ワイン

ワインの新しいかたち | バッグ・イン・ボックス

08/08/2021

大容量で家飲みに最適だとしてバッグ・イン・ボックスが人気です。

バッグ・イン・ボックス (Bag-in-Box: BIB) とはワインが入れられた袋 (Bag) を紙の箱 (Box) に入れたもののこと。容量が2L以上あるものがほとんどで、中には5Lというものも販売されています。その外見からボックスワインとも呼ばれています。

密閉された袋の注ぎ口から飲み大量のワインを注いで飲めるため酸化のリスクが低く、開封後も数週間かけてゆっくり飲めるといわれています。ガラスを使わず紙とプラスチックの袋だけなので軽いほか、容器の破損が起きにくく、飲み終わった後のゴミ出しが楽な点も人気の理由です。

最近は缶入りのワインやカップに入れられたワインも出てきていますが、こうした従来になかったワインの容器のなかでもBIBは認知が広がりつつあり、受け入れられる素地ができてきているように感じます。

BIBは環境にも優しい容器として注目されています。国や地域によっては従来のガラスボトルからBIBへの切り替えを推奨するケースも出てきています。

BIBは従来の重厚でかっちりとした印象のあるボトルワインに比べてはるかに気軽な印象を消費者に与えます。今注目の容器、BIBの特徴を見ていきます。

環境親和性の高いバッグ・イン・ボックス

現代はサスティナブルの掛け声とともに環境親和性や環境持続性が注目されている時代です。クラシカルな印象を持たれることの多いワインであってもこの流れは同様です。

サスティナブルを考える場合、BIBは従来のガラスボトルよりも圧倒的に優れています。interpackという国際メッセの特設サイトではBIBの利点を次のように説明しています。

BAG-IN-BOX WINES—WHO BENEFITS?

a) Manufacturers and online sales sites

Low logistics costs, easy to transport

Cannot break

Weight savings of almost 40 percent compared to conventional glass bottles

Manufacturing costs for packaging for 20 litres of wine: 1.70 euros instead of around 6.40 euros

Large print area for marketing purposes

b) Bulk purchasers

Ideal stacking capacity, saves space

Low purchasing and transportation costs

Capacities of up to 1,000 litres, also applies to oils and dressingsy

c) End consumers

Up to 40 percent less expensive than wine in glass bottles

Practical: no risk of breakage, can be opened without aids (corkscrews), resealable

Hygienic and convenient access to content

The pouch protects wines against light and oxygen: ensuring consistent wine quality

Once opened, boxes stay fresh for another four to six weeks

Offers for special cool boxes for up to three BIBs are available, powered via electric sockets or the cigarette lighter in cars

d) The environment

Low fuel consumption during transport, resulting in twenty times less CO₂ emissions compared to conventional glass bottles.

Recycling: Pouches belong in recycling, the cardboard belongs in paper waste

Upcycling options: Can be reused as bags for toiletries, coverings for hot-water bottles and pillows for camping holidays

BAG-IN-BOX WINES: HANDY AND SUSTAINABLE

ドイツで加入するワイナリーが増えているサスティナブルを主眼においた認証団体、FAIR’N GREENでもワインの輸送にかかるエネルギー量などが評価対象として取り入れられており、いかに輸送時の必要燃料や排出ガス量を引き下げるのかを各加盟ワイナリーが検討し、実践していくことが求められています。そうした動きの中でBIBはきわめて高い効果を発揮する手段の1つです。

バッグ・イン・ボックスの作りと種類

一口にBIBといってもいくつか種類があります。

容量の違いはもちろんですが、それよりも重要な違いは袋の作りの違いです。

BIBに使われているプラスチックの袋は外から見てもわかりませんが、多くの場合、複数構造になっています。日本で日常的に見かけるPETボトルと同じです。それぞれの層に別々の機能性を持たせることでより適切にワインの品質を保てるようにしています。

こうした素材の構造の違いは開発しているメーカーごとに異なっていますが、多くの場合は外側の層をアルミ薄膜などを蒸着したPETにすることで高いガスバリア性を持たせ、内側に低密度ポリエチレン (low density polyethylene: LDPE) やエチレンビニルアセテート (ethylene vinyl acetate: EVA) の層を張り合わせているケースが多いようです。

袋の部分に使われているプラスチックフィルムの種類など関係なさそうに見えるかもしれません。ところが実際にはこの部分の違いがワインの品質維持に大きな影響を及ぼすことがわかっています。ワイナリーがBIBを採用するとする場合には無視できない点だといえます。

なおBIBの袋が真空パックだと説明されている場合がありますが、ワインの充填は不活性ガスを封入して行われており、内部は真空状態にはなっていません。

バッグ・イン・ボックスでワインは劣化しないのか

ワインとしてサスティナブルであることを重要視するのであれば従来のガラスボトルからBIBに切り替えていくことは半ば必然の選択です。一方でよりよい状態でワインを楽しんでもらうことを重要視するのであれば、BIBを使用した場合の影響の程度を無視して容器を切り替えていくことはできません。

そうした視点から判断するのであれば、現状においてはBIBへの全面的な切り替えはいまだ時期尚早だといえそうです。

劣化の目立つバッグ・イン・ボックス

ここからの内容は2014年に発表された研究レポートの内容をもとにしています。機能性フィルム開発にかかわる化学の分野は技術が日進月歩で進化していますので2021年時点ではすでに状況が変わっている可能性があります。その点をご了承のうえでお付き合いください。

2014年に結果が公開された研究に、まったく同一のワインを同日、従来のガラスボトルと2種類のBIBにそれぞれ充填し、その後の変化を追跡調査したものがあります。その研究では充填後同一環境下に保管したそれぞれのワインを3, 30, 60, 90, 180日後に分析しています。

この研究の結果によると、BIBに充填したワインはガラスボトルに充填したワインと比較して明らかに劣化する傾向が確認されました。これは化学的な分析結果のみならず、専門のテイスターによる官能評価の結果でも同様でした。

特にテイスターによる官能評価では60日経過時点で"unacceptable"として設定された評価水準を下回っています

注目すべき点は2つあります。

1つ目は官能評価の結果が化学的分析結果とは微妙に異なっている点です。分析の結果ではBIBに使用されている袋の種類の違いによって劣化の程度に差が見られました。この袋の種類の違いによる差は統計処理上の判断からは有意差とはいえないものもありましたが、一方で有意な差になっているものもありました。つまりBIBの袋に使われるフィルムの種類によっては劣化の度合いが相当程度抑えられていたのです。これに対してテイスターによる官能評価ではこのような差はなく、60日目以降、どちらの種類のBIBでも評価結果がほぼ完全に一致していました。

2つ目の注目点は、こうした評価の結果は"開封後"ではなく、"保管期間経過後の開封直後"であった点です。

従来、BIBの特徴は開封後も酸素の流入がないため長い期間にわたって酸化することなく楽しめる、というものでした。(酸化せず風味を保てるお醤油のペットボトルと同じだと思ってください)

ところが実験の結果はまったくの逆だったわけです。開封の有無にかかわらず、充填から一定の期間が経つとその時間に応じて中身のワインが劣化していたのです。

この劣化の内容には調査対象としたワインに使われているブドウ品種や保管条件の違いによって多少の差があることが複数のレポートを見るとわかりますが、本質的な部分は同じ傾向を示しています。

特にテイスターが"unacceptable"と評価したのは充填後60日経過時点でしたが、官能評価の結果自体はそれ以前、充填後3日後の時点からすでにBIBがガラスボトルを下回る様子を見せており、その傾向は充填後30日の時点ですでに明確な差として現れています。

今回のまとめ | 特徴を見極めた使い方が必要

今回参考にしているレポートの結果に基づく限り、BIBの採用にはまだ慎重な判断が欠かせません。しかしその一方で、BIBがサスティナブルの視点からは非常に大きな意味を持っていることは間違いのない事実です。またBIBに使用される機能性フィルムの技術開発は日々進んでおり、2014年のレポート発表時点の課題が現在でもいまだ課題であり続けているとは限りません。

そうした事実と、おそらくBIBである限りは避けられないであろう問題点も含めたうえで、BIBの特徴に合わせた使い方を検討していく必要があります。

特に開封後ではなく、充填後の消費期間を考慮する視点は重要です。この視点に基づいて、いわばBIBワインの賞味期限を延ばすためにBIBに向いた特徴のワインをそれように用意していく必要もあるでしょう。

こうした動きは何もBIBに限った話ではありません。

缶入りワインには缶入りワインに合わせた調整が求められますし、カップ入りのワインであればやはりカップ入りのワインに合わせた調整が求められるはずです。こうした調整はボトリング前だけではおそらく難しく、ワインのスタイルを変えるという意味で収穫時点まで遡って用意しておく必要があります。

大規模のワイナリーであればともかく、小規模ワイナリーがこうしたすべての調整に対応することはできません。

BIB、缶、カップ。

いずれの容器も従来のワインのイメージを覆し、より手に取りやすく、より気軽にワインを楽しめることを主眼においているものです。こうした流れは最近のワイン業界の中では無視できないものになっています。

では自分たちはその流れにどの部分で乗っていくのか。昨今のBIBの人気は今後のワイナリーの戦略にはそうした視点が必要になることを如実に示しているようにも思えます。

より詳しく知りたい方は

ガラスボトルとバッグ・イン・ボックスの比較研究の詳細についてはオンラインサークル「醸造家の視ている世界を覗く部」内に解説記事を掲載します。またその記事を一部編集したものはnoteでもご覧いただけます。

この機会にオンラインサークルへのご参加をご検討ください。

▼ note公開ver.はこちらからご覧いただけます

バッグ・イン・ボックスに入れるべきものを考える

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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