ワイン 品質管理 徹底解説

徹底解説 ワインと木樽 | 樽熟成の主役 オーク樽の基礎

ワイン、特に赤ワインに関してよく聞く言葉があります。

新樽比率、フレンチオーク、バッリクでの樽熟成。これらはすべて、ワインの醸造時に使われる木製の樽に関係したものです。

ワインと樽は歴史的にも長い関係を持ってきました。各地で様々な大きさと形の樽が作られ、今でも変わらず使われています。

バリック (Barrique) といえば赤ワイン醸造で使用する代表的なオーク樽ですが、ボルドーでは225L、ブルゴーニュでは228L、コニャックでは300Lとそれぞれサイズが違い、形状も微妙に異なっています。バリックよりも大型の木樽でもドイツのモーゼル (Mosel) ではモーゼル・フーダーと呼ばれるものが1000L、ラインガウ (Rheingau) に来るとシュトック (Stückfaß) と名前を変えて1200L、さらにはシュトック2つ分のドッペルシュトック (Dopplestückfaß) と呼ばれる2400Lのものもあります。

それぞれの共通点はブナ科コナラ属の落葉樹であるオーク (Oak、楢) を原料としていることくらいです。

形状にしても樽というよりも密閉された桶のイメージに近いようなものまであり、用途ごとに使い分けられています。樽発酵といっても赤ワインであればバリックを使うことはまずありませんが、白ワインであればあり得ます。

樽発酵と樽熟成とではそもそも使っている樽が全く異なっていたりするわけです。

日本語にしてしまうとすべてが樽になってしまうために一部で混同され、誤解されているケースもある木樽の基本を解説します。

補足

この記事ではまずは樽の基本を押さえます。

樽からの抽出されるフェノール類などについては別の記事で解説をしますが、そちらの理解を深くするための前提としてこちらの記事をまずはしっかりと理解してください。

なぜワインに樽を使うのか

そもそも木樽は比較的、手軽でかつ丈夫な容器として使われてきました。しかし現代にはさらに手軽だったり頑丈だったり、軽かったりと各用途に適した素材とそれによって作られた容器があります。それにも関わらずオーク材の樽がいまだに使われ続けている理由には、以下のようなものがあります。

  • ガス交換作用によるゆっくりとした酸化作用
  • 樽の原料からの抽出作用
  • ワインの水分およびアルコールの蒸発
  • ワインの熟成香のゆっくりとした生成

樽に保管されたワインではワインに含まれる二酸化炭素と樽の外にある酸素のガス交換作用が生じます。この作用によりワインに含まれるタンニンが柔らかくなるほか、赤ワインの色味の強調や赤い色の原因であるアントシアニンとその他のフェノール類の結合が促されることで安定化が進み、色味が定着しやすくなります

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また樽の材料であるオーク材由来のフェノール類や芳香系成分がワインに抽出されワインの複雑さが増すだけではなく、年間で2~10%程度の水分やアルコール分が蒸発しその分ワインが濃縮されます。

大豆は大粒、ブドウは小粒

こうして見るとワイン造りの現場でオーク樽を使うことはいいことばかりのようにも思えます。しかしバリックを使っているワインは全世界のワインのおよそ2%程度と言われています。

さらに最近ではオーク樽を使うケースは増えてきていますが、一時期は利用は減る傾向にありました。

オーク樽離れの理由

ワインの熟成は樽で行うもの

そんな風に思っている方も多くいらっしゃるであろうくらいには、ワインの熟成と木樽の利用は当たり前のように受け取られています。しかし実際には樽はそこまで頻繁に利用されているわけではありませんし、一時期は利用が大きく減る傾向にありました。

その理由は次のようなものでした。

  • 作れるサイズに限界がある
  • 作業時間が長く、洗浄性が悪く、状態の維持に手間がかかる
  • 発酵時の温度管理ができない
  • 相対価格が高くつく
  • 素材の成分の統一性がなくコントロールが効かない。この結果、ワインへの影響も測れない
  • 結果的にリスクが高く、コストが高く、手間がかかる
  • 多くのワインのオフフレーバー (欠陥臭) や品質低下が不適切な樽の扱いに由来する

特に樽を原因としたワインの品質低下は深刻で、ある調査結果では調査した樽の6%でDekkera (Brettanomyces) が検出されたほか、揮発酸が増加することが確認されています。揮発酸増加の原因は、木材からの抽出により0.1-0.2g/L増えるほか、衛生管理の問題で酢酸菌が増殖した結果とされています。

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オーク樽の利用が再増加する傾向にある現在でもこうした問題は依然として存在しており、高いコストの問題とあわせて代替手段の利用増加にもつながっています。

木樽の原料を知る | オーク材の基礎

ワインで使用される木樽の原料はそのほとんどがオークです。一方で世界中にはオークに分類される樹木が200種を越えて存在しているといわれています。

このすべてがワイン用の樽に使われているわけではなく、主に3つの種類のみが使用されています。

一般にはフレンチオークとアメリカンオークの名前で知られていますが、実際にはヨーロピアンオークとアメリカンオークと呼ぶのがよりふさわしい名称です。

フレンチオークもしくはヨーロピアンオークに分類されるのが、Quercus robur (ペドンキュラータ・オーク) と Quercus petraea (セシル・オーク)の2種類。アメリカンオークに分類されるのがQuercus alba (アメリカン・ホワイト・オーク)です。

フランスでは年間に750,000m³のオーク材が加工されており、48,000m³分の板材に相当していますが、このうちのおよそ5%は南ドイツ原産のオークが使われています。フレンチオークといってもその主要な原産地はフランス、イタリア、ポルトガル、ハンガリー、スロバキア、ロシアとヨーロッパ全域に広がっています。

一方でアメリカンオークはケンタッキー、ミズーリ、カンザス、オクラホマ、アーカンソー、テキサスの各州が原産地となっています。

オーク材の特徴と原産地による違い

オーク材は原産地域により異なる気象条件の元で生長します。樽の原料として使用するためには樹齢が150年程度必要とされていますが、その間に地域差とでもいうべき個性の違いが生じます。

伐採直後のオーク材は45%が水分、20%がガス状の成分です。固形分の90%は細胞壁由来でセルロース (40%)、Ligninおよびヘミセルロース (各25%)、残りの10%は様々な低分子量の成分から構成されています

樽に利用できるのは幹の中心部に近い、すでに木化した細胞からなる芯材部分で幹のおよそ80%が該当します。

こうした共通点を持ちながらも、3種類のオークはそれぞれ異なる特徴を持っています。

大きな差としては年間気温の差から、ヨーロピアンオークでは年輪の幅が狭いのに対してアメリカンオークは年輪の幅が広くなっています。また維束管の出方に違いがあり、これが木材の切り出し条件に関わってきています。

この結果、Staveと呼ばれる板の切り出し効率がヨーロピアンオークではアメリカオークのおよそ半分ほどとなり、それぞれの樽の価格差に大きな影響を及ぼしています。

参考

樽の各部位の名称などはサントリーさんのサイトなどがわかりやすいです。ウイスキー用の樽として解説されていますがワインでも変わりません。

Suntory ウイスキーミュージアム

樽の効果として注目される抽出物の観点からは、ヨーロピアンオークの方が相対的にアメリカオークよりもフェノール類の抽出量がおよそ倍ほども多いと報告されていますが、Vanillinの抽出に関してはアメリカオークの方が多く、このためにアメリカオークの方がワインにオーク材のニュアンスを強く与えると言われています。

フェノール類の抽出量が多いといわれるヨーロピアンオークの中でもpetraeaはroburよりもタンニン量およびその他の抽出物量が多いことが確認されています。

樽の作り方とその意味

伐採された木材は板に切り出され、数年間の天然乾燥を行います。この間は野ざらしの状態で、一般的に木材の熟成にかかる期間は1~3年程度と言われています。人工乾燥による短期間化はその後の抽出物の種類と量に影響するため、ほとんど行われていません。

シーズニング (seasoning) とも呼ばれるこの乾燥期間には物理的意味と化学的意味があります。

物理的な意味は、雨による過剰なタンニンの溶脱、木材内部の水分の乾燥、乾燥による圧縮です。一方で化学的な意味は、β-グルコジダーゼによる加水分解の促進、ポリフェノールオキシダーゼによる重合促進、Peroxidase (ペルオキシダーゼ) によるキノン類の生成です。

数年間の乾燥期間を経た木材は加工され、樽の形状に作り上げられていきます。この際に行われるのが、トーストと呼ばれる焼き入れ作業です。

樽をトーストする意味は樽の製造時にかかる機械的なストレスの軽減のほか、化学的な変性を促す意味合いがあります。一般にトーストはlight、middle、heavy、super heavyのように程度わけがなされており、各程度でもたらされる効果が変わってきます。

一般的にトーストに期待されている効果は以下のようなものです。

  1. セルロースとヘミセルロースの分解に伴うキャラメル化とメイラード反応の促進
  2. ligninの分解およびvanillinの生成とGuaiacol類の生成
  3. タンニンの分解による苦みと収斂感の軽減
  4. 煙などによる新たな香り付け
  5. 揮発性フェノール類の生成
  6. nonvoltile phenol類の加水分解
  7. 芳香系アルデヒドおよびラクトン類の濃度上昇

メイラード反応は焼いたパンの香りを、芳香系アルデヒドやラクトンの生成は典型的な樽香やココナッツ、バーボンウイスキー、新鮮な木の香りを生み出します

ちなみにトーストの度合いが高いほど木材表面の微細な亀裂などはなくなっていきます。また大型の樽になるほどトーストの度合いは低くなる傾向にあります。

トーストの度合いとその違い

樽の内部を焼くトースト作業はその度合い次第で全く異なる特徴を樽に持たせます。各度合いとそこから得られる特徴の差をまとめます。トーストの作業温度や時間は目安となります。

  • トーストなし
    青々しさのある木の香りや野菜様の香り
    苦みと渋みが強い
  • light toasting
    木材の表面のみを焼くレベル
    180℃程度でおよそ5分間
    木材の内部の表面積量には大きな影響を与えない
    木の香りやバニラ香は軽め
    木の味は強いが苦味は少なく、収斂感は強い。軽めの酸味を感じる
  • medium toasting
    木材の表面から1 mm程度までを焼くレベル
    200℃程度でおよそ10 - 15分間
    木材の内部の表面積量に大きな影響を及ぼす
    複雑な木の香りに加え、コーヒーや焼いたアーモンド、強めのバニラ香を感じる
    軟らかく、軽めの苦味と収斂感。焼いたパンやトースト感を伴う味。後味が長く残る
  • heavy toasting / super heavy toasting
    木材の表面から1 - 2 (super heavy toasting: 2 - 4) mm程度まで焼くレベル
    220 - 230℃で15 - 25分間
    木材の内部の表面積量に大きな影響を及ぼす
    木の香りは弱く、焦げたコーヒーや煙、強いキャラメル香
    焦げた木の味に加え、強い苦味、弱い収斂感。後味は軽め

今回のまとめ | 樽の特徴とその功罪

木樽は長い歴史の中で複数の異なる理由から選択され、使われてきました。

古くは輸送用の容器として。その後はワインを特徴づけるための手段の1つとして。

最近では一般的なオーク材以外の木材を使用する検討も始められています。

樽は良くも悪くもワインを変えます。原料となる木材の種類からシーズニングやトーストの度合いによって変化の幅は限りなく広がっていきます。

一方で例えばドイツでは1980年代頃まで、検査機関が樽香をワインに特有ではない異臭、つまりは欠陥臭であるとして高位の格付けを与えない判断をしていました。この結果、ドイツでは樽を使用する際には予め何度も洗浄したり温水抽出をかけることで樽からの抽出がそれ以上ない状態にしてから使用していました。今でもドイツで使われる大樽は抽出を目的とはしていません。

樽の香りや樽由来の抽出物をワインのどの位置に位置付けるのかは判断する人次第です。

歴史的にそれが当たり前なのだから、すでにワインの本来の姿の一部だと考える人もいれば、かつてのドイツのように本来ブドウには含まれていない異質なものだと判断する人もいます。ワインをブドウを原料としたアルコール飲料と規定するのであれば、どちらがピュアなのかといえば後者なのかもしれませんが、ここに正解はありません。

またこうした判断は飲み手にも依存します。

かつては大流行した樽香の強いワインが今では避けられる傾向が強くなってきたように、ワインの消費にはブームがあります。造り手は少なからずそうした世間の様相を眺めて自分のスタイルを変化させます。

ワインの中に何を求めるのか。

その答えが樽のもたらす影響を功績にも罪悪にも変えさせるのです。

樽の持つ特徴の1つである酸素の取り込み。マイクロオクシジェネーション (microoxygenation) などとも呼ばれる技術としても注目されています。

樽に保管したワインの酸化作用についてはいろいろな議論がこれまでになされてきています。こうした議論の中から最近の研究事例を参考に、樽がどのくらいの酸素を通し、ワインが酸化する可能性を持つのかについてはオンラインサークル「醸造家の視ているワインの世界を覗く部」でメンバー限定記事として解説します。またメンバー限定記事の内容の一部は再編集したうえでnote上でも公開します。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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