ワインの味に関する規定、と聞くとなんのことか分からないかもしれませんが、これは単純にどういうワインを辛口といったり甘口といったりするのか、というお話です。
この味に関する規定というものは国ごとに違いがあると思われますが、ここではドイツワインに関してのみ記載します。
ドイツワインにおける味の種類
さて、ドイツ国内でワイン法に基づいて規定されている味の種類は以下のものがあります。
- trocken (トロッケン: 辛口)
- halbtrocken (ハルプトロッケン: 中辛口)
- lieblich (リープリッヒ: 甘口)
- süß (ズース: リープリッヒよりもさらに甘口)
基本的にこれらの味はワインに含まれる糖分の量(残糖)によって規定されていますが、トロッケンとハルプトロッケンに関してはもっと細かい規定が用意されています。それが、糖と酸の関係に基づく規定です。具体的には、
- trocken: 残糖量が4 g/l 以下もしくは残糖量9 g/lを上限として総酸量+2の値がこれを超えないこと
- halbtrocken: 残糖量が12 g/l 以下もしくは残糖量18 g/l を上限として総酸量+10の値がこれを超えないこと
- lieblich: 残糖量が45 g/l 以下
- süß: 残糖量が45 g/l 以上
となっています。
trockenとhalbtrockenは残糖だけでは決まらない
trockenとhalbtrockenの残糖と酸の関係に関する規定が分かりにくいと思います。ここはこの後の醸造の話にも関わるのでちょっと具体的に説明します。
まず、最初の規定である残糖量が4 g/l 以下や 12 g/l 以下という部分に関しては説明はいらないでしょう。問題はその後の部分で、trockenを例にして簡単に説明をすると、仮にワインの残糖量が4 g/l を超えていたとしても総酸量が多ければそれはtrockenと表記していいよ、というものになります。ただし、総酸量に2を足した値が9以下であることが条件になります。
例えば、、、
残糖量 6 g/l、総酸量 5 g/l のワインの場合
残糖が6 g/l と規定の4 g/l を超えているので、通常であればhalbtrockenとなる
総酸量が5 g/l。この数値に2を足した値は 5+2=7 となるので、7 g/l までは残糖量があってもtrockenとしてok?
上記の7 g/l は上限の9 g/l を超えていない。かつワインの残糖は6 g/l でこの範囲内なので味の表記はtrocken
残糖量 10 g/l、総酸量 8 g/l のワインの場合
残糖が10 g/l と規定の4 g/l を超えているので、通常であればhalbtrockenとなる
総酸量が8 g/l。この数値に2を足した値は 8+2=10 となるので、10 g/l までは残糖量があってもtrockenとしてok?
上記の10 g/l は上限の9 g/l を超えているので、この場合にtrockenとして認められる残糖量の上限は9 g/l まで。ワインの残糖量は10 g/l でこの上限を超えるので、味の表記はhalbtrocken
となります。
醸造的には総酸量が重要になることも
いろいろややこしい規定ではあるのですが、ここで醸造面から重要なのは、残糖をどこで管理するのかを総酸量から考えることが出来る、ということです。酸が多い時に残糖を下げ過ぎれば酸っぱくて飲めたものではないワインになってしまいますが、だからといって酸を落としすぎると今度はスカスカのワインになってしまいます。これに対して実際は、trockenのワインであったとしても、完全に残糖を落としてしまうのではなく、ワインに含まれる総酸量が多い時に敢えて残糖を残して両者のバランスを取りつつ、残糖量からくる飲んだ時のボリューム感を持たせる、という選択肢が取れるわけです。
また、残糖を残せるというオプションはアルコール度数を必要以上に高くしなくて済む、ということも利点でしょう。
残糖が多くてもより辛口に感じる調整もある
ちなみに酸量が多いワインで、酸を残したまま残糖を多く残したものと、残糖を少なくしつつ酸も落としたワインだと、酸を残しつつ残糖も多くしたワインの方が他方よりも倍近く残糖があってもより辛口と感じる人が多かったというケースもあります。味への影響は糖分よりも酸が及ぼす影響のほうがより大きい場合がある、という良い事例です。
辛口のワインというとやたらと残糖を嫌う人もいますが、現実的には酸の存在次第でいくらでも味は変わるのです。この糖と酸をどこでバランスさせるのかがワインの醸造者に求められる重要な資質であると考えています。