ここしばらく、急にドイツの赤ワインに関する記事を目にすることが増えたように思います。そして、その多くが近年におけるドイツの赤ワインの品質向上と、世界的な地位の向上を伝える内容となっています。
躍進中のドイツ赤ワイン
筆者自身も4月の末にMainzで開催されたVDP主催の試飲会で複数の赤ワインを試してみて、その変化には驚きました。特に、今までSpätburgunder (シュペートブルグンダー、Pinot Noir)の赤を造るには寒すぎる、とされていたMoselのワイナリーにも関わらず、とても品質の高い赤ワインを出展していたMaximin Grünhausは特筆に値しました。
これらの変化は、とりもなおさず、ドイツにおける年間気温をはじめとした気象条件の変化の結果です。
”ドイツはブドウ栽培の北限の地・・・?”の記事でも書きましたが、最近のドイツの年間気温は大幅な上昇を見せており、これにともった栽培可能なブドウ品種も変わってきています。2018年に至っては、4月の最高気温が28℃を超える日まで出ています。このような温暖化が赤ワイン用ブドウ品種の成熟を助ける結果になっていることは疑いがありません。
ドイツのSpätburgunderトップ10
このような風潮に乗っかるかのように、先日、”Top 10: German Spätburgunder / Pinot Noir 2015 - Vinum WeinGuide Deutschland 2018"というタイトルの記事が話題になりました。
これはタイトルの通り、2017年11月に発刊された The Vinum WeinGuide Deutschland 2018に掲載されたワインの中から2015年のSpätburgunderの赤ワインをピックアップし、点数によってランキングしたものです。元にしている書籍の発刊が昨年の11月なので内容的にそこまで目新しいわけではないのですが、改めてその内容を見てみると興味深いところもあったため、改めてこのBlogでも取り上げてみたいと思います。
この記事に掲載されたTop 10のワインは以下の通りでした。
96 Points
- Weingut Knipser/ Pfalz RdP Barrique
- Weingut Rudolf Fürst/ Franken Bürgstadter Hundsrück Grosses Gewächs GG 96 Points Euro 108
- Weingut Bernhard Huber/ Baden Malterdinger Wildenstein Grosses Gewächs GG 96 Points Euro 49
95 Points
- Weingut Rudolf Fürst/Franken Klingenberger Schlossberg Grosses Gewächs GG 95 Points Euro 67
- Weingut Bernhard Huber/Baden Hecklinger Schlossberg Grosses Gewächs GG 95 Points Euro 59
94 Points
- Weingut Knipser/ Pfalz Dirmsteiner Mandelpfad 94 Points
- Weingut Koch/ Palz Hainfelder Letten Grande Réserve BK 94 Points Euro 50
- Weingut Uli Metzger/Pfalz Arthos Euro 38
- Weingut Bernhard Huber/Baden Malterdinger Bienenberg Grosses Gewächs GG 94 Points Euro 44
- Weingut Jean Stodden/ Ahr Lange Goldkapsel 94 Points Euro 85
ランキングから分かること
上記のランキングを見ていただくとすぐに気が付くのが、その産地の偏りです。対象の10本を産地ごとにソートしてみると、
ポイント
- Pfalz x 4 (3)
- Franken x 2 (1)
- Baden x 3 (1)
- Ahr x 1 (1)
となります。
Ahr以外は南の地域になっているのは気象条件を考えれば不思議ではありませんし、Ahrに関してもそのもともとの赤の産地として知名度を考えれば驚きはありません。また、産地における偏りと同様に、生産者にも偏りが見られます。※上記のリスト中、()で囲んだ数字がワイナリー数となります
言ってしまえば、Pfalz以外ではどの産地でも一軒のワイナリーしか選ばれていません。これはなかなか興味深い結果です。というのも、このランキングには選出者の好みや"ドイツの赤“というものに対する、ある意味でのステレオタイプが感じられるからです。
ランキングをどう見るか
まず先に断っておかなければならないことは、ワインとは嗜好品であり、その好みには個人差がとても強く反映されるものであるということです。
世の中にはとても有名なワインテイスターの方がいらっしゃいますし、それらの方々が独自にワインを評価、点数付けしたものを多くの方が参考になさっています。これは参考にする、という意味ではとても意義のあるものであることは間違いありませんが、その一方であくまでも個人の感想に基づくものであることを念頭におくことは必要です。
テイスターの方にしても生きている人間ですから、その日の体調や気分、何よりも年齢などによってどうしても感じ方は変わります。何をどう頑張っても機械的な絶対評価はできず、あくまでもいろいろなファクターによる相対評価であることは否定できません。
ですので、これらのテイスターの方がいくら絶賛していたとしても、合わないものは合わないですし、気に入らないものは気に入らないのは当然のことです。いくら有名なテイスターといえども一個人であることは違いないので、その評価をあたかも絶対のように思いこむ必要はありません。
さて、逸れた話を戻してみると、上記のTop 10のランキング結果は、少々、旧態依然とした考え方に基づいているように感じます。
実際に前述のVDPの試飲会でこれらのワインを何本か試飲してきましたが、全体的に似た傾向にあったように思います。そしてその傾向とは、かつてのドイツの赤によくみられた傾向と多くの場合一致したものでした。少々無理やりに言えば、強いワイン、という印象です。
これに対して、例えばMoselのMaximin Grünhausの赤は様相が異なりました。強さよりもエレガントさの目立つ造りだったと個人的には感じました。そして、このような典型的な従来型のドイツの赤とは少々異なる造りの赤は、これ以外にも何本か見つけることが出来ました。その意味で、このVDPの試飲会への参加はこのような造りの赤ワインが確実に増えてきていることを感じられる結果を得られ、満足できるものだったと思っています。
余裕が出れば幅が広がる
今後、気象的な条件が改善されていけば、赤ワインを造る環境にさらなら余裕が生じてくる可能性が高くなります。そうなると、今まではできなかった醸造的なアプローチをとることが可能になります。強さよりもエレガントさを求める醸造は、このような余裕のある環境でこそ可能となります。
強い赤ワインが嫌いなわけではありませんが、個人的にはもっとエレガントさのある赤ワインが増えることを望んでいます。その結果として、ドイツの赤ワインに対する思い込みのようなものが変わり、上記のようなランキングの内容が変わってきてくれることを期待したいと思っています。