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ワインのミネラリティ | "味","香り","感触" ミネラル感の正体を探る

ワインを飲んでいると、いつかどこかで必ず出会うであろう表現があります。「ミネラル感」もしくは「ミネラリティ」です。まだ聞いたことがない、という人もきっと比較的近い未来に出会うことになるだろうと断言できる程度には頻繁に使われている表現です。

このミネラル感という表現はこれまでにも様々な議論がされてきている、いわくつきの表現でもあります。そもそも「ミネラル感」とは一体どんな感覚なのでしょうか。

ミネラル感という表現が頻繁に使われるようになったのは2000年ごろからのことと言われています。すでに20年を超える期間の中で頻繁に使われてきた表現でありながら、ミネラル感がどのような感覚なのかという問いにはまだ決まった答えが出されていません。

ミネラル感を感じるワインとはいまだに、「なんとなくミネラルっぽい感じ」のするワイン、に留まり続けています。

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定義は曖昧ながら、使い勝手がいい表現。それがミネラル感だとも言えます。この記事ではミネラル感って結局なんなのかを現時点でわかっている範囲でまとめていきます。

これがミネラル感のあるワイン

表現としてのミネラル感に明確な定義はありません。ですので、「ミネラル感を感じるワインとはこれだ」という正解もありません。その一方で、典型的なミネラル感のあるワインがどのようなものか、というイメージは大体固まっているとされています。その条件とされるのが、次のようなものです。

  • 冷涼な地域で栽培されるブドウから造られたワイン
  • 過熟を避けた早めの収穫
  • 高い酸度
  • 還元的な醸造
  • SO₂の添加

これらの条件を備えたワインは非常に高い確率でミネラリティが感じられると判断されるそうです。

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ミネラル感は味覚で感じる

ミネラルウォーターを飲んで、ミネラルの味を感じたことはあるでしょうか。きっとないと思います。ミネラルは塩化物などのごく一部の複合体を除いて無味無臭です。ミネラルは味覚で感じるものではありません。

ミネラルと呼ばれるものに二酸化ケイ素と呼ばれる物質があります。ガラスの原料になるものです。もし仮にミネラルに味があったとすると、ミネラルを原料とするワイングラスにも味があることになります。ワインが入れられているボトルもミネラルの塊です。

ワインを楽しむためにはミネラルに味があっては困るのです。

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濡れた石の香りがミネラル感

もちろん違います、と言いたいところですが、間違いとは言い切れません。

濡れた石の香り、と感じる香りはミネラルの香りではありません。ミネラル自体は無臭です。仮に香りがあるとすると、ワイングラスからも横に置いたチーズをのせたお皿からもミネラルの香りが漂ってしまいます。ワインを飲む時に香りを取ろうとする際、鼻に近いのはワインよりもグラスです。ミネラルウォーターだって臭いはしません。

そうした一方で、濡れた石を感じさせる香りを「ミネラル感」と表現することは頻繁に行われています。濡れた石の香りは多くの場合、亜硫酸、日本では酸化防止剤として有名なSO₂に由来するとされています。ミネラル感のある典型的なワインの条件としてSO₂の添加があげられているのはこの点に由来します。

「ミネラル感」はミネラルそのものを感じ取っているわけではありません。

ミネラルはテロワールに由来する

テロワール (Terroir)。ワインに関わる頻出単語の順位でミネラル感とトップを争うのではないかと思うくらい、よく聞く単語です。ワインに感じるミネラル感はそのテロワールに由来する、と言われることが多くあります。

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典型的なミネラル感のあるワインの条件でも冷涼産地のもの、と挙げられています。でも間違いです。ワインに感じるとされるミネラル感はテロワールの姿を反映したものではありません

そもそもなぜテロワールとミネラル感がつながって語られているのかといえば、ミネラル感を感じるもとになっている (であろう) ミネラルがそのワインの原料となったブドウが栽培されている畑の土壌に由来すると考えられたためです。ちなみに今ではこのような考え方はロマンティックな幻想として、やさしく排除されています。

一見するとなんとなく納得してしまいそうなこの考えがなぜ幻想なのかを説明する方法は2つあります。

1つはミネラルは無味無臭であること。ミネラル感とは「ミネラルっぽい印象を受けるなにか」を感じているものであって、ミネラルそのものを感じているものではありません。ミネラルそのものがミネラル感の正体ではない以上、畑の土壌に含まれるミネラルもまた、ミネラル感とは無関係です。

もう1つがブドウの植物生理です。ブドウは土壌中にあるミネラルを際限なく根から吸収するような真似はしません。自身の生育に必要な量だけを吸い上げます。つまり畑の土壌がどれだけミネラル豊富な土であったとしても、それはただ余剰なものとして翌年以降の生育に繰り越されるだけです。ミネラル豊富な土で育ったブドウだから果実にミネラルを豊富に蓄積しそれがワインの中にも感じられる、なんてことにはならないのです。

ワインにとって土壌とはなんなのか、を考える

そもそも最近では低価格帯の大量生産ワインにミネラル感を感じるものが増えてきていると指摘されています。こうしたワインにテロワールを結びつけることは困難です。

赤ワインでも白ワインでもミネラル感は同じ

違います。赤ワインにも白ワインにもミネラル感を感じることはありますが、その中身はどうやら違うものらしいことがわかってきています

繰り返しになりますが、ミネラル感とは「ミネラルっぽいなにか」を想像してそれを言葉で表現したものです。「ミネラルっぽいなにか」はミネラルではありませんし、特定の何かでもありません。口にしたワインに「っぽい何か」を感じればそれがミネラル感のあるワイン、ということになります。

この「っぽい」と感じる原因が白ワインでは酸味や低pHに由来するものである一方で、赤ワインではアルコール度数やタンニンに由来している可能性が指摘されています。重要なのは酸味や渋みによるフレッシュ感である可能性が高いようです。

なお飲み手の持つ文化的背景によってもミネラル感を感じる要素には違いがあるらしいことも指摘されています。例えばフランス人では総酸量や酒石酸量はミネラル感の感じ方に対してネガティブに働くとする報告もあります。

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ミネラル感はブドウで決まる

違います。決まりません。

前述のテロワールの議論にもつながる点ですが、ワインから感じるミネラル感のもとになるミネラルがブドウに含まれるのは畑なのだからその後の醸造工程ではワインのミネラル感が増すことはない、とする考え方です。

ワインに感じるミネラル感の原因がミネラルではない以上、そもそもこの理屈自体が意味をなさないのですが、そうでなくても醸造工程中にミネラル自体の量が増減します。例えばベントナイトを使った清澄。ベントナイト自体がモンモリロナイトという粘土鉱物を主成分とする岩石ですので、これをブドウ果汁やワインに入れればミネラルが溶出します。珪藻土を使った濾過でも同じです。

醸造工程中にワインに含まれるミネラルの量は増加も減少もします。

ワインの添加剤と補助剤

次にミネラル感の原因をミネラルではない何かの成分とした場合もやはり醸造工程中に変化します。亜硫酸の添加などはこの典型です。

ワインに感じるミネラル感は醸造工程を通して作られる可能性は否定されません

コハク酸がミネラル感の原因物質

間違いではありませんが、すべてでもありません。

塩味をミネラル感と表現することは少なくありません。コハク酸は濃度が高くなるとえぐみが強くなるといわれていますが、ワインに含まれる程度の低濃度では塩味として感じるらしいことがわかっています。またコハク酸によるミネラル感の感じ方への影響は、白ワイン中よりも赤ワイン中でより大きいことが報告されています。

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ところでこのコハク酸、貝類に多く含まれるうまみ成分として知られています。対してワインに感じるミネラル感。貝、特に牡蠣殻のようなニュアンスが重要な因子であることがわかっています。

ワインに貝や牡蠣殻のニュアンスを感じさせる原因にはコハク酸以外にも酵母やメチルメルカプタン (methyl mercaptan, メタンチオール methanethiol: MeSHとも) などがあります。とくにMeSHは貝類の臭いの原因物質ともいわれている化合物で、ワインのミネラル感と強い相関があると指摘されています

ミネラル感は欠陥臭

表現上は違いますが、原因物質的には違うとも言い切れません。

ワインの表現に使われる「ミネラル感」や「ミネラリティ」は基本的にポジティブな表現です。一方でミネラル感を感じる原因を探るとその多くは欠陥臭、いわゆるオフフレーバーに行きつきます。

ミネラル感を感じる原因として特定されている要素は様々ありますが、その中でも特に重要な役割を果たしているのが硫黄系の化合物です。前述のMeSHを含むチオール類のほか、SO₂などはすべて硫黄系の化合物となります。ソーヴィニョン・ブランや甲州の持つ特徴的な香りの原因として知られる3-メルカプトヘキサノール (3-Mercapto hexanol, 3-MH) もチオール化合物の一種です。3-MHは柑橘系の香りを持ち、これがミネラル感を感じさせる要因になっているといわれています。

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ミネラル感を感じる典型的なワインの条件に還元的な醸造とあった通り、ワインに感じる還元系の香りがミネラル感を感じさせる原因の1つであることがわかっています。SO₂もMeSHも還元的な香りの原因です。特にMeSHは酸化するとジスルフィド (disulfide) となりますが、これがミネラル感を感じる典型的な香りの1つである火打ち石様の香りの原因です。さらにMeSHは弱い酸性を示しますので、濃度が上がるとワインのpHが下がります。低いpHはやはりミネラル感を感じさせる原因の1つです。

一方でMeSHは濃度が高くなると腐ったタマネギ様の悪臭の原因となります。そうでなくともチオール類が持つ硫化臭やキャベツ様の臭いは通常、ワインに含まれるとオフフレーバーと判断される類のものです。パッションフルーツやグレープフルーツの香りと表現される3-MHも濃度が高くなると猫のおしっこと表現される悪臭の原因となります。

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またワインの大敵とされる酸化も軽度のものはミネラル感に対してポジティブであるとされています。

すべて程度の問題とはいえ、ミネラル感の多くはオフフレーバーの原因物質と同様のものから感じているのです。

今回のまとめ | 結局のところミネラル感とはなんなのか

シャネルの香水の逸話のように、よい香りとして配合される対象に意図的に一般的には悪臭として認識される成分を微量に含ませることで香りの奥行きを持たせることはいまとなっては当たり前に行われています。こうした点から、オフフレーバーの原因物質がミネラル感の原因となっている点についてはそこまでの不思議はありません。どんなものでも過ぎれば毒になるものです。

ミネラル感は (ミネラルは、ではありません) 香りでも味でも感じることが複数の検証を通して実証されています。つまりミネラル感は味でもあり、香りでもあります

ミネラル感を感じるとされる味や香りの原因になる物質は多岐にわたります。ミネラル感を感じやすいと考えられている化合物には上述の硫黄化合物類や酸類、タンニンなどのほか、酢酸イソアミル (isoamyl acetate、バナナ様の香り)、酢酸エチル (ethyl acetate、パイナップル様の香り)、酢酸 (acetic acid)、γ-デカラクトン (γ-decalactone、キンモクセイ様の香り。若い女性に特有の甘い香りの原因物質としても有名) などが挙げられています。

こうした香りや味からどのようなミネラルを想像してそれっぽいと感じているのかは人それぞれです。現状分かっている範囲では香りとしては貝類の臭いを含む硫化系の香りが、味としては酸味やフレッシュ感を感じさせるタンニンが比較的強く影響するとされてはいます。しかしそれらにしても単独で影響しているわけではなく、複数の感覚の組み合わせとしてミネラル感につながっていると考えられています。

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ミネラル感を感じる味や香りの成分が特定されてきている一方で、ミネラル感は味でも香りでもないとする考え方もあります。簡単に言ってしまえば、渋みや収斂感と同じです。渋みや収斂感は口の中で感じてはいますが舌の味蕾を通しているわけではなく、唾液中や舌の表面にあるタンパク質であるムチンがタンニンと結合して除去されることで感じる、触感に近い感覚です。ミネラル感の場合はムチンに影響が出ているわけではありませんが、こうした触感に近い部分で感じているのではないかというのです。これはもしかしたら、ミネラルウォーターを飲んで感じる普通の水との違いに近いかもしれません。

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臭いなのか、味なのか、触感なのか。それともそれらすべての混合なのか。

結局のところミネラル感という表現は、現在に至ってもボヤっとした、なんとなくミネラルをイメージするとしっくりくるような硬質の何かを汎用的に表現するための用語だといえそうだ、というところに落ち着くしかないようです。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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