ワインのマーケットは世界中に存在しています。
その数ある市場の中でも特に存在感が大きいのが英国で、世界中のワインメーカーがこの市場における自身のワインの評価に注目しています。
この一方で、特にドイツワインにとって無視できない市場がアメリカ市場です。ドイツワインの輸出に関する統計を見ると、米国市場は2位以下に金額ベースで倍以上の差をつけての断トツのトップです。
現にアメリカ向けの出荷が多い小規模のワイナリーではその生産のほとんどをこの市場向けが占めており、造ると同時に売り切ってしまう、などという例も決して少なくありません。それほどまでにワイナリーにとってインパクトの大きな市場なのです。
このドイツワインにとって極めて重要なマーケットであるアメリカ市場ですが、実は世界的にみてもかなり癖の強いことでも有名です。輸出及び現地での販売に関する障壁がとても高いのです。
このためどうやってこの市場向けの出荷を増やしていくのか、という点はワイナリーのマーケティング戦略上でとても重要度の高い部分です。そんなアメリカ向けの販売戦略ですが、やはりカギになるのが人と人のつながりだと聞いたらどのように思われるでしょうか?
どのような商売においても影響力の大きいキーマンと呼ばれる人物は存在しています。
この例に漏れず、アメリカに向けてワインを売るためにぜひ良好な関係を結ぶべき人物というものがもやはり存在しています。そしてそのような人物の一人と噂されているのが、Terry Theise氏。今回の記事の中心となる人物です。
注意ポイント
筆者はこの辺りの真相にあまり詳しくないため、あくまでも“噂”ベースでのお話になってしまいますことをご了承ください
今回はこのTerry Theise氏が公表した2018年のドイツワインに関する記事を紹介したいと思います。
アメリカ市場の重要性
ドイツワインの輸出市場は近年、年々伸びる傾向にあります。
2016年には数量ベースで997,000 hl、金額ベースでは288,000 k Euroだったものが2017年には、ドイツ国内全体で雹などによる被害のために大きく生産量を減らしたにも関わらず、数量ベースで1,065,000 hl、金額ベースで308,000 k Euroと数量、金額ともに7%前後の伸びとなりました。
そしてこのおよそ25% (金額ベース) がアメリカ向けに輸出されています。
その規模は、2016年で187,000 hl、80,000 k Euro、2017年では188,000 hl、79,000 k Euroです。
(統計数値に関してはいずれもDeutsches Weininstitut GmbH発表の資料より抜粋)
メモ
1 hl = 100 l
1 k Euro = 1000 Euro
金額ベースの輸出量で2位につけているオランダ市場が全体の10%弱ですから、その突出した規模とそれに伴う市場としての重要性がお判りいただけるかと思います。
Terry Theise氏ってどんな人?
そんなドイツワインの輸出に関して非常に重要な意味を持つとされているTerry Theise氏とはどんな人物なのでしょうか?
彼はいわゆるワインジャーナリストでも今を時めくMW (Master of wine: マスター・オブ・ワイン)でもありません。彼はアメリカのワインのインポーターです。
Washingtonpost.comに掲載されているこちらの記事によれば、彼はまだアメリカのワイン愛好家のほとんどがリースリングについて知らなかった1980年代からドイツワインの輸入を開始しています。
彼が発表するテイスティングノートは産地や気象変動、地理、ワイナリーやワインメーカーの歴史、そしてビジネストレンドなどの情報を含んでおり、その内容は高額なワインコースに代替できるものとしても注目を集めているそうです。
Therry Theise’s Best German Wines and Winemakers – Vintage 2018
原文はschiller-wineのサイトに掲載されています。
一方でこちらのブログサイト、写真や情報の整理があまり整った形でされていないため、若干、読みにくいのが難点です。もしもう少し整理された形の情報にアクセスしたい場合には、こちらのサイトの方が見やすいかと思います。
記事の翻訳はしませんが、レポートの冒頭には2018年のヴィンテージに関する情報がまとめられています。夏の気温が例年以上に高い水準で推移したことによる酸量の低下に関する点が全体的に強調された内容となっています。
一方で筆者個人としては“ストラクチャー”について考察を加えている部分、
Usually that meant phenols, which often worked but sometimes didn’t. Consider what this says about them, and how they view their wines. They want a tangible skeletal shape to the wines, they want visible outlines and contours, they want a discernible progression of flavor; they don’t want fluidity, they prefer solidity.
が非常に興味深かったです。
非常に示唆に富んだ内容なので、ぜひ一読することをお勧めします。
THE WINERY OF THE VINTAGE
2018年の最優秀ワイナリーとして、Willi Schaeferが選ばれています。
Willi Schaeferは1121年から続くモーゼルのワイナリーで、所有する4 haの畑のすべてがリースリングに特化しています。
その他の候補として同じくモーゼルのSelbach、ナーエのDönnhoff、ラインガウのKünstler、プファルツのMingesとMüller-Catoirがノミネートされていたようです。
THE WINE OF THE VINTAGE
The winery of the vintageに選ばれたWilli Schaeferの「Graacher Domprobst Riesling Spätlese」がベストワインとしていますが、賞にはDönnhoffの「Oberhäuser Leistenberg Riesling Kabinett」が選ばれています。
このワインは筆者も試飲していますが、確かにとてもきれいな仕上がりでドイツのリースリングらしさを端的に表したワインでした。しかも値段が12.80ユーロと非常に手ごろなことも好印象でした。
なおこの賞には
- Künstler: Kirchenstück Riesling Trocken 1er Lage
- Dönnhoff: Oberhäuser Leistenberg Riesling Kabinett
- Diel: Burg Layer Schlossberg Riesling Trocken
- Loewen: Riesling “1896”
- Selbach-Oster: Zeltinger Sonnenuhr Riesling Spätlese 1-star
- Schaefer: Graacher Domprobst Riesling Spätlese
が候補として挙げられています。
THE GREATEST NON-RIESLINGS
Therry Theise’s Best German Wines and Winemakersレポートではリースリング以外のブドウ品種によるワインも一部取り上げられています。
ここでは、
- Minges: Scheurebe Feinherb / Rieslaner Spätlese / Gewürztraminer Spätlese “Rosenduft”
- Muller-Catoir: Haardt Scheurebe Trocken / Rieslaner Auslese
- Von Winning: 2018er Sauvignon Blancs “I” / 2017er Sauvignon Blancs “500”
の3ワイナリー、7本が特に取り上げられています。
THE GREATEST FEINHERB WINES
このレポートでは特に“feinherb”、つまり甘口よりの中辛口のカテゴリーについても言及しています。
実際にこのカテゴリーのワインは飲み疲れしにくく、食事にも合わせやすいものが多いことが特徴です。より日常的なシーンで飲むワインをセレクトしていくのであれば、GGのような高級クラスの辛口やデザートワインのような甘口に注目するよりも意味のある項目設定だといえます。
このカテゴリーでは、
- Meßmer: 2018er “Muschelkalk”
を筆頭に
- GOLDATZEL: 2018 Johannisberger Goldatzel Riesling Spätlese Feinherb
- WEINGART: Bopparder Hamm Engelstein Riesling Kabinett Feinherb
- SELBACH-OSTER: Graacher Domprobst Riesling Spätlese Alte Reben / Zeltinger Sonnenuhr Riesling Ur-alte Reben Spätlese Feinherb
- KRUGER-RUMPF: Münsterer Dautenpflänzer Langenberg Riesling Feinherb
が紹介されています。
Pinot Noir
最近いろいろな場所で注目が集まっているドイツの赤ワインについても、特にPinot Noirの項目を設けて紹介されています。
- BRAUNEWELL: 2016er Spätburgunder Essenheim
- DAUTEL: 2016er Spätburgunder Schupen GG
- ZIEREISEN: 2016er Spätburgunder Rhini
THE GREATEST VALUES, AT ANY PRICE
最後にプライスカテゴリーごとのおすすめワインがリストされています。
- GEIL: 2018er Riesling Geyersberg “GG”
- STRUB: 2018er Niersteiner Hipping Thal Riesling Spätlese
- BRAUNEWELL: 2018er Scheurebe Halbtrocken LITER
- KÜNSTLER: 2018er Estate Riesling Trocken
- DÖNNHOFF: 2018er Riesling “Tonschiefer” Trocken
- DARTING: 2018er Pinot Blanc Kabinett Trocken
- MEULENHOF: 2018er Wehlener Sonnenuhr Riesling Spätlese
こちらのリストを見てみると、ワインによっては当然数十ユーロするものも入っていますが全体的には10ユーロ半ばくらいのワイン (例としてDönnhoffのTonschieferが13ユーロ弱です) が多く選ばれています。
このことからも、TERRY THEISE’S 2018 GERMANY VINTAGE REPORTでは品質はとても高いけれども値段も高く、なかなか手が出ないような高級ワインではなく、日常的に栓を抜くことが出来るワインということを重要視したセレクトをしていることが伺い知れます。
このリストが実際のところどれだけアメリカ市場における取り扱いや売り上げに影響しているのかを正確に言及することはできませんが、レポートの内容としては非常に興味深く、取り扱っているワインも金銭的な面も含めて比較的入手しやすいものになっています。
このレポートが提供する視点が特定市場におけるトレンドになる可能性がある、ということも重要ですが、ドイツワインに興味を持つ個人としても重宝するレポートです。
ぜひ活用してみてください。
おまけ
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