栽培

土壌というもの

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ワインのテイスティングレポートなどを見ているとよく花崗岩が、とか、堆積岩が、という記述に続いて、だからワインの味が、香りが、という所見が語られているのを見かけます。ワインのテイスティングをする場合は通常、土壌の話ではなく、テロワールとして話をしているはずですのでこのテイスティング・ノート自体に問題はないのですが、ブドウ栽培の面から見て、この考え方は本当に正しいのでしょうか?つまり、土壌、という点に注目した時にこの理解でいいのでしょうか?

ブドウの根は岩を貫くのか

冷静に考えてみてください。ブドウの根は、花崗岩を貫通できるのでしょうか?仮に花崗岩を貫通したとして、その岩の中にお目当ての水はあるのでしょうか?

 

一般的に考えてみれば、答えは否、です。ブドウの根は岩を貫きませんし、その岩から水と一緒に何かを吸い上げることはありません。この意味において、畑の土のなかに花崗岩があろうと堆積岩があろうと、関係ありません。ブドウはそれらの岩を避けて根を張りますし、仮に岩しかないような岩盤にはブドウは成長できません。つまり、花崗岩があるからワインの味が変わる、という表現は土壌という視点から見れば違和感の塊です。

 

しかし一方で、これらの土壌から取れたブドウを使ったワインの味が他のものとは異なる、というのもまた、飲んだ時の実感として感じられることではあります。

これはなぜなのでしょうか?

 

答えの一つは、おそらく地熱です。花崗岩や堆積岩といったものはそれぞれ物質としての熱伝導率が異なるはずですので、これらの含有率が高い土壌では地熱の高さや変動に影響が出ているはずです。この要因は間接的にブドウの根の成長速度に影響を与え得るものですので、結果としてブドウの樹の生育に影響を与え、そして果実の熟成に影響を与えているはずです。

 

しかし、実際はこれよりももっと直接的で、大きな要因があるのです。

 

土壌とはなにか

皆さんは土壌、という言葉を聞いた時に何を思い浮かべるでしょうか?

 

人によっていろいろあるとは思いますが、筆者が思い浮かべるものは3つの構成成分とその混合比率です。これだけ聞くと一体何を言っているのかわからない、という方のほうが多いと思います。順を追って説明しましょう。

 

まず、地質学的に土壌というものは3種類の要素から成り立っており、その混合比率によってさらに細かく分類されるもの、と捉えられています。そして、その3要素とは砂、岩粉、粘土です。すべての地質はこの3つの要素の混合比率によって表現することが可能です。

 

まず気にしていただきたいことが、土壌の構成要素に岩は含まない、ということです。

すでに前述したとおり、植物は岩には根を張りませんので当然といえば当然なのですが、この段階ですでに土壌の話に岩を持ち出してくることに違和感を感じる、という理由をお分かりいただけるかと思います。ただし、岩がまったく無関係か、といえばそんなこともありません。岩は風化すると砂になりますし、砂や粘土が堆積を経て圧縮されると岩になるからです。つまり、岩の存在は超長期スパンでみれば、3要素の構成比率に影響を与え得るものでもあります。ただ、現状の地質や土壌の話をする限りにおいては、各要素の構成比率に対して影響力を持つことはありません。

敢えていうのであれば、同じ種類の岩が多く存在する場所では結果的に、3要素の構成比率が傾向的には似通ってくる、という程度のものです。

 

そして、この3要素の混合比率が変わると何が変わるのか、というと、端的にその土壌における水分保持量が変わります。さらにいうと、植物の根が吸い上げることのできる水分の量が変わります。このことはブドウの生育に大きく影響します。

まずこれが要因の1点目、です。

 

構成比率の違いは栄養素に影響する

2つ目の要因として考えなければならないのが、植物が成長するのに必要となる栄養素の違いです。

 

土壌の構成要素が変わるということは、当然そこに含まれ得る各種栄養分の存在比率も異なります。これにより、ブドウの成長状況は異なってきます。

ここで頭を過るのがミネラル、という言葉です。どれそれの岩が多いのだから、この土壌にはミネラルが豊富なはずだ、もしくはミネラルが少ないはずだ、というフレーズで使われるあれです。確かに土壌の種類によってそこに含まれるミネラルの含有量は異なります。これが植物の成長に対して影響を持つことは確かなことです。一方で、土壌のミネラル分はブドウの成長に影響はしても、ワインの味や香りには影響を及ぼさない、というのが今の代表的な学術的見解となっています。この見解に基づけば、土壌におけるミネラルの存在と、ワインに感じるミネラル感に相関関係はないことになりますので、スレートの土壌から造られたワインは硬い印象が、、、というようなイメージは少々懐疑的、ということになります。

 

話が逸れました。

ブドウの成長においてもっとも重要な栄養素は窒素ですが、この窒素の供給量も土壌における3要素の構成比率によって影響を受けます。また、この点に関しては地中の温度も影響を与える要因となっていますので、冒頭の岩の存在が影響力を持つ可能性があります。この窒素量はブドウの生育だけでなく、その後のワイン造りの過程においても非常に大きな影響を与える要因ですので、決して無視できない要素です。土壌の構成の違いがこの窒素量に影響を与えるのであれば、土壌の違いによるワインの特徴への影響は当然ある、と言えるのです。

 

テロワールを合わせることは出来るのか

土壌の構成比率は極めて広い範囲に及んで、ブドウの生育に数々の影響をもたらします。その内容は、上記の水分や栄養のことから、ブドウ畑内の微小気候に至るまで本当に様々です。そして、この構成比率を完全に一致させることは、人工的に相当手を入れたとしてもおそらく不可能です。

なぜなら、この構成比率やそこから発生する影響の数々は一度決まったらそのまま固定するものではなく、気温や湿度、降雨量によって変動するものだからです。仮に一度は土壌の構成をどこかの畑のものと完全に一致させたとしても、その後の変動まで完全にコントロールすることができない以上、そのテロワールは別物だと考えざるを得ません。この意味で、テロワールとはその畑のその場所固有のもの、ということが出来るでしょう。

 

時々、年間気温や降雨量、そしてその変動データのみをみて、その状況がどこそこの畑に似ているから同じ品質のブドウが作れるはずだ、というようなことを仰る方がいますが、大きな勘違いだと言わざるを得ません。そもそも年間”平均”気温や”平均”降雨量というものは全体の推移という視点から見れば相当な誤差を含みます。そして、その誤差の範囲が土壌に与えている影響は決して小さくはないのです。そのような違いがある場所で、同様の品質、特徴を持ったブドウが採れるわけがないのです。

 

そもそもそれをすることに意味があるのかは疑問ですが、もし仮にテロワールの模倣をしたいのであれば、まず一番先に手を付けるべきは土壌の調査です。その場所はどのような土壌なのか、つまり3要素がどのような比率で構成されているのかを知ることから始めなければなりません。そのうえで、気象条件を見ていくべきなのです。

 

すでに述べたことではありますが、土壌の性質が及ぼす範囲はとても広大で、簡単に話をすることは出来ません。ワインを飲む時に注目したほうが良い点と、ブドウを栽培する際に注意しなければいけない点もまた異なります。ブドウ栽培者が気にしなければいけない点は、チェックリストにするくらいたくさんあるのです。逆に言えば、そこまでしなければ自分の畑を理解することは難しい、ということでもあります。

 

ただ一方で、ワインを飲む際にも”これは花崗岩だから”、というようなだけではなく、どのような土壌だから、というところまで踏み込んで気にしてみると、今まで見えてこなかった世界がより一層、拓けてくるかも知れません。


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