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ブドウの収量制限とはなんなのか | 考え方、方法、そして注意点

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ブドウに限らず果樹や野菜の栽培をしていると、ほぼ必ず出くわす言葉があります。

収量制限

この言葉に聞き覚えはないでしょうか?ブドウの場合においては特にグリーンハーベスト(green harvest)、などと言われたりもします。
今回はこの収量制限というものについて解説をしていきます。

収量制限という取り組みは品質の向上を含めた多岐にわたる要素と非常に密接に関連しています。このため、意味をとり間違えてしまっている例も意外に多く見受けられます。

この記事では収量制限というものを少し厳密に規定し、その他の要素と区別しつつお互いの関係を明確に説明していきます。

また具体的な収量制限の考え方、やり方、その際の注意点などについても解説を行っていきます (一部内容は有料記事内になります)。

 

収量制限とはなんなのか

ブドウ栽培における収量制限とは、単位面積当たりから収穫するブドウの量をブドウの重量、もしくはプレス後の搾汁量によって管理し、その量を低く抑えることを言います。一般的に面積はヘクタール(ha)、収穫量はキログラム(kg)もしくはヘクトリットル(hl)で表します。

 

メモ

1ヘクトリットル = 100リットルのこと

 

非常に大雑把な計算式としては以下のようなものを使います。

 

ブドウの樹1本当たりの平均的な房の数 x 当該品種における平均重量 (kg) x 1haあたりの植栽本数 = 見込み収穫量(kg/ha)

 

この計算式によって1haあたりから収穫されるブドウの見込み重量を算出することができます。
搾汁量によって管理する場合にはここにさらに係数として0.6~0.75の値を掛けます。この係数は国や地域によってあらかじめ取り決められていることが多いものです。

一方で上記の計算式中で用いている品種当たりの平均重量などは地域やその年の天候、畑によって非常に大きな範囲でブレるため、この計算式によって求めることが出来る値はあくまでも目安の範囲に留まるものであることには注意が必要です。

 

そのうえで、この計算式によって求めらえた値が予定している収量見込みを大きく上回るようであれば、それは収量制限に向けた取り組みが必要であることを意味しています。
逆に計算結果が予定収量を下回っていた場合には作業の実行はコストとリスクの拡大の意味しかなくなるため、同様の取り組みを行う必要は一切ありません。

 

収量制限は品質向上のための取り組み

収量制限という取り組みは、ブドウの品質向上のための枠組みに分類されるものです。

一般的にはブドウの収穫量 (数) を減らすことで残されたブドウの凝縮度が高まり品質が向上する、という説明がなされることが多いと思います。

 

実際に一部の国や団体の規約ではブドウから造られるワインの品質を一定水準以上に保つための手段の一つとして、面積当たりの最大収量を規制しているケースがあります。

例えばドイツのVDP (Verband Deutscher Prädikats und Qualitätsweingüter、ドイツ高級ワイン生産者連盟) におけるGG (Grosses Gewächs) では50hl/ha、フランスのシャンパーニュにおいては66hl/haという最大収量規制が行われています。

 

Müller-Thurgau (ミュラートゥルガウ) のような房が大きく収量の多い品種では制限を一切しないで栽培をした場合、畑や栽培の環境にもよりますが100hl/haを超える収穫を得ることが可能です。この例でみてみれば、通常の予定収穫量のおよそ半分まで実際の収量を落とすということは単純に考えて2倍の凝縮度を得ることが出来るといえます。(実際にはそこまで単純なお話でもないですが)

 

一方で、収量制限のためのブドウの切り落としと、品質向上のための「選果」とは全く別のものです。

選果においてもブドウを選り分け、切除していくことを通して結果的に収穫量が下がります。このためこの選果を収量制限としての取り組みと同一視してしまいがちなようです。

 

しかしこの両者の間では取り組みのための考え方も実施の仕方も全く異なります。何よりも選果を通して収量を制限することは量的な問題でまず不可能です。

また選果の場合、前述の計算式による見込み収穫量の結果がどのようなものであったとしても実施する必要があります。これはこの両者間における極めて大きな違いとなります。

 

もちろんグリーンハーベスト(収量制限)を実施する場合でもなんでもいいから房を切る、ということではなく、切る房を選んでいますので、広義に言えばこれも選果ではあるところがより事態をややこしくしているように思えます。

 

収量制限は義務なのか

世間一般的にはワインの品質を向上させるための手段として収量を制限することは当然であり、半ば義務であるかのように受け取られている部分もあります。しかし実際には収量を制限することは義務ではなく、あくまでもワインメーカーの自由意志です。

 

もちろん、前述のVDPやシャンパーニュのように地域や団体として最大収量を限定しているケースもあります。これらのケースではそこに所属している限りにおいては収量制限は努力目標ではなく必達義務ですので、状況は大きく異なります。

逆に言ってしまえば、これらの団体への所属をしていない、もしくは所属していたとしてもその所属団体が求めている最大値を下回った範囲であれば、自分の畑からどれだけのブドウを収穫するのかを決定するのは完全に自由なのです。

収量制限、グリーンハーベストとはあくまでも、必要であれば実施する、という類のものにすぎないのです。

 

収量制限で品質が向上するというのは本当か

収量制限は一面的には日本酒における酒米の「削り」に似ています。

雑味を取り除ぎ、凝縮された部分のみを使っていくことで原料の特徴がより浮き彫りとなります。

 

一方で、このような酒やワインが必ずしも好まれるかと言えばそうでもありません。

他の記事も通して何度も言っていることですが、酒やワインはあくまでも嗜好品。飲み手の好みもあれば、飲むシチュエーションでもそこに求められるものは変わります。

 

厳しい収量制限をしたワインには確かにそのワインにしかない特徴があります。しかしその特徴がそのワインを飲む誰にとっても必ずしも好ましい、もしくは望まれているものとは限りません

また近年の気候変動を受け、収量制限がネガティブに影響する可能性も出てきています

 

収量制限がネガティブに働く場合とは

収量制限を行うということは、ブドウの栽培においては取りも直さず残された房の果汁糖度が高くなることを意味します

つまりそこから造られるワインのアルコール濃度が相対的に高くなります。

 

これを嫌うワインメーカーは多くいます。

自分が表現したいワインのスタイルに大きく影響を及ぼすためです。

 

この事象に対する対策は大きく分けて以下の2点です。

収量制限を行ったうえで収穫時期を早くする
収量制限を敢えて実施しない、もしくは実施しても規定量ギリギリまで収量を増やす

それぞれをもう少し詳しく見ていきます。

 

早摘みによる果汁糖度のコントロール

果汁糖度はブドウの実の熟度に比例して上昇していきます。

一方で酸や一部の成分はブドウの熟度に応じて低下していきます。

 

この相互のタイミングを見極め、収量制限をしつつもブドウの果汁糖度が上がりきる前のタイミングで収穫を行ってしまうのがこの手法です。

収量制限自体は行われているためある程度の凝縮度を確保しつつも、早期収穫によって果汁糖度を低く抑えることで醸造後のアルコール度数を抑えることが出来ます。

 

デメリットとしては天候の状況によってはブドウの成熟を待たずに収穫することになるリスクがあることです。特にフェノールの成熟を待てない可能性が高く、一部の赤ワイン用ブドウ品種においては収穫の時期について難しい判断を迫られることが考えられます。

 

収量をあえて増やすという選択

昨今の気温の上昇および日照時間の長時間化によりブドウの光合成量は高まる傾向にあります。つまり、枝一本当たりの房の数を増やしてもそのすべてが十分な熟度を獲得できる程度には糖度の蓄積が可能になってきているのです。

このため収量を制限せず逆に増やすことで敢えて熟度の低い房を用意し、これらを混合することで全体の果汁糖度を下げる手法が用いられるようになってきています。

 

この手法の利点は、熟度の低い房から多少の青みが残る可能性はあるものの、まだ高い酸を取り込むことが出来る点にもあります。

成熟が進み果汁糖度は高くなったもののその分、酸が低くなってしまっている果汁に、果汁糖度が低いながらも酸は高い果汁を混ぜ込むことで全体的なバランスを整えていく、ということです。

 

一方でこの手法のデメリットは、収量が多くなりすぎる可能性がある、という点です。また天候次第によってはすべての房で十分な熟度を得ることが出来ない状態に陥る可能性もあります。

最大収量を規定されていない環境であれば品質さえ伴っているのであれば量の過大化は問題にもならないことですが、最大収量規制に縛られている環境下ではブドウを作りすぎてしまわないように注意が必要です。

 

収量制限の方法と注意点

収量制限にはいくつかの方法があります。
具体的には以下のようなものです。

枝の数を減らす
ブドウの房を除去する
ブドウの房の一部を切除する
植物ホルモンを使用する

 

いずれの方法にも共通する注意点があります。
それは、作業コストの計算とBotrytis (ボトリティス、灰カビ病) 発生リスクの上昇です。
また収量制限はそのやり方によって一切効果を得られない、もしくは限定的な効果に留まってしまう、ということにもなるほか、予想外の低収量化という被害を被る可能性もあります。

 

以下ではそれぞれの方法を簡単に説明した後に、収量を制限するための作業を効果的に実施していくうえで絶対に気を付けなければならない注意点について解説します。

 

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以下は有料記事内の目次です。

  1. ブドウの栽培家として最も気を付けなければならない大前提
  2. もっとも負担の少ない収量制限、枝数の調整
  3. ブドウの房を減らすという選択
  4. 落とす房はどう選ぶのか
  5. ブドウの房の一部分を切除する手法
  6. 花の段階で行う収量調整に意味はあるのか
  7. 収量調整における最重要事項とは
  8. 収量調整は他の対策との合わせ技で
  9. 植物ホルモン、ジベレリン酸の利用
  10. 今回のまとめ | 収量調整は諸刃の剣でもある

 

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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。フリーランスとしても活動中

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