栽培

柱にみる考え方の違い

04/24/2018

先日、”畑に柱を立てる”という記事をアップしました (関連記事: ブドウ畑に柱を立てる)。そちらの記事では触れていなかったのですが、この時に使った柱には、実際は杭といってもいいくらいのものなのですが、素材の違いも含めて多くの種類があります。それぞれの柱には長所や短所があり、どの柱を使っているのかでそのブドウ畑の特徴や、造り手の考え方を知ることが出来ることを皆さんはご存知でしょうか?

一度作ったブドウ畑は30年間変わらない

一度新しい畑を作ると、その畑はよほどの理由がない限りは20年から30年はそのままの形で使い続けられます。このため、少しでも長く使える性能を持った材料を使いたい、というのはごく自然な考え方です。特にブドウ畑の根幹を成している柱に関してはこの傾向が顕著になります。

ブドウの樹の成長を支えるワイヤーを支えている柱の数々は、まさにブドウ畑の背骨ともいえる存在です。これらの骨格はそうそう簡単には交換がきかないものであり、どのような素材のどのような柱を使うのかは慎重に検討しなければならないことなのです。

金属か、木か

ブドウ畑に立てる柱の種類はその素材で大きく2つに分類されます。つまり、木製の柱にするのか、金属製の柱を選ぶのか、です。

今回の畑に使ったのは金属製の柱でした。周囲を見渡してみても、最近の畑ではやはり金属製の柱を使うケースが多いように感じます。一方で、筆者が以前に参加した畑ではすべて木製の柱を使っていました。この、柱の素材の違いはどのような理由から来るのでしょうか?

柱の素材は植えているブドウの品種によって選ばれることは基本的にはありません。柱の素材は作業効率、ブドウの樹勢管理、コストといった要因を加味して決められます。以下に簡単にですが、それぞれの素材が持つ特徴をまとめます。

木製

  • 密度が高く頑丈
  • サビなどの腐食を受けにくい
  • 畑の見栄えがいい
  • 重く、作業コストが金属製よりも大きい
  • 価格が高い
  • 腐る可能性がある
  • ワイヤー留めの釘を打つ必要がある

金属製

  • 比較的軽く、作業がしやすい
  • 断面の面積が小さいため打ち込みがしやすい
  • サビなどの腐食の影響を受けやすい
  • 価格は比較的低め
  • 折れる可能性がある
  • ワイヤー留めは柱と一体化している

この両者の違いは、言ってみれば形状の違いと取り扱いやすさのと言ってもいいかも知れません。木製のものは木という材料の特性上、強度を維持するためにはそれこそ杭のようにある程度の太さを持つ円柱、もしくは角柱である必要があります。一方で金属製のものは形状加工が可能ですので、単位あたりの比重が木よりもはるかに重いことからも、肉抜きしつつ強度を維持できる形状に成形することになります。金属製で太さが10~15cm、長さ2mの円柱、なんてなったらとにかく頑丈なのは間違いないですが、とてもではないですが重すぎて作業が出来ません。下手をしたら土台の部分をコンクリートなどで固めてやらないと自重で倒れかねない程です。

取り扱いは圧倒的に金属製が有利

作業者の負担に直結する、取り扱い、という面でも両者は大きく異なります。

木製は重く取り扱いは大変です。また、ワイヤーを固定するための釘を別途打たなければならないので、作業の手間はとても大きくなります。この釘打ちは杭を畑に立てる前に打ってしまった方が作業的には楽なのですが、それをしてしまうとこの度は畑にこの柱を打ち込む際に前後左右が出来てしまうため調整の手間が非常に大きくなります。なので、必然的にワイヤー固定用の釘打ちは立てた柱に対して行うことになります。ただでさえ固い柱に対して、場合によっては自分の目線よりも高い位置に、しかも何十本、何百本と釘を打つ作業は本当に大変です。

これに対して、金属製の柱は手軽の一言に尽きます。

そもそも柱の断面積が小さいため、地面に打ち込む際の抵抗は木製の柱を立てる場合と比較してはるかに小さくなります。そもそも柱の重さも大したことがないので、一人でも位置決めなどのために柱を移動させることは難しくありません。これに加えて、金属製の柱はもともとワイヤーを通すための穴やフックが成形されているので、柱を立てたその瞬間からワイヤーを通すことが出来ます。この違いは大変大きなものです。

頑丈さを目指すなら、木

金属製の柱は前述のとおり形状を加工することで軽いながらも折れにくく、曲がりにくい柱を実現しようとしています。しかし、それでもやはり金属製の柱はかなり容易に曲がります。ちょっとトラクターで引っ掛けた、とか、ブドウが育ってきた時に強風を受けた、などというだけでも曲がることがあります。これに対して木の柱は柱の先端を除けば、あとはどこをとっても断面積が大きく、折れや曲げに対して極めて大きな抵抗力をもちます。金属製の柱だったら完全に曲がっているような状況であっても、木製の柱はびくともしない、ということは珍しくありません。

このため、金属製の柱をメインに使っている畑であっても、列の両端のアンカーに固定する支柱だけは頑丈さをとって木製にする、ということもよくあります (関連記事:畑を支える縁の下の力持ち。アンカー打ち) 。それくらい、木製の柱の強度における信頼は高いとも言えます。もし仮に、ブドウの背を高くしたい、というような希望がある場合には柱は木製にしておいた方が無難です。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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