発酵 醸造

発酵途中の温度管理 | 液温を下げる

12/17/2018

白ワインの発酵は低温でする。

こんな話を聞いたことがある方、多いのではないでしょうか。ではなぜ白ワインは発酵を低温でするのでしょうか。赤ワインでは温度を下げなくてもいいのでしょうか。おそらくこうした疑問は多くの方が一度は持ったことがあると思います。

ワイン造りにおける温度管理の理由や影響はいろいろな要素と密接に関わり合っていて複雑です。温度を上げたり下げたりすると同時発生的にあっちにもこっちにも影響が出ます。そうした影響の内容が、白ワインでは醸造過程で温度を下げることが多いのに赤ワインではあまりやらない理由にもつながっています。

この記事では温度を下げる行為に焦点をおいて、そこから生まれる影響や関係する要素を紐解いていきます。読み終わる頃にはきっと、ワイン造りは想像以上にロジカルなものだと感じてもらえることでしょう。

温度管理が必要な3つのタイミング

そもそもワイン醸造で必要になる温度管理とはなんなのでしょうか。

ワインを造る過程ではいくつかのタイミングで温度を気にしなければならない時があります。その中でも一番重要なのが、ブドウの果汁がアルコールを含んだワインに変わる過程、発酵のタイミングです。

単に発酵のタイミングといってもその中身は次の3つのタイミングに分かれています。

  • 発酵が始まる前
  • 発酵中
  • 発酵終了時

それぞれのタイミングで温度を下げる点に焦点を当てて見ていきます。

果汁の温度を下げる

ワインを発酵させていく工程で、温度を下げる最初のタイミングは収穫してきたブドウを圧搾して果汁を取り出したときに訪れます。ブドウを搾って得た果汁をまずは冷やすのです。

このタイミングで温度を下げる理由は2つ。

1つは搾った時に果汁に混ざってしまっている不純物を効率的に取り除くため。もう1つは果汁を発酵させないためです。

発酵が始まる前のこのタイミングでは白ワインだけではなく、赤ワインでも果汁の温度を下げる場合があります。白ワインの場合は上記の両方の理由から、赤ワインでは2つ目の理由から果汁を冷やします。

これは白ワインはブドウを完全に圧搾して果汁と果皮を分けているため、果汁に混ざった固形物を取り除きたいのに対して、赤ワインはマセレーションと呼ばれる果汁と果皮や種をまだ一緒にしている状態にあるからです。果汁に含まれている不要な固形物は一般に温度を冷やした方が沈殿しやすくなります。このため果汁をきれいな状態にして発酵工程に進みたい白ワインでは果汁の温度を下げてあげるのです。

ちなみに赤ワイン用の黒ブドウ系ブドウ品種を使っていてもロゼワインやブラン・ド・ノワール (Blanc de Noirs) のようにマセレーションを行わないで発酵させる場合には白ワインと同様に果汁を冷やして固形物を取り除いています。

ブドウの果汁は糖分が高いので常温で放っておくとすぐに発酵が始まってしまいます。しかし果汁をきれいにしていたり、漬け込んだ果皮や種から成分を抽出したいという時に発酵が始まってしまうと何かと都合がよくありません。果汁の温度を冷やすことはこうした発酵の開始を遅らせるのにも効果的です。

赤ワインでは果皮から色や渋みの元になるフェノール類を取り出すために発酵工程全体で管理温度を高めにしていますが、発酵前の抽出時点では発酵開始を避けるためにやはり果汁の液温を冷やしています。

なおこの時に温度を下げ過ぎると発酵は始まりませんが、抽出の効率が下がってしまい逆効果となる場合もあります。

低温発酵の持つ2つの意味

低温発酵。ワイン醸造に限らず最近は日常生活でも耳にする機会の増えた言葉ではないでしょうか。

低温発酵とは文字通り、温度を低く保ったまま発酵させることです。ワインでいえば、発酵している最中の果汁の液温を低く保ちます。

ワイン造りにおける発酵は果汁の中で酵母が活発に動いて、果汁に含まれる糖分をアルコールと二酸化炭素ガスに変えていく行為です。この時酵母は、糖分に含まれるカロリーを消費しています。人間でも運動をしたりしてカロリーを大量に消費すると熱を発します。酵母も同じで、大量の糖分をアルコールに代謝していく時には熱を出します

徹底解説 | ワイン酵母のキホンのキ

この熱によって発酵中の果汁の温度は上がります。発酵のピークでは何もしなければ液温は10℃前後上昇します。

低温発酵ではこの時に果汁を冷やし、液温が上がらないようにして発酵させます。

発酵時の温度を低く保つ意味は2つです。

1つめは発酵のスピードを下げること。そしてもう1つが繊細な味や香りの獲得です。

発酵の速度と温度の関係

発酵の速度と発酵時の発熱量は比例の関係です。

発酵が進む速度が速くなれば発熱量は増えますし、速度が遅くなると発熱量は減ります。

液温を下げる目的の1つは、液温を下げることで発酵の速度を遅くすることです。発酵の速度が遅くなれば酵母の活動量も下がるため、発熱量が減り液温も上がりにくくなります。発酵時の液温を下げる行為は、直接果汁の温度を下げているだけではなく、果汁の温度が上がる原因を取り除くことで間接的にも液温を引き下げているのです。

発酵で非常に困るのが、発酵の速度や温度をコントロールできなくなることです。発酵の速度が遅すぎることは問題ですが、逆に速すぎることもまた問題となります。

こうした発酵の暴走は上がり過ぎた温度を背景に速くなり過ぎた発酵速度が原因で起こります。発酵の速度が上がり始めるきっかけは温度なので、まずは温度を管理することでその先にある発酵の速度を管理するのです。

揮発をおさえて繊細な味や香りを表現する

ワイン造りではブドウの果汁が発酵の過程を通してアルコールと一緒に様々な味や香りを得ています。あまりに高い温度で発酵してしまうと、こうした味や香りが損なわれてしまいます。低温発酵の目的の1つが、こうしたことの回避です。

ブドウ果汁に含まれる糖分が酵母の代謝を通してアルコールに変わっていく際には、様々な成分が生じます。そうした中には揮発温度が極端に低いものが含まれています。

香りの種類とその区分

また発酵中の果汁からはたくさんの炭酸ガスが発生します。果汁が発酵している間は液面が常にブクブクと泡がはじけていて、泡が始めるたびに香りがします。つまり、泡と一緒になって香りが飛んで行ってしまっています。

揮発温度の低い成分は、発酵中の温度が高い状態だとどんどんワインから出ていきます。発生している泡の量が多い場合も同じです。

一方でこれらの問題は温度を下げれば両方とも解決します。温度を下げれば揮発しなくなりますし、発酵の速度が下がって泡の出る量が減るからです。

白は低く、赤は高いその理由

発酵の温度は白ワインは低めに、赤ワインはそれよりわずかに高めに管理しています。白ワインの発酵時の管理温度は14~18度程度、赤ワインでは20~25度程度です。

こうした温度差がある理由はいくつかありますが、簡単にいってしまえば抽出の有無の違いです。

よく白ワインの方が香りが繊細なため低温で発酵をする必要があると言われます。確かに白ワインは赤ワインと違ってタンニンや樽からくる味や香りによるマスクがないため繊細な香りをより感じやすくはあります。しかし、もともとのブドウの状態で比較すれば香りの繊細さに違いはありません。

赤ワインが高めの温度で発酵を行うのは、発酵中に同時に果皮に含まれる成分の抽出をする必要があるからです。

果皮からの抽出は温度が高い方が効率的に行えます。このために赤ワインの発酵温度は白ワインのそれよりも高いのです。ですので、カーボニックマセレーションのように発酵前に十分な抽出をしている場合には発酵温度は白ワインと同じように低温で管理して問題ありません。

カーボニックマセレーションという醸造手法

なお赤ワインの発酵温度を高くする理由をもう1つ、強いてあげるとすると残糖管理が挙げられます。

赤ワインは一般的に残糖をほとんど残さずに仕上げます。同じ辛口であっても白ワインの辛口よりも赤ワインの辛口の方が残糖量が少ないことはよくあります。発酵の速度を下げてしまうと、酵母の活力が下がっているために勢いがなく、最後の数グラムの糖を消費しきれない場合があるのです。

このため、赤ワインでは発酵時の温度を若干高めにすることで発酵に勢いを持たせ、一気に果汁内の糖分を消費してしまうようにしているのです。

発酵を止めるための温度管理

発酵に関する温度管理の最後のタイミングは発酵を止める時です。

赤ワインの例でみたように辛口に仕上げたい場合には発酵に勢いが必要です。こうした際には人為的に発酵を止める必要はなく、温度管理も必要ありません。このタイミングで温度管理が必要になるのは、甘口のワインを造りたいときです。

発酵について語ろう

ブドウの果汁が酵母の力で発酵してワインになる過程では、果汁に含まれる糖分が消費されています。

一方で甘口のワインは基本的には果汁に含まれる糖分の一部を発酵させずに残すことで造られています。つまり、甘口ワインを造りたいときには酵母が果汁の中のすべての糖分を使ってしまっては都合が悪いのです。そこでワインを甘いままにするために、適切なタイミングで酵母の動きを止める必要があります。

そのための方法の1つが、温度を極端に下げることです。

酵母は微生物ですので、ヒトと同じで活動しやすい温度というものがあります。多少温度が低いくらいであれば動作は鈍くなりますがまだ動けます。これが白ワインの発酵温度帯です。一方でそれを大きく下回るところまで温度が下がると、完全に活動できなくなります。寒い冬の間に動物が冬眠するのと同じく酵母も冬眠に入るのです。

冬眠中の酵母は代謝が著しく下がり、ほとんど糖分を消費しません。これによって発酵が止まり、ワインは甘いままとなるのです。

こぼれ話 | 甘口ワインの醸造では再発酵を防止する

温度を極端にさげることで酵母は冬眠に入り、発酵が止まります。

しかし春が来れば冬眠していた動物たちが目を覚まして再度活動を始めるように、液温が上がれば酵母も活動を再開します。そうすると発酵もまた、再開します。

発酵が止まってしまったら | 再発酵の方法を考える

ワインを甘いままにするために発酵を止めたのに、また発酵が始まってしまっては困ります。そこで甘口ワインの醸造では再発酵を防止しておく必要があります。

再発酵を防止する方法は比較的簡単です。発酵には必ず酵母が関わりますので、酵母が存在しなければ再発酵も始まりようがありません。つまり、ワインの中に生きた酵母がいなければいいのです。

再発酵を防止する方法は主に2つです。

二酸化硫黄を添加して酵母を不活性化するか、ろ過して酵母を取り除きます。

二酸化硫黄、正しく理解していますか? 1

品質管理のキホンのキ | 二酸化硫黄の使い方

まずは発酵を中断してワインを甘い状態で止め、酵母を取り除いて再発酵を防止したらはじめて甘口ワインが完成します。

今回のまとめ | 温度管理の重要性を知る

温度管理はワイン造りのいろいろなシーンで行われています。それは温度を下げるだけではなく、上げる場合も同様です。

発酵途中の温度管理 | 液温を上げるタイミングとその温度

温度管理を通してワインに持たせたい味や香りをある程度コントロールすることが出来ます。また醸造中の温度はワインの品質にも影響します。そういった意味で、温度管理はとても重要な作業です。

一方で温度を厳密に管理することは困難です。

タンクの中の果汁やワインは外部の気温や室温の影響を受けますし、発酵中には酵母による発熱量の変化に加え、タンク内での対流などでも変動します。タンクの加温・冷却方法によっては温度の変化までに大きなタイムラグが出てしまうこともあります。なによりのタンクの冷却はとてもコストがかかります。

最近はタンクの内部に無線式の温度センサーを設置してリアルタイムに温度変化をモニターできるような装置も出てきていますが、ワインの衛生面を考えればこうした器材をタンク内に入れることには不安もあります。

余程の装置を整えられなければレスポンスよく、かつ精密に温度を管理することは出来ません。こうした現実を踏まえつつ、どのタイミングでどの程度の温度帯で管理すればいいのかを知っておくことが大事です。まずは知ること。続いて出来る範囲で実践すること。最終的には実現可能な範囲内で最大のパフォーマンスを出すこと。

温度を管理するだけで、ワインの味は変わります。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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