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Youtubeチャンネル | Nagiさんと、ワインについてかんがえる。
ワインブロガーであるヒマワイン氏と当サイトの運営者であるワイン醸造家のNagiがワインについて語り合うオンライン企画、"Nagiさんと、ワインついてかんがえる。"。
第38回のテーマはワインの仕様とその影響です。
ワインの微細な世界:栓と濾過が織りなす熟成の妙
ワインの味わいを決定づける要素は数多ありますが、瓶詰めという最終工程においても、その風味は繊細な変化を続けます。本稿では、ワインの栓(クロージャー)の種類と、製造工程におけるフィルターの有無という二点に着目し、それらが熟成という時間軸の中でワインにいかなる影響を及ぼすのかを探ります。
近年、ワイン生産の現場では、伝統的な天然コルクに加え、スクリューキャップや合成コルクなど、多様な栓が用いられるようになりました。これらの栓は、それぞれ酸素透過率(OTR)が異なることが知られています。一般に、酸素透過率が高い天然コルクはワインの熟成を比較的速やかに促し、一方で密閉性の高いスクリューキャップは熟成を穏やかにするとされています。さらに、天然コルクからは微量のフェノール成分がワインに溶け出し、熟成の過程で複雑な風味の発現に寄与する可能性も指摘されています。また、栓と液面の間に存在するヘッドスペースの容積差も、熟成環境に影響を与える無視できない要素です。例えば、スクリューキャップはコルク栓に比べてヘッドスペースが大きくなる傾向があり、これが熟成の速度や方向性に作用する可能性が考えられます。あるワイナリーでは、同一のソーヴィニヨン・ブランを3種類の異なる栓で瓶詰めし、その熟成の差異を消費者が体験できる試みを行っています。
もう一つの焦点は、フィルター処理の有無です。ワインは通常、清澄度を高めるためにフィルター処理が施されますが、近年では敢えてフィルターを通さない「ノンフィルター」のワインも注目を集めています。ノンフィルターのワインには、酵母や乳酸菌などの微生物が瓶内に残存する可能性があります。これらの微生物は、瓶内での熟成期間中にマロラクティック発酵のような変化を引き起こし、ワインに特有の風味やテクスチャーをもたらすことがあります。ある甲州ワインの生産者は、同じタンクのワインをフィルター処理したものとしないものの二種類に分け、その違いを検証する取り組みを行っています。ノンフィルターの甲州ワインには、タンパク質に由来する僅かな濁りが生じることがありますが、これが「旨味」や「複雑さ」といった肯定的な要素に繋がり得ると生産者は語ります。ただし、特にpHが高い日本のワインの場合、ノンフィルターにすることで微生物の活動が活発になりやすいため、生産者としては早めに消費することを推奨する場合もあるようです。
これらの試みは、ワインの最終的な品質が、ブドウの栽培や醸造過程だけでなく、瓶詰めという工程における微細な選択によっても左右されることを示唆しています。ワインの熟成とは、まさに時間と環境が織りなす神秘であり、その深遠なる世界の探求は、生産者と愛好家の双方にとって尽きることのない魅力と言えるでしょう。