ワイン 醗酵

酵母はワインの味を「変えて」しまうのか

10/09/2020

連日、ワインの醸造を続けています。

ドイツ国内、もしくは私が所属するワイナリーと同じ地域のワイナリーでもすでに収穫収量の声があちらこちらで聞こえ始めており、我々も来週には2020年の収穫を完了させる予定でいます。今のペースで行くと、ケラー内のワインがすべて発酵を終えるのは11月末くらいになる予定です。

今年の醸造ではボスの意向もあり、複数のタンクで自然発酵、いわゆる野生酵母を使用した発酵を行っています。

この野生酵母を使った醸造ですが、最近の流行りの一環、という様相です。一部ではいいワインでは部分、もしくは全体で自然発酵を取り入れているもの、と思われているケースもあります。

そんな中で出てくるのが、乾燥酵母を使用したワインの味は「作られた」味だ、という意見です。

実際に今日、ワイナリーに見学に来た方がこうしたご意見をお話しになっていかれました。

乾燥酵母は味を「画一化」させる

確かに株が選抜され、単一株のみを選択的に活性化させることのできる乾燥酵母を使用した醸造では味や香りの方向性が画一的になりがちな側面はあります。極端な話をすれば、同じ酵母を使えば同じようなワインが出来上がります。(実際にはそこまで単純でもありません)

一方で自然発酵を行うとタンク内では単一種の酵母による支配環境を形成することが難しく、複数の微生物が動くことになります。この結果、味の画一性はなくなり、その多面性が「複雑性」という表現で語られたりしています。

では、乾燥酵母を使用したワインの味は、「作られ」、「変えられてしまった」味なのでしょうか?

私はそうは思いません。

「作られた」「変えられた」という判断には「変えられていない味」があることが大前提となります。そしてこの文脈の中では、自然発酵によるワインの味が「変えられていない」味である、という判断になります。
しかし、そんなことはないのです。

自然発酵は畑のテロワールを表すか

自然発酵を語る場合には、ほぼ常に、と言って良いくらいの頻度で「畑のテロワールだから」という言い方がされます。

確かに自然発酵を行う場合に使われる野生酵母はブドウの果皮表面に付着した酵母が主体となることがほとんどです。しかしこの酵母はいわゆる常在菌のような存在ですので、いつ、どのタイミングでブドウの表面に付着したのかは判断が出来ません。また上述の通り、自然発酵では必ずしも酵母だけが活性化しているとは限りません。

そしてこうした酵母以外の、場合によっては酵母でさえも、微生物類はどこからきた何ものであるのかは一切、分かりません。

簡単にいってしまえば自然発酵で作ったワインは年ごと畑ごとどころか、タンクごとに味が変わります。同じ畑から同時に収穫してきたブドウを同じプレスで一緒に絞って得た果汁を二つのタンクに分けて入れ、それぞれ自然発酵させた結果、全く別の味や香りが出た、ということは珍しいことではありません。

これだけ変化するものを「変わらない」味の基準として扱うことはさすがにナンセンスです。

良し悪しではなく手段の一つ、という考え方

別に乾燥酵母がいい、野生酵母がいい、という話ではありません。どちらにもそれぞれの特徴があり、我々はそれを使い分けていますし、時には共存させています。我々にとって、これらは良し悪しではなく、必要に応じて選択することのできる平等に1つの手段にしかすぎません。

それだけに、乾燥酵母がワインの味を「変える」という言説には個人的には疑問を感じざるを得ません。

変えるもなにも、これは元からそういうものだった、ということだと考えています。

もちろん、そうしたご意見をお持ちになる方がいることは十分に承知していますし、それを悪いとも思いません。人にはそれぞれのスタンスがありますし、どんなに不安定なものであってもそれが自然に属するものであれば「変わらない」ことの基準とされる方もいらっしゃいます。

なんども繰り返しになりますが、良し悪しではないのです。

皆さんは乾燥酵母を使用したワインについて、どのようなご意見をお持ちでしょうか?

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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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