醗酵

発酵が止まってしまったら | 再発酵の方法を考える

11/17/2020

ワインを造っていると、さまざまな問題に出くわします。何事もなく、造っている本人も驚くほどスムーズにすべてが終わる時もあれば、何かしらの問題が起きてそれを解決したらすぐさま次の問題が起きる、などという悪夢ような時もあります。

とはいっても、ブドウの果汁がワインになるための一番大事なステップであるワインの発酵段階におけるトラブルは実はそれほど多くありません。

もしかしたら微生物汚染という言葉をお聞きになったことがある方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれは厳密に言えば発酵の前後の時点で起きるもので、発酵段階ではまず発生しません。

ではこの時点において何が一番の問題かといえば、酵母の動きが止まることです。

酵母の動き (これを代謝といいます) が止まる、もしくは鈍くなると酵母の支配体制が崩れます。そうするとそれまで抑えつけられていた様々な連中が動き出し、それはもう、いろいろな問題を引き起こします。しかも酵母自身も多大なストレスを受けて害になる行動を始めるので手が付けられません。

何もかもが悪い方向に転がりだしかねない状態です。

ですので、我々醸造家が発酵状態に入ったワインに対して最も気を付けなければならないのは、酵母が行う代謝の勢いを殺さずに一気に発酵を完了させてしまうことです。誤解を恐れずに言えば、この点をしっかり管理できれば味も香りもそうそう悪いことにはなりません。まずまず標準的な品質のワインは出来上がります。

今回はそのコントロールが上手くいかなかったときに取れる対処法について考えます。

酵母の代謝と発酵の速度

酵母の代謝が止まる、もしくは鈍くなると発酵自体が止まったり鈍くなります。発酵を管理している人間はこうした発酵の経過を液温と液中の残糖量で把握します。1日で減る糖分の量が多ければ発酵が速く、少なければ発酵は遅いと判断します。

ちなみに発酵が「遅い」という基準ですが、ドイツでよく言われる目安では、発酵によって消費される1日当たりの糖分がエクスレ度で2度を下回った時に発酵が遅延状態にあると判断されます。

発酵速度は電車の動きに似ています。

最初はゆっくりと始まり、徐々に加速していって最高速となり、そこからは徐々に減速していって最終的に止まります。加速の程度や最高速度の程度は酵母の種類や発酵しているブドウ果汁の質などによって変わりますが、一連の動きはほぼいつでも同じです。逆に言えば、まだ最高速度を維持しているはずの時点で急減速したり、加速しきれずに速度が低速で横ばいになってしまったりしてしまった時には発酵に異常が出ている、つまり酵母に何らかの不都合が生じていると判断できます。

再発酵をどう促すか

酵母の代謝が鈍ったタンク内で酵母の活動を再度活発にさせる方法はいくつかあります。一般的な方法としては次のようなものが挙げられます。

  • 酵母への栄養の添加
  • 酵母の再添加
  • タンク内温度の引き上げ
  • 未発酵のジュースと合わせての再発酵

それぞれの方法に長所と短所がありますし、試してみるべき順番もあります。またそれぞれの手法に使用条件もあるため、いつでもどこでも好きなものを好きなように試してみる、というわけにはいきません。

さらになぜそのタンクで発酵が停滞しているのかの原因をある程度でも把握しないと有効な対策はとれません。ここが把握できるかどうかは日々の管理の状況によります。これが原因だ、とは分からなくても、少なくともこれとこれは原因ではないはず、ということが分かっていることが重要です。

なぜ発酵は停滞するのか

発酵が停滞する理由は前述の通り、酵母の動きが鈍くなるためです。つまり、発酵が停滞しているタンク内には酵母の動きが阻害される何らかの要因が存在していると考えられます。

酵母の動きが停滞する理由を考える際には、自分自身がどういう状態になると仕事のパフォーマンスが低下するかを考えるのが簡単です。まともに食事がとれていない、作業環境の気温が暑すぎたり寒すぎたりする、単純に仕事量が多すぎて手が回らない、仕事の邪魔をする存在がいる、などなどありますが、酵母もまさにこうした要因によって動きが悪くなります。

酵母の動きを考える場合にはさらに人種の違いのような点を考慮に入れる必要があります。

暑い地域に住んでいる人は我々が少し涼しいと感じるくらいの気候でも寒くて動けなくなるかもしれませんし、十分な量の食事はあっても合わないために食べられない可能性もあります。とはいっても、乾燥酵母を使用している場合にはタンクの中に存在する酵母の種類はほぼ統一されているため、その酵母にあった環境を整えれば問題ありません。これに対して野生酵母を使って自然発酵をしている場合では話が変わります。タンクの中にどんな種類の酵母がいるのか全く分かりませので、どれくらいの温度やどういう食事を準備しておく必要があるのか分からないからです。

発酵の停滞や中断は多くの場合、自然発酵時に発生する典型的な問題といえます。

対処法の選択方法

発酵が停滞した場合に取れる対処法はすでに書きましたが、どの方法を選択するべきかを決めるにはこれらをさらに2つに分ける必要があります。つまり、中断した発酵を再開させるのか、新規に発酵させ直すのか、です。

前述の方法のうち、酵母の再添加や未発酵のジュースと合わせる方法はいわば発酵のやり直しです。現在、タンクの中に存在している酵母を使うのではなく、新たに別の酵母を使う点がポイントです。これに対してタンク内の温度の引き上げや酵母への栄養の添加は中断した発酵の再開になります。発酵が中断したタンク内にすでに存在している酵母を再利用することになります。

このどちらの方針で対応を行っていくのかによってとれる対策が変わります。

例えば野生酵母による自然発酵を行っていた場合には、ワインの当初のキャラクターを守るという意味では新しく発酵をやり直すことは向いていません。すでにタンクの中にいる酵母を使って発酵を完了させる方法を考えることが第一優先事項となります。一方で畑名や地区名を付ける予定のワインであれば、他の畑や地区から収穫してきたブドウと合わせての再発酵はそもそも出来ませんので、それ以外の方法をとる必要があります。

さらに重要なのが、発酵の停滞がどの時点で生じたのか、という点です。

前述の例でいうのであれば、最初の加速時点で起きたのか、すでに1度最高速度まで到達してから起きたのかによっても対策は変わってきます。加速時点で起きたのであれば加速のための要因、例えば燃料、が足りなかった可能性がありますし、減速期に入ってから起きたのであれば外部因子、外気温など、が適正範囲から逸脱した可能性が考えられます。

再発酵の試行時はまず環境を整える

発酵を新しくやり直すにしても再開するにしても、まずは発酵のための環境を整える必要があります。具体的には液温の調整です。

ワインの発酵は低温で行うことが多いため、液温を低く保つことがとても重要と思われていることが多くあります。確かによりフルーティーな白ワインを造りたい場合などには発酵温度を低めに保つことは重要な因子となりますが、こうした発酵技術としての管理温度と酵母の活動適正温度が必ずしも一致しているとは言えません。酵母の中には低温環境に適した株も存在しますが、そうした株であっても低温発酵時の管理温度は酵母本来の活動適正温度からみれば多くの場合で若干、低すぎます。

そこでどの方法を試す場合にもまずは液温を一度上げることが必要になります。

タンク内に存在している酵母の種類によっては、場合によってはこれだけで発酵を再開できる可能性もあります。一方で液温を上げることはそれなりのリスクを伴う行為でもあります。温度が上がるとワインの酸化速度が上がるほか、それまで動けない状態になっていた望ましくない微生物が動き出す可能性も高くなります。ワインの品質を下げることなく目的を達成するためには、温度を上げ過ぎず、かつそうした状態を長く維持し過ぎないよう注意する必要があります。

より安全なのは発酵のやり直し

発酵を管理していると仮に発酵の中断が起きた場合には発酵をやり直すよりも再開させることを先に考える場合が多くあります。この傾向は野生酵母による発酵を行っている時にはより顕著です。せっかく野生酵母を使って発酵をさせているのに、今更、乾燥酵母を入れたくないという心理が働くためです。

造り手によっては発酵が完全に完了するまで何年でも待つ、という方も中にはいらっしゃいますが、その間もタンクは占有されますし当然ワインの販売もできません。一般的なワイナリーの運営を前提とするのであれば、こうした考え方は現実的とはいえません。可能な限り早く発酵を完了させ、ワインを市場に出すことが経営上は重要になります。

しかし現実問題を考えると、素性の分からない野生酵母のための条件を整え直して発酵を再開させることは簡単ではありません。また仮にそれをやったとしてもまたすぐに発酵が中断するリスクが付きまといます。そうした点を考えれば、手間はかかるにしても発酵をやり直した方がその後の発酵が無事に完了する可能性は高くなります

最終的にどうするのかを決める要因は造り手やワイナリーとしてのポリシーによりますが、出来るだけリスクを少なくして問題を乗り切るのであれば、発酵中断時には乾燥酵母を使用して発酵を新たにやり直すことがより現実的な解決方法であることは知っておくといいことです。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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