないなんて、大問題?!

ボトル内の液面が低いと、そのボトルに入っているワインの量は少なくなります。同じ値段で買っているのにワインの量が少ないなんて大問題。そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。

そんなけち臭いこと思わないよ、と思われるかもしれません。でもこれ、現実にあるお話です。ワイナリーで働いていると2~3年に1度くらい、こうしたクレームをいただきます。

確かに内容量の管理もモノを作る上では重要な品質管理の項目です。仮にボトルに充填したワインを並べたらその時点ですでに液面が明らかに揃っていないようであれば、そのワイナリーはボトリングの作業手順、設定項目を見直した方がいいでしょう。

一方でこうした充填量の誤差による指摘はワインの味や香りに関わる部分ではありません。では液面の高さはワインの味や香りには影響しないのか。そんなことは残念ながら、ありません。大きく影響します。ただし、影響するのは厳密には液面の高さではありません。ヘッドスペースの量、より具体的に言えば、そこに含まれる酸素の量です。

液面が下がると品質も下がるのか

最近、ワインバーなどでCORAVIN (コラヴァン) と呼ばれる道具が使われているケースを多く見かけるようになりました。CORAVINはボトルに針を差し込むことでコルクなどの栓を抜かないままボトルからワインを抜き出し、抜き出したワインと同じ量のガス (窒素やアルゴン) をボトルに入れることでボトル内に酸素を入れさせず、ワインの劣化を防止できることを謳っています。

通常、ボトルからワインを出すとその分、液面が下がります。液面が下がる分量だけ増えたヘッドスペースに入り込んでくるのが、酸素が含まれた空気です。CORAVINが画期的とされるのは、そもそも栓を開けず、さらにワインが抜けて増えたヘッドスペースに酸素を含まないガスを充填している点です。

要は、酸素が入らないのでワインの液面がどれだけ下がろうとワインは劣化しない、という理屈です。冒頭の古酒のボトルで液面が下がっているので品質も下がっているだろうと考えられている理由は、この逆です。液面が下がってその分ヘッドスペースが増え、増えたヘッドスペースに酸素を含む空気が入り込んだはずなのでワインが劣化しただろう、と考えられているわけです。

ワインの熟成と劣化に関わる酸素

酸素は一般的にワインの熟成と劣化に重要な役割を担っているとされています。適度な量の酸素はワインを熟成させ、過度な量の酸素はワインを劣化させるといわれています。

古酒は長い年月の中で熟成してきているので、そこに液面が下がってさらに酸素が入り込むと熟成を通り越して劣化させてしまうはず。それが古酒に対して液面の低さがいつでもネガティブに考えられる理由です。

液面問題は熟成ボトルだけのものなのか

ワインボトルの液面問題はそのほとんどが長い熟成期間を経たボトルでだけ語られています。では造られたばかりの若いボトルであれば液面の高さは気にしなくていいのか。実はそんなことはありません。

酸素にとって、ワインの若い、若くないは問題ではありません。そこにワインがあれば、酸素はそれがどんなワインであっても等しく熟成させ、劣化させます。

ワインを変化させるのはコルクではなくヘッドスペース

ワインボトルを密閉しているコルクは呼吸をするので長い年月をかけてワインを熟成させる。

こんな話を聞いたことがある人は少なくないのではないかと思います。これが本当なのかどうかはここでは議論しません。それよりも重要な指摘があります。

ワインの重要な変化の大部分は、ボトリング後2ヶ月から6か月の間で生じています。そしてその変化にコルクかスクリューキャップかは関係していません。

関わっているのはヘッドスペースの量とそこに含まれる酸素の量です。

酸素の透過量が大きいとされるコルクであってもヘッドスペースが小さく酸素量が少なければワインの変化量は少なくなります。一方で酸素を通さないとされるスクリューキャップであってもヘッドスペースが大きく含まれる酸素の量が多ければワインの変化量は極めて大きくなります。つまりワインボトルを閉める栓がワインを熟成させるのではなく、ワインを充填した際のヘッドスペースの量とそこに含まれる酸素の量がワインを熟成させるのです。

あるレポートではボトリング後およそ8か月でヘッドスペース内だけではなく、ワイン中に溶け込んでいる溶存酸素量もほぼゼロになり、その後はごくごく微量の酸素がワインに影響を与えることが示されています。興味深い点は、ボトリング直後の酸素量の多寡にかかわりなく、8か月後には値がほぼゼロになっている点です。

これはワインはそこに酸素があればあるだけ消費すること、そして酸素による変化の大部分は最初の8か月程度ですでに終わっていることを示唆しています。

赤ワインで特に注意したい液面の低さ

ワインをボトルに充填する際、液面の高さをどれくらいにするかはワイナリー側が設定できます。ならワイナリーは液面を高くすればいいと思われるかもしれませんが、それほど簡単なことではありません。液面を高くし過ぎると、今度は液漏れのリスクが高くなるからです。

液体は温度によって体積が変わります。また水分が蒸発するとボトル内のガス圧が高くなります。ボトルの液面が高すぎると、こうしたワインの状態の変化に対応できなくなり、ボトルからの液漏れが出てしまいます。ボトルから液漏れが出ると、そこに微生物が繁殖する可能性が高くなります。これは酸素による影響よりもはるかに大きな品質劣化のリスクを含みますので、ワイナリーとしては絶対に避けたい事態です。

そこで考えるのが、液面を下げてヘッドスペースを多少広くしてもそこに酸素を入れない方法です。つまり、CORAVINと同じことをワインの充填時にやろうというのです。

やり方はCORAVINと同じです。違うのはCORAVINではワインをボトルから抜くのに対して、充填時はボトルにワインを入れている点です。

CORAVINではワインが減った分のガスを入れますが、ボトリングでは充填時にボトル内に酸素よりも重い二酸化炭素や窒素を入れ、そこにワインを入れることでこれらのガスと一緒に酸素もボトルから押し出してしまいます。効率よくヘッドスペース内の酸素を減らせる方法ですが、この手法の難点は実施されたかどうかが見た目では分からない点です。この方法でボトリングされたボトルでは多少のヘッドスペースの大きさは無視できますが、実際にどうなのかはボトルを開けてみるまで分かりません。

傾向としてはフレッシュさをより重要視する白ワインの充填ではよく行われる一方で、還元的になることを嫌う赤ワインでは採用されないことが多い方法ですが絶対ではありません。とはいっても、もしも赤ワインのボトルで目立って液面が低いようであれば、少し注意した方がいいかもしれません。

液面調整はワイナリーの取れる戦略でもある

低い液面が必ずしも悪いとも言い切れません。酸素量の増加と伴うヘッドスペースの拡大はワインの熟成速度を速めます

これは古酒にとっては難点でしかありませんが、まだ若いワイン、それもタンニンをはじめとしたフェノールを多く含む赤ワインにはプラスに働きます。割合に早い段階で渋みが弱くなり、飲みやすくなるからです。

スペインやイタリアをはじめとした暖かい地域では、味が濃く、しっかりとした赤ワインをよく見かけます。中には強い渋みを伴うワインもあり、慣れていないと飲みにくいと感じる場合もあります。こうしたワインでは敢えて充填量を減らし、ヘッドスペースを幾分、広くとることで長い年月を待つことなく飲みやすいワインを消費者に届けることが出来ます。

ヘッドスペース内に入った酸素がどの程度の期間で消費しつくされるかはおおよそで分かっています。それ以降のワインの変化が今度は栓材のもつ酸素の透過性に基づくことも判明しています。つまり、そのワインの熟成に必要となる酸素量を予め測定し、それに近い量をヘッドスペース内に残したうえで酸素透過量の少ない種類の栓を使ってボトルを密閉すれば、数年、数十年と時間をかけずに狙った熟成状態のワインを提供できる可能性があるわけです。

今回のまとめ | ボトルの液面をどう捉えるべきなのか

ワインボトルの液面の高さはワインの状態を変える可能性があります。ただ一概に低いからダメ、としてしまうのも早計です。液面の高さは状態の変化として捉える必要があります。

仮に保管していたボトルの液面がボトルの購入時と比較して下がったのであれば、危険です。

液面が下がるということは、その分だけ水分がボトルの外に出ていった、ということでもあります。つまり、水分や空気が出入りできるだけの隙間がボトルと栓の間に存在している、ということです。栓とボトルが密着している部分が破損しているのかもしれませんし、コルクであれば組織が劣化してスカスカになってしまっているのかもしれません。

隙間があれば、そこから出入りするのは水分や空気だけとは限りません。空気中に漂っているなにがしかの微生物が空気と一緒にボトルの中に入ってしまっている可能性もあります。中にはすでに飲めない状態になってしまっている場合もあるでしょう。

一方で最初から液面が低いボトルでは話が少し変わります。ワイナリーが狙ってそうしている可能性があります。

ただ、こうしたボトルに込められたメッセージは多くの場合、早めに飲んでね、である可能性が高くなります。もしかしたらしっかり酸素を除去したうえでヘッドスペースを広めに充填しているだけかもしれませんが、そうしたボトルでは今度は長期に保管してもワインはほとんど変わりません。栓がスクリューキャップだったら猶更です。

酸素をしっかり抜いていて待ってもほぼ変わらないワインか、酸素がしっかり入っていて狙って普通よりも早く熟成させようとしているワインか。このどちらかであることの多いヘッドスペースの広いワインは、いずれにしても早めに開けて楽しむに越したことはありません

ワインが古いかどうかに関わらず、液面が「下がった」ワインには要注意しつつ、液面が「低い」だけのワインであれば間を置かずに楽しむようにする。ワインの液面はそうした楽しみ方の1つの基準とするのがいいように思います。

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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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