栽培

土壌というもの

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メモ

この記事は2018年4月23日に公開したものに加筆修正を行った記事となります

 

日本でワインの紹介する際に、ワインの個性の1つとしてどのような土壌の畑で栽培されたブドウから造られたワインなのかに言及されることが多いように感じます。こういった傾向はもちろん日本だけに限った話ではないのですが、それでも日本ではその傾向が強いように思えます。

またテイスティング・ノートを見ていても花崗岩が、とか、堆積岩が、という記述に続いて、だからワインの味が、香りが、という所見が語られているのを見かけます。
事程左様に日本では土壌というものがワインを見ていく上で重要視されている印象が強いわけですが、この土壌というものは実際のところどれほど影響しているものなのでしょうか。

今回は「土壌」というものに注目していきます。

 

ブドウの根は岩を貫くのか

ブドウに限らず植物が土の中に伸ばしているものがあります。「」です。

この根の役割はいろいろありますが、重要なのはその植物が成長していく上で必要となる水と栄養を取得することです。例えばブドウの場合であれば、「フィロキセラ禍」として知られるものがまさにこの根の持つ役割が阻害されてしまったために大被害が引き起こされた事例です。

根は水を求めて土中に伸びていきます。
水がすぐそこにあれば浅くまで、水が深いところにしかなければ深くまで伸びていきます。

ここで考えていただきたいのですが、ブドウの根は花崗岩を貫通できるでしょうか。仮に花崗岩を貫通したとして、その岩の中にお目当ての水はあるでしょうか。

一般的に考えてみれば、答えは否です。ブドウの根は岩を貫きませんし、その岩から水と一緒に何かを吸い上げることはありません。この意味において、畑の土のなかに花崗岩があろうと堆積岩があろうと、関係ありません。ブドウはそれらの岩を避けて根を張りますし、仮に岩しかないような岩盤にはブドウは成長できません。

ここで重要になってくるのが、岩の風化というプロセスです。

 

土壌とはなにか

皆さんは「土壌」という言葉を聞いた時に何を思い浮かべるでしょうか。

非常によく誤解されていることですが、土壌というものは地面のことを意味しません。また岩盤のことでもありません。
極めて簡単に言ってしまえば、土壌とは地面表層部に存在している土、「表土」のことです。土ですので、そこには基本的に「岩」は含まれません。表土の下に存在する岩石類などは「地質」と呼ばれます。しかしその一方で、ワインの話に出てくる土壌は常に「岩」、つまり「地質」にまつわるものがその大半を占めています。これはどういうことなのでしょうか。

 

土壌を構成する三要素

岩の存在感の理由を理解するためにはまず土壌というものが何によって構成されているのかを知る必要があります。

本来土壌というものは無機物、有機物、気体、液体、生物の混合物として理解されますが、その中でも学問的に土というものを見ていくと、砂、岩粉、粘土という3つの要素の混合物と理解されます。このそれぞれの要素の混合比率に応じて出来上がる土の性質が変わり、異なる土、異なる土壌と判断されます。

 

この3つの要素を分けているもの、それは粒度、つまり一粒あたりの大きさです。

 

大きさの小さいものを砂、大きいものを粘土、その中間にあるものを岩粉と言っているのです。

 

土壌を形成するサイクル

地球上の土壌は大きなサイクルの中に存在しています。そしてこのサイクルの中に岩と土壌の関係があります。

 

土壌の出発点は岩です。

 

地球上に存在している岩が雨、風、地殻変動、地熱といった様々な影響を受けることでその形を小さくしていきます。長期に渡ってこの風化のプロセスを経ることで砕けた岩はどんどんと小さくなり、粘土や岩粉と呼ばれる大きさを経て砂に至ります。

サイズを徐々に小さくしていく流れがある一方で、この長い風化作用の途中でも砕かれた小片はあらゆるタイミングで地熱や圧力の作用を受けて固まり、次第にその大きさを大きくし、再度岩になっていく流れも存在します。そしてこうして出来た岩はまた長い年月をかけて風化し、一部は土に一部は再び岩になっていきます。

ここに「岩」の特徴が出ます。

畑の土壌は岩の風化によって造られた土の堆積したものを含みますが、一方で岩の風化はそんなに早い速度で進行しませんのでその土壌内にはまだ元になった岩が存在していることが多くあります。言ってみれば本来表土に覆われている地質が表面に出てきている状態のことですが、これが、土壌の話をしているときに岩は直接関係しないにも関わらず岩の名前が多く出てくることにつながっています。

 

岩の特徴とはなんなのか

その土壌が由来する岩(つまり「地質」です)の特徴が話題にのぼる際に非常によく言われることが、ミネラルです。

土壌に含まれるミネラル、つまり無機物は種類が多く、それぞれは土壌のもとになった岩ごとに含有割合がことなります。このため岩の種類とその風化度合いによって土壌中に存在するミネラル分の存在比率が異なることに異論はありません。

 

これが畑ごとの個性となって現れる、という言説も「一見すると」正しいように感じられます。

 

一方で、土壌のミネラル分はブドウの成長に影響はしても、ワインの味や香りには影響を及ぼさない、というのが今の代表的な学術的見解となっています。より具体的に言えば、根から吸収されたミネラル分はその全量がブドウの木の成長のために使用され、実の中に蓄積されることはない、ということです。

この見解に基づけば、土壌におけるミネラルの存在と、ワインに感じるミネラル感に相関関係はないことになります。

 

また実際にこの「ミネラル」という表現は表現内容の意思統一がなされておらず、使用者によって指している内容が異なる極めて曖昧な表現であるとして、一部の専門家は使用することを意図的に避けると明言しているものでもあります。

つまり、少なくとも現時点においては土壌もしくは地質の話をする際にミネラルという単語を持ち出すことは複数の面から適切であるとは言えないのです。

 

土壌における共通性はあるのか

ここまで土壌や地質というものがどういうものであるのか、ワインに影響を与えるのか、という点を概観してきました。

ここで1つ疑問があります。

 

同一系統の地質から生まれた土壌を持つ畑で栽培されたブドウから造られたワインに共通性はあるのでしょうか?

 

これはとても興味深い質問です。

もし答えがyesなら、世の中でよく言われる「~岩の土壌だから~という特徴」という表現が成り立つことになります。一方で答えがnoであったならこれらの表現はまったく意味がなかったことになります。一体、どちらなのでしょうか?

 

先程も述べたように、現時点における研究結果では主に地質由来である土壌中の含有ミネラル分はワインの味には影響を与えない、とされています。この点のみに注目すれば、土壌の類似性とワインの類似性の間に相関関係はありません

一方で、土壌の性質というものはそこに含有されるミネラル分のみに留まるものではありません。それは水分量、酸度、空気量などをはじめ非常に幅広い範囲に渡っています。ミネラルにしてもワインの味に直接の影響は持たなかったとしてもブドウの成長には大きな影響を及ぼします。

こうした広い範囲における条件が「同じ土壌の上で」整うのであれば、それはワインの味の共通性として出てくると考えることが出来ます。

つまり先程の問いに対する答えは、「いくつかの注意書きがつく前提であれば正解」といえるのです。

 

この「いくつかの注意書き」については別の記事として後日公開をしますので、ご興味のある方はそちらを御覧ください。

 

今回のまとめ | 土壌と地質は似て非なるもの

土壌と地質とその関係性におけるワインへの影響などといった小難しいタイトルを付けられそうな内容を見てきました。今回の内容を見ていただくと、ワインのテイスティングをする際に土壌と言われているものがまま地質のことであったりしていることがお分かりいただけたのでないでしょうか?

 

土壌も地質も似たようなものと思われるかもしれませんが、ブドウ栽培、ワイン醸造においてはこの両者には大きな隔たりがあります。ブドウの根は多くの場合、地質の層まで届かないからです。
ブドウの根が土壌の領域に留まっている限りにおいては我々が注目すべきは土壌です。つまり、直接的な岩の影響ではありません。

 

岩は確かに土壌に影響を与えますが、土壌そのものではありません。また土壌は岩からのみ影響を受けているわけでもありません。地質の与える影響はあくまでも土壌を構成する一要素に過ぎず、地質だけで土壌を語ることは不可能です。

 

そのごく一部の構成要素でしかない存在がワインの味に与える影響力というものはどれほどのものでしょうか?

 

今までの流れで来れば、そんな影響力はない、もしくは小さい、という結論になりそうなものですが、実は一概にそう言えるものでもありません。ただし、その影響のしかたはおそらく皆さんの想像の埒外にあります。
これが上述の「いくつかの注意書き」です。

土壌はワインに影響する。

この点はそんなに簡単な一言で言い表せるようなものではない、とてつもなくディープなお話です。
このお話にお付き合いいただける方は、ぜひ後日公開予定の「土壌とブドウ、そしてワイン」の記事を御覧ください。

 



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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。フリーランスとしても活動中

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