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クローン、、、何かに似ていませんか?

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ワイン用のブドウの話をしていると、それなりの頻度で耳にするのが”クローン”という言葉。個人的には理解するのに少々手間取ったものだったのですが、皆さんはどうでしょうか?

クローンといえば羊のドリー

すでに古すぎる話題の振り方、と言われてしまうかもしれませんが、筆者にとってクローンというと未だに羊のドリーという単語が真っ先に頭に浮かびます。人によってはすでにそもそも知らない単語と化しているかもしれませんし、風化してしまって記憶に残っていないかもしれませんが、1997年(すでに20年以上前!)に発表された、世界初のクローン体であった、あの羊のことです。

 

この羊のイメーが強い筆者は、どうしてもクローンと聞くと細胞を人工的に操作して作られた同型遺伝子を持つもの、という考えが先行してしまい、人工的操作の行われていないクローンという考えを理解は出来てもなかなか受け入れられなかったのです。

 

ブドウのクローンは人工的操作を受けていないクローン

一方でブドウの木は挿し木によって増やすことが出来ます。つまり、かなり大まかな言い方をすれば、枝を折るなり切るなりして地面に挿しておけば、断面から根が生えてきて新たな株として成長していきます。

ブドウのクローンとは、この株分けされたもののことを指しています。

 

当然、ここには何ら人為的な操作は行われていません。天然自然な方法によって増やされた、しかしながら同一型の遺伝子を持ったクローンが成立している、という訳です。筆者がそうであったように、クローンという言葉の持つイメージを共有してしまうと、ブドウのクローンと聞くと何かしら科学的で工業的なイメージを持ってしまいがちですが、実際のところはかなり様相が異なっているのです。

 

クローン技術が使われる理由

ブドウの栽培をする人間は、少しでも優秀な株を育てたいと思っています。

この場合の”優秀”とは、実のなり方がコンパクトであるとか、小粒でバラ房であるとか、皮の比率が多くなるとか、果実の熟成速度が早いとか遅いとか、もしくはその地域の天候に合っていて病気になりにくいとか様々です。言ってみればブドウの樹の個体差、つまりは個性の話なのですが、この違いはブドウの栽培難易度や収穫量に直結してきますので、栽培側から見れば当然、自分のスタイルや目的にあったものを選べるなら選びたい、というのは当然のことでしょう。そして、クローンというものはこの要望を実現させることが可能なのです。

 

ブドウの実に望まれる特性についてはこちらの記事もご覧ください

⇒ 大豆は大粒、ブドウは小粒

 

ブドウの樹には人と同じようにそれぞれ個性があります。そんな様々な個性の中には、栽培者の目的に合致する性質もあれば、合致しない性質もあります。本来、完全に自然な流れでやっていくのであれば、それぞれの個性を受け入れ、それぞれの個性に合わせた対応を頭を悩ませ、時間をかけながらしていくべきなのかもしれませんが、実際には気に入った個性を持ったブドウの樹から芽のついた枝先をちょっと拝借して地面に刺すことで、この問題が解決することが可能なのです。遺伝子組換えも必要なければ、実験室で細胞に針を挿す必要もありません。

 

相手は植物なので、必要ならばさらに交配という手段でそれぞれの特性をかけ合わせていくことも可能です。これだって「工業的」と見る人は少ないことでしょう。

 

ブドウ畑は単一遺伝子で占められている

さらに栽培側の気持ちとしては、一定区画内は同一の個性を持ったブドウでまとめたい、とも思っています。

 

これもまた考えてみれば当然なのですが、例えば同じ列の中に実の付き方や熟す速度が異なる樹がてんでんばらばらに存在していたら世話する側は大変です。確かに栽培者はブドウの樹一本一本と向き合ってはいますが、それでも時間的な制限はあるわけで、効率化出来るところは効率化しないと何も出来なくなってしまいます。さらにいえば、ブドウの個性に合わせた適切な対応をしていく上でも、この処置は必要なのです。

 

そして、この問題を解決することもまた、簡単です。なにしろ、個性をまとめたい範囲すべてに同じクローンを植えればいいだけなのですから。

ブドウをより適切に栽培すること、仕事の効率を上げること、商業的な意味で利益を最大化していくこと。これらの要素が混ざりあった結果、ブドウ畑の各区画では遺伝子の単一化が進んでいくのです。

 

こう聞くと、なにか悪い印象を受ける方もいらっしゃるのではないかと思いますが、これは一概に悪いことではないことを再度、強調しておきたいと思います。なぜなら、一定区画内におけるブドウの持つ遺伝子を統一しておくことは、病気の予防や、病気にかかった場合の対応をより適正化させます。また、ブドウの生育条件についても栽培者が関与しやすくなり、よりブドウの樹に優しい、ストレスを与えないで済む栽培が可能となるためです。このことは病気などの予防を見込んだ過剰な対応を不要としますので、結果的には環境にも優しい農業の実現、ということになるのです。

 

なにかに似ているこの状況

ここまで読んでいただいて、このクローンの状況、何かに似ていると思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

そう、この状況、酵母の状況によく似ているのです。

 

クローンとは、言ってみれば純粋培養酵母と同じ位置づけにあるものです。もともと自然界にあった自然のものを、使う側の意図に合わせて選別し、増やし、選択的に使用しているのですから状況は何も変わりません。この視点に立つのであれば、野生酵母は自生のブドウの株、ということになるでしょう。

 

ちなみに、最近売られている酵母のパッケージの中で、複数の酵母の種類を混合したものにあたるものとしては、オーストリアなどで特によく見かけることの出来る、ゲミッシュターザッツ (Gemischter Satz) というものがあります。これはブドウ畑の一定区間内に複数のブドウ品種を混雑して植え、栽培し、最終的にもすべてのブドウを混ぜてワインとする、混植混醸によって造られるワインのことを指しています。

 

このような中で違うのは、受け手側の意識だけです。

 

すでに以前の野生酵母の功罪という記事でも書きましたが、最近は純粋培養酵母を工業製品である、としてやたらと敵視する言説があります。しかし、その酵母を使う前の段階、ブドウ畑の中で本来はすでに同じことが行われているのです。

知ってか知らずかは知りませんが、同じことをやっているのに片一方は受け入れていて、もう一方は頑ななまでに拒否する、というのもおかしなことです。このようなことからも、酵母の選択をはじめ、様々なことにもう少しでいいので受け入れ許容度を広げて欲しいなぁ、というのが造っている側からの素直な気持ちでもあるのです。

 

酵母についての記事はこちらも参考にしてください

⇒ 野生酵母の功罪

⇒ 酵母ってなんですか?

 


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