品質管理

品質管理のキホンのキ | 二酸化硫黄の使い方

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ワイン醸造における品質管理を考える際にもっとも基本となることは亜硫酸の添加です。

この亜硫酸、亜硫酸塩、酸化防止剤などともラベル上で記載されています。亜硫酸と亜硫酸塩とでは厳密には異なる物質を指しているのですが、基本的には二酸化硫黄 (Sulfur Dioxide: SO2) と表記される物質を意味しています。

筆者が日々の仕事をしていく上ではSO2の表現が最も一般的であり、慣れているためこの記事での表記は"SO2 (亜硫酸) "に統一しています。(純粋な物質として二酸化硫黄 (SO2) を指している場合には表記は”SO2”としています)

 

SO2 (亜硫酸) はワインの品質管理において非常に重要な役割を果たしています。

今回はこのSO2 (亜硫酸) の果たす役割と、その使い方についてです。

 

嫌われるSO2 (亜硫酸) の添加

最近のワインシーンにおけるトレンドは「ナチュラルワイン」もしくは「自然派ワイン」であることは疑いがありません。

ナチュラルワインもしくは自然派ワインという商品カテゴリーに関してはいまだに公式な定義はなされていません。その一方で世界的に有名なワイン雑誌「Decanter」による定義があるなど、世間一般では徐々にその概要が固まりつつあります。

ナチュラルワインの定義に関しては「ナチュラルワインは甘くないんじゃなかったんですか? 其の壱」という記事でまとめています。

ナチュラルワインは甘くないんじゃなかったんですか? 其の壱

先日書いた二酸化硫黄を添加しないワインの作り方の記事について、大変ありがたいことにご質問をいただきましたので、今回はそのご質問にお答えする形でもう少し具体的に二酸化硫黄無添加ワインの作り方についてみて ...

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ナチュラルワインの定義としては、SO2 (亜硫酸) の添加は可能な限り低く抑えることが求められていますが使用自体が否定はされていません

その一方でSO2 (亜硫酸) がアレルゲンであることなどもあり、自然派ワインを愛する方々からはそれが飲み手であっても造り手であってもSO2 (亜硫酸) は蛇蝎のごとく嫌われ、使用が避けられる傾向が強くなっています。

 

もちろんそのワインの製造者が自分の意志と決断をもってSO2 (亜硫酸) の使用を否定すること自体は自由ですのでそのことを云々することはありませんが、このSO2 (亜硫酸) を毛嫌いする風潮がワインの品質管理を難しくしていることは間違いがありません

 

SO2 (亜硫酸) の担う役割

SO2 (亜硫酸) というものがワインの品質管理において果たしている役割については「二酸化硫黄、正しく理解していますか?」と題した記事のシリーズにて詳しく解説をしています。

 

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重要なことなのでもう一度整理しておくと、SO2 (亜硫酸) の役割は以下のような内容にまとめることができます。

 

ポイント

  1. 微生物の活動の抑制
  2. 酸化防止
  3. 酵素の抑制
  4. 味への影響

 

この物質が果たしている複数の役割の中でもワインの品質管理によって特に重要なのが、上記の1.の働き、つまり微生物の活動の抑制です。

 

微生物の抑制=衛生管理。必要とされるSO2の量は?

微生物の活動を抑制するということは、そのままワインの衛生状態を良好に保つという意味でもあります。

衛生状態の良し悪しはそのまま品質に直結しますので、衛生管理が品質管理上最も重要、ということも簡単に理解していただけるのではないでしょうか。

 

一方でSO2 (亜硫酸) が人体にとって有害物質であることは紛れもない事実です。

このため自然派かどうかに拘らず醸造家は一般的にその使用量は極力抑えたいと考えますし、ワインの味や香りへの影響を考えても抑えられるところは抑えるべきです。

では具体的にどの程度のSO2 (亜硫酸) の濃度があれば微生物の活動抑制に対して十分な量が添加されている、と考えることが出来るのでしょうか?

 

SO2の必要添加量

  • バクテリアの活動抑制、殺菌
    • SO2: ~ 0.5 mg/l
    • SO2 + HSO3-: 10 ~ 30 mg/l
  • 野生酵母の活動抑制もしくは殺菌
    • SO2: 0.3 ~ 0.6 mg/l
    • SO2 + HSO3-: 3 ~ 50 mg/l
  • ワイン用酵母の活性抑制
    • SO2: ~ 2 mg/l
    • SO2 + HSO3-: 80 ~ 150 mg/l
  • ワイン用酵母の発酵抑制
    • SO2: ~ 4 mg/l
    • SO2 + HSO3-: 50 ~ 300 mg/l
  • ワイン用酵母の殺菌
    • SO2: > 8 mg/l
    • SO2 + HSO3-: 90 ~ 700 mg/l

※SO2耐性をもつ酵母の殺菌に対しては14 mg/l 以上のSO2を添加する必要がある

 

上記の表で必要な添加量を"SO2"と"SO2+HSO3-"の二種類で表記している理由は、添加された二酸化硫黄が微生物へ影響を及ぼすことができるのがイオン化していない状態、つまりSO2だけであるのに対して、ワイン中に添加されたSO2の大部分がイオン化されHSO3-の形で存在しているためです。

余談ですが、この辺りはどうしても化学の知識が必要になります。SO2?HSO3?イオン化?それはなに?という方はまずは基礎化学をおさらいされることをおすすめします。とりあえず必要とされる添加量を数字として知ってさえいればワインを造ることは可能ですが、それだと早晩、いろいろとワイン造りについて回る理屈を理解するのに苦労すると思います。

 

表中の必要添加量を見ていただければ一目瞭然ですが、SO2のみの場合に必要とされる添加量に対して、HSO3-が同時に存在する場合には必要添加量が数十倍以上に増えます

実際問題として1リットル中に700mgものSO2 (亜硫酸) を添加してしまいますと味も香りもひどいことになります

このためそれぞれの目的をSO2 (亜硫酸) の添加のみで実現しようとするのはあまり現実的な手法とは言えない部分もあります。また、SO2 (亜硫酸) の添加でしか実現できない点に関してはいかに添加した量を効率よく使用するのか、つまりイオン化させずに使用できるようにするのか、という点を考える必要があります。

 

SO2のイオン化はpH値に依存する

添加したSO2がどの程度SO2として存在できるかは添加する液体のpH値に極めて強く依存します。

上記のグラフは横軸にpH値を、縦軸に各物質の存在比率を示しています。

SO2がSO2として存在できるのはpH値でみて大体4.0程度までで、その後は全量がHSO3-もしくはSO3^2-として存在することになります。一方でワインのpH値は一般的に2.8~4.2程度です。この範囲における実際のSO2の存在量は以下のようになります。

 

pH / SO2 / HSO3-

2.8 / 9.67 / 90.32

3.3 / 3.27 / 96.71

3.8 / 1.06 / 98.86

4.2 / 0.42 / 99.38

※ SO2およびHSO3-の数値は%表記

 

pH値が0.5程度変わるだけでSO2の残存量が大きく変わることがお変わりいただけるかと思います。このため、いかにワインのpH値を低く保つことが出来るのかがSO2 (亜硫酸) の添加にも大きな影響を及ぼすのです。pH値を低く保つとはワインに含まれる酸量を多く保つ、ということです。

ブドウに含まれる酸量は生育期間中の気温や収穫時の熟度等に大きく影響されますので、どのタイミングでブドウを収穫するのかという判断はその後にSO2 (亜硫酸) をどの程度の量添加しなければならないのかという観点からも重要な判断となります。

 

SO2 (亜硫酸) はいつ添加するか

SO2 (亜硫酸) の添加にはいくつかのタイミングがあります。

 

  • 収穫時
  • プレス直後
  • 発酵後
  • 瓶詰め前

 

収穫後の添加に関しては収穫後すぐにプレスにかけるようであれば通常は必要とされません。しかし数時間単位でマセレーション (醸し) を行う場合や、高温環境下でブドウの輸送に時間がかかる場合などには粉末状のピロ亜硫酸カリウム (K2S2O5) をブドウの表面に直接振りかけるようにして添加します。

ここで量を多くかけ過ぎてしますと、その後の発酵に支障をきたしますので、量はごく少量で問題ありません

 

プレス直後の添加に関しては主に野生酵母による発酵の開始を抑制する目的に加えて、雑菌の繁殖を防止する目的で添加するものです。添加量はブドウの状態等にもよりますが、35 mg/l 程度となります。

発酵後の添加量は目的によって大きく異なります。甘口のワインであれば上記の表で提示した「酵母の不活性」や「酵母の殺菌」が必要となりますので、かなりの量のSO2 (亜硫酸) を添加する必要が生じます。一方で完全に発酵を完了した状態のものであれば酵母の不活性化などを考える必要がなくなりますので、安定化を目的として遊離型SO2を残す量を目安にして添加量を決定します。

 

瓶詰め前の添加は遊離型SO2の量がターゲットとしている量よりも少ない場合のみ行います。

ワインの種類や味にもよりますが、ボトリング時における遊離型SO2の量は25~40 mg/l 程度とされていますので、瓶詰め作業前に測定をして遊離型SO2の量がこれを下回る場合には追加で添加を行う必要があります。

 

実際のSO2 (亜硫酸) 添加を考えた場合の計算方法

上記でSO2 (亜硫酸) の添加量をいろいろと挙げてきましたが、具体的にどうしてそうなるのかをここで補完的に説明しておきたいと思います。

例えばpH値が3程度のワインで甘口のワインを造りたい場合の添加量を計算すると以下のようになります。

 

前提: 甘口のワイン醸造なので酵母の発酵活動を抑制し、発酵を止める必要がある

→ 必要となるSO2の量: ~ 4 mg/l

1. 実際の添加に際して有効なSO2としての残存量を求める

→ pH値が”3”なので、SO2の残存率は3%強 (前述の表を参照)

2. 4 mg のSO2を残すための添加量を逆算する

→ 4 mg / 3% = 約 133 mg/l の添加量が必要

 

上記の計算から、この場合に必要となる「SO2 (亜硫酸) の添加量」はおよそ133 mg/l です。実際に添加する際に使用するのが純粋なSO2であれば計算はここで終わりで良いのですが、仮にピロ亜硫酸カリウムなどを添加に使用する場合には、さらにSO2の含有量に応じた計算が必要になります。

仮にSO2の含有量が30%程度の試薬を使って添加を行う場合には、

 

133 mg / 30% = 約 443 mg

 

上記の計算に従い、実際の添加量はおよそ433 mg/l となります。

この試薬で5000リットルのタンクのワインを処理するのであれば、2165,000 mg/5000リットル、つまり約2.2 kgの添加を行う必要があるということです。

 

なおここで挙げている各種数値や計算値はあくまでも目安です。実際のSO2 (亜硫酸) の添加はブドウの健康状態やワインの状態を見ながら個別に判断していく必要があります

 

遊離型SO2とはなにか

上記の説明で何気なく書いていますが、ワインに添加されたSO2は結合型遊離型の2種類の状態で存在することになります。

結合型とはまさに他の物質と結合した状態にあるSO2のことを指し、遊離型SO2とはまだ他の物質と結合をしていない状態のSO2を指します。両者のうち酸化防止などに効果があるのは遊離型のもののみとなります。

 

仮に発酵後に多量のSO2 (亜硫酸) を添加していたとしても、ボトリング時に遊離型SO2がまったく存在しない状態だと瓶内における経年での酸化をまったく防止できないことになります。このため、SO2 (亜硫酸) の添加を行う際には遊離型SO2の量を意識することが極めて重要となります。

 

おまけ | ブドウのpH値が低いことはそれだけで微生物を抑制する

ブドウのpH値が低いとSO2のイオン化を抑制し、SO2をSO2としてより多く残存させることに役立ちますが、ブドウの果汁のpH値が低いと微生物が抑制される環境となります。このためそもそも抑制すべき微生物の活動量が低いので必要となるSO2 (亜硫酸) の添加量自体が少なく抑えられる、というメリットもあります。

 

ブドウ果汁の糖度と酸の量は反比例の関係にあるため、果汁糖度を高くしようとするとどうしても酸量は少なくなる傾向になりがちです。

しかし自然派ワイン造りを目指すのであれば特に言えることですが、収穫のタイミングを厳しく判断し、糖度と酸量のバランスを見極めて収穫を実行することがその後の醸造面におけるSO2 (亜硫酸) 添加量の要求値を引き下げることにつながります。こうした理論的なバックグラウンドに基づいてSO2 (亜硫酸) の添加量を下げることは単に人体に有害だからという、まるで判で押したかのような、一部が思考停止したかのような理屈にならない理屈でSO2 (亜硫酸) の添加量を下げるよりも遥かに納得できる理由だと思います。

 

ワイン醸造においてSO2 (亜硫酸) の添加は明確な理由を持って行われている行為です。

ですので、この行為を否定するには本来の理由を否定しうるだけの理由と証明をもって行うことが必要です。しかし、現状のSO2 (亜硫酸) 否定論はこのようなことを証明できるだけの裏付けがあるようには筆者には思えません。確かにSO2 (亜硫酸) は人体に対して有害になり得るものですが、それはあまりに多量に添加され、摂取された場合のことです。

 

舗装されていない道で水はけを良くするために敷かれた砂利を、足を取られて危ないからすべて撤去すべきだというのは正しいでしょうか?

SO2 (亜硫酸) の添加を安易な理屈で頭から否定することは、かえってワインの品質を落とし、健康被害を招くことに繋がりかねません。SO2 (亜硫酸) を否定する前に、ぜひ一度その辺りのことを考えてみていただきたいと思います。

 


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