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さて皆さんはワインが
"Der Wein ist der fermentierte Traubensaft (発酵させたぶどうジュース)"
と呼ばれる場面に出会った経験はあるでしょうか?
この呼び方が世界共通のものかどうかは残念ながらわかりません。しかし少なくとも筆者はドイツでワインの教育を受けている期間、何度かワインをこう表現する場面に出会いました。
発酵させたぶどうジュース。なんとも言い得て妙な呼び方です。
個人的にはとても好きな呼び方で、時々使ってもいました。しかし最近ではこの呼び方をすると、ワインではない、別の製品カテゴリーのことだと思われることが増えてきました。
"ノンアルコールワイン" です。
ノンアルコールワインはその特徴から、ワイン以上にこの呼び方がぴったりと当てはまる最近人気の製品カテゴリーです。
今回の記事ではこの古くも新しい分野に注目します。
世界で注目されるアルコールフリー
本来アルコールを含む酒類からアルコールを除去した、アルコールフリーなお酒は現在、世界中で注目を集めています。日本でもビールや梅酒、日本酒に至るまでアルコールフリーのものが販売されています。また日本ではハンドルキーパーに対する酒類の提供をかなり厳格に制限していますので、ご自身がこうしたノンアルコールビールやノンアルコールカクテル (モクテル)のお世話になった経験がある方も多いのではないでしょうか?
一方でこうした動きは最近始まったばかりのもの、というわけではありません。
例えばワイン。ドイツでは今から100年ほど前の1907年にはラインガウ (Rheingau) のリューデスハイム (Rüdesheim am Rhein) に拠点をおく、Carl Jung GmbH (https://www.carl-jung.de/en/startseite-english/) がアルコールを低減したワインの製法を開発し、ノンアルコールワインの製造に先鞭をつけています。
ノンアルコールワインとは何なのか
ノンアルコールワイン、アルコールフリーなワイン、アルコールを含まないワイン。
言葉遊びのようなものですが、案外難しいのがこのカテゴリーの定義づけです。
ノンアルコールワインを定義付けるうえで判断の基準となるポイントが2つほどあります。どちらにも関しても重要なのは「ワイン」であることです。
さてこの記事をお読みくださっている皆さんはこの「ワイン」という単語を定義付けることはできるでしょうか?
これまでにもいくつかの記事で書いてきていますが、ここ欧州では「ワイン」という単語はワイン法によって定義付けられます。そしてEUのワイン法上では
「ワイン」とはブドウを発酵させたもの
であることが明確に規定されています。そして同時に最低アルコール度数もまた規定されています。
一度整理すると、公的にワインと名乗って販売されていいものとは最低限度次の2つの条件を満たしたものになります。
- ブドウを原料とし発酵工程を経ているもの
- 1. の結果として規定された最低アルコール度数を満たしているもの
一方でノンアルコールワインは最低でも2.の条件を満たしませんので、公的に「ワイン」としては認められず、あくまでも"ワインを原料として作られた飲料"の範囲に留まるものです。
こうなってくるとすでにどうやっても「ワイン」にはなりえないので、だったら1.の条件も無視してしまっていいじゃないかと思えます。確かに製品の管理カテゴリー上はそうしていても何の問題も生じませんが、そうするとそれは
発酵させていないぶどうジュース = つまり普通のぶどうジュース
になってしまいます。ノンアルコールワインではなく、ノンアルコールぶどうジュースになってしまうわけです。
これではノンアルコールワインという製品カテゴリーにさえ当てはまらなくなってしまいますので、最低限度、上記の1.の条件を満たしていることが必要と考えられています。
また直近の動きとして、EUワイン法の見直し議論にこのノンアルコールワインが該当するカテゴリーの新設が議論されています。この見直し案が採択され場合、ノンアルコールワインはワイン法の範囲内として扱われることとなりますので、1.の条件を満たすことは必須とされる可能性が高くなります。
つまり、ノンアルコールワインとはいろいろな側面からも
発酵したぶどうジュース
でなければならないのです。
次のページ以降では以下の内容に沿ってお話を続けていきます。
- アルコールフリーなワインの造り方
- 蒸留と成分の揮発
- 揮発成分の戻し方
- 一緒に蒸発させないという考え方
- 今回のまとめ | ノンアルコールワインはワインのなのか