販売戦略

ワインのアルコールフリー化 | ワイナリーの新戦略

最近のワイン業界のトレンドというとナチュラルワインやオレンジワインが思い浮かびますが、実はそうしたワイン以上に、ノンアルコールワインに熱い視線が向けられていることはご存じでしょうか。

アルコールを含まないノンアル酒類はビールに日本酒、カクテルなどで市場が拡大しています。いまや”アルコールフリー”は酒類業界全体に共通するトレンドワードです。

こうした流れは日本に限った話ではありません。例えばドイツ。ドイツはビールの国としての印象がとても強いと思いますが、ノンアルコールビールの開発、販売が活発に行われておりどのスーパーでも複数種類のものが簡単に手に入ります。特徴的なのは、独立したノンアルコールビールを製品化するのではなく、従来の製品のアルコールフリー版をリリースしている点です。最近ではノンアルコールワインの品揃えも増えてきました。

アルコールフリーのお酒というと大手メーカーが大量生産しているイメージがあるかもしれません。実際にアルコールフリーのお酒を作るにはほぼ専用の設備が必要になるため、小規模メーカーが気軽に作れるものではありません。一方で最近では個別のワイナリーが外注などを利用しながら自分たちのワインリストにノンアルコールワインを掲載する事例も増えてきています。

市場の拡大を受け、最近ではノンアルコールワインに関する各種調査や検証も活発に行われ始めています。今回はEUから70万ユーロを超える助成を受け、2019年から2022年末までの3年間をかけて調査が行われているドイツのWeinnova (ワインノヴァ) プロジェクトの中間報告をもとにノンアルコールワインの市場を見ていきます。

ワイン消費の現状

ノンアルコールワインに限らず、アルコールフリーの酒類の話題になると必ず指摘されるのが、近年におけるアルコール消費の減少です。日常的にアルコールを消費しない層が増えた結果、そうした層も消費するアルコールフリー製品への需要が拡大している、と考える傾向が強いためだろうと思います。

OIV (The International Organisation of Vine and Wine, 国際ブドウ・ワイン機構) が発表している統計によると、世界中におけるワインの消費量は2007年をピークに横ばいから減少傾向を示しています。特にCovid-19によって世界的な大混乱が起きた2020年には前年から3%の減少 (234 mhl) となり、2002年以降で最も少ない消費量となったことが報告されています。一方でアメリカやイタリア、ドイツ、イギリスといったワインの消費量の多い国ではここ数年にわたってワイン消費の低迷はなく、ほぼ横ばいの状態が続いています

興味深いのは、このワインの消費が減少していない国でノンアルコールワインの需要が伸びている点です。単純に考えれば、ノンアルコールワインはこれまで通常のワインを飲んでいなかった消費者にうまく適合して市場を拡大したと思えます。果たしてそうなのでしょうか。

誰がノンアルコールワインを飲んでいるのか

Weinnovaプロジェクトではノンアルコールワインの消費者調査を行うにあたり、非常に詳細な設定を行った複数のペルソナを用意しています。調査対象となった消費者1人1人をこのペルソナに当てはめ、ペルソナとして消費行動を割り出しています。こうしたペルソナの中には、アルコールを一切摂らないプロフィールも用意されています。

仮にノンアルコールワインが従来のワインを飲まない層にうまく受け入れられているのであれば、ノンアルコールワインの消費の中心にはお酒を飲まないペルソナが位置するはずです。

確かにこうしたペルソナもノンアルコールワインの消費には前向きな姿勢を示しました。しかしより積極的にノンアルコールワインの消費意欲を見せたのは、学歴が高く社会的な地位もある一般にワイン愛好家と分類されるプロフィールを持ったペルソナでした

また年齢が若く、ワインにそれほど興味を持っていない、新しもの好きなプロフィールを与えられたペルソナもノンアルコールワインの消費意欲が高いことがわかりました。逆に日常的にワインは飲んでいるけれどそこまでのこだわりを持たないペルソナはワインがアルコールフリーとなることに拒否感は示さないものの、積極的に手に取ろうとはしないことも示されました。

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選ぶ理由、選ばない理由

アルコールフリーの飲み物を飲む動機には大きく分けて2つの種類があります。1つはその後に運転しなければならず、アルコールを飲むことができないといったような外的な要因によるもの。もう1つが健康への配慮や味の好みなど内的な要因によるものです。より積極的にアルコールフリーのビールやワインを選択する場面ではどちらかといえば、外的な要因による場合が多いのではないでしょうか。

今回の調査でもこの傾向が明確に示されています。

ノンアルコールワインを飲む最大の理由は運転への対応 (80%) で、これに酩酊の回避 (71%)、健康への配慮 (67%)、新しい飲料への興味 (67%) が続きます。一方で味を理由にしたのは44%、宗教的な理由やアルコールへの嫌悪を理由とする回答は34%となりました (複数回答可能な形式で調査が行われています)。

社会的ステータスを持つワイン愛好家のプロフィールを持つペルソナがノンアルコールワインを消費する理由もまさにこの順番が示されています。彼らはワインがもたらすステータスや快楽を好意的に思っている半面、アルコールの摂取によってその後の仕事の遂行能力が低下したり、社会的ステータスを酔いや飲酒運転によって毀損することを嫌います。このため自身が納得できる味のものであれば、ノンアルコールワインを選択することに抵抗を示さないだけでなく積極的に選択していくのです。

一方で調査によって明らかになったノンアルコールワインを飲まない最大の理由は、ワインにアルコールが含まれないという違和感で62%でした。これに、味が普通のワインに及ばないが44%、美味しいノンアルコールワインを探すのに手間がかかるが40%、自分の好むワインにアルコールフリータイプが存在しないためが35%と続いています。

ノンアルコールワインを選ばない理由に味が関係している割合が多い一方で、直近でノンアルコールワインを実際に買って飲んだ調査対象者による味への評価は比較的ポジティブになっている点は興味深く、ある種の思い込みで食わず嫌いのように味に否定的になっている可能性を感じさせます。

ワインのアルコールフリー化は新しいビジネスチャンス

ノンアルコールワインを選ばらない最大の理由としても挙げられている、ワインでありながらアルコールを含まないという違和感。ワインという飲み物に愛着を持っていればいるほど、この違和感は大きくなるかもしれません。一方で、誰よりもワインというアルコール飲料になじみが深いワイナリーでは、最近ではノンアルコールワインは新しいビジネスチャンスとして明確に位置づけられてきています。

一番の理由は、消費者の理解を得ながら販売価格を上げられる点です。

Weinnovaプロジェクトで調査された消費者の考える購入価格の上限は、従来のワインで6ユーロ/本だったのに対して、ノンアルコールワインでは7ユーロ/本でした。消費者はワインがアルコールフリーであることに1ユーロ分高い価値を見出しているのです。

ノンアルコールワインの製造コストは従来のワインを造るコストに、アルコールを抜く工程に関するコストが上乗せされます。一方でアルコールの除去にかかるコストの多くは設備に依存するため、処理量を増やせば増やすほど単位あたりのコストは下がります。小規模のうちは外部に委託することもできます。

アルコール除去による味や香りへの影響は確かにありますが、すでにいろいろな取り組みがなされ、技術的にも確立されてきています。まったく影響を受けないことはありませんが、変化を許容範囲に収めることはいまや難しくなくなってきています。ワイナリーにとって従来のリストにあるワインのアルコールフリー化は、品質低下のリスクを負うことなく確実に販売価格を引き上げることのできる手段として認識され始めています。

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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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