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ワイングラスとスワリング | ワインあるある

06/12/2021

ワインが注がれたワイングラスをクルクル回す、スワリング。ワインのある場所ではとてもよく目にする光景です。人によってはこれでもか、というくらいにクルクル、クルクルしています。

このスワリング、やった方がいいという方とやらない方がいいという方がいらっしゃいますし、やるにしても最初はダメ、という方もいらっしゃいます。とあるSNS上で時々、思い出したように話題になる程度にはいろいろな意見のある行為です。

スワリングをする、もしくはしない理由はいろいろと耳にしますが、科学的な根拠の話になると話題の盛り上がりの割には意外と手薄です。

そんな中、ワイングラスの種類とスワリングの効果を溶存酸素量の点から調査したレポートがありましたのでその内容を簡潔に紹介したいと思います。

スワリングと溶存酸素の関係

スワリングの効果として注目されやすいのはグラス内の香りです。

スワリングによって香りが引き立つ、もしくは香りが混ざってしまったり飛んでしまってとりにくくなる。これがよく目にするスワリングを巡る賛否の論拠です。

この香りが立つ、もしくは飛ぶ理由の一部はスワリングによってもたらされるワインの温度変化にあると考えられます。

一方でやはり香りへの影響があると思われるのが、溶存酸素量。少し乱暴に言ってしまえば、酸化による香りの変化です。スワリングはいわばワインを優しく撹拌する行為。その過程でグラス内の空気がワインに含まれます。

一般大気中における酸素濃度はおよそ21%。空気がワインに含まれれば、一緒になって酸素もワインに含まれていきます。

今回紹介する調査レポートではGC-MS (ガスクロマトグラフィー) を使用した芳香系成分への影響調査は行われておらず、あくまで溶存酸素計を用いたワイン中の酸素量の測定結果のみがレポートされています。このためスワリングがどの程度、ワインの香りに対して影響したのかを直接知ることは出来ません

しかし酸素量の変化を知ることでワインの香りに影響する可能性のある潜在的要因を知ることが出来るという点で興味深い調査となります。

実験の内容

今回結果を紹介する実験の器材および手順は以下の通りです。

  • ISO標準グラスを含む6種類のワイングラスを使用
  • 白ワイン1種類、赤ワイン2種類の計3種類のワインを使用
  • 各グラスには50 mlのワインを均一に注ぐ
  • 装置を使って同一条件下 (150 rpm) でスワリングを実施
  • スワリングの継続時間は10秒、20秒、40秒の3条件
  • スワリングの前後で非接触タイプの溶存酸素計を使って溶存酸素量を計測

実験で使用されたワイングラスにはPino Noir用グラスでよく見るような、極端な細口胴太の形状のものはなく、D Ratioと呼ぶ最大口径部分の直径を開口部の直径で除した数値で1.3 ~ 1.6の範囲に入るものとなっています。またグラスの容量は最も小さなISO標準グラスの215 mlから、最大で800 mlのグラスまで、全て異なるサイズで用意されています。

実験で使用されたグラス群 (レポートより引用)

酸素をより取り込むのは容量の大きなグラス、とは限らない

実験の結論からいうと、グラスのサイズや形状に関わらずスワリングの継続時間が長くなるほど溶存酸素量は増える傾向にあります。しかし、必ずしもグラスのサイズが大きい方が溶存酸素量が増加するわけではありませんでした。またグラスの形状の違いもスワリングによる酸素の取り込みには明確な関係性を持ちませんでした

スワリングによる酸素の取り込みを考えると、一般的には面積、特にワインの表面積が大きい方が取り込み量が多いように思えます。

実験の結果でも最終的にスワリング後の溶存酸素量が最も多くなっていたのはすべてのワインにおいてサイズが最も大きいグラスだったのですが、スワリング前後での変化量を見ると、グラスの容量が200 mlほど小さく、かつワインの表面の直径が1 cm以上小さなグラスであっても同じ結果となったグラスが存在しているのです。

この溶存酸素量が増える傾向にあった2つのグラスの共通点はD Ratioが近い点なのですが、別のD Ratioがもっと大きいグラスでは溶存酸素量の増加幅はこの2つのグラスよりも少なく収まっています。このため、D Ratioが溶存酸素量が増える原因とはいえない結果となっています。

スワリングの初期では溶存酸素量は減る傾向

さらに興味深いのが、スワリングを開始して初期のうちのワインに含有される酸素量の挙動です。

上記の通り、この実験ではスワリングの継続時間は3つの条件に設定されていました。このうちで、ワインの溶存酸素量が明確に増えたのは実験における最長の条件である40秒の場合だけでした。これに対して、10秒および20秒の条件では溶存酸素量がほとんどのもので減ったのです。

スワリングの初期において酸素濃度が減った理由は、ワインに含まれているSO₂などの酸化防止剤やフェノール類などの抗酸化作用を持つ成分と結合した可能性が示唆されています。

この点から考えると、短時間のスワリングを行う場合、スワリングによってグラスの壁面に薄く延ばされた水分が瞬時に揮発して香りに影響を及ぼす可能性は否定できませんが、スワリングによってグラス中のワイン全体が酸化して香りが変わる、という見方は必ずしも正しくはないように思えます。

酸素の取り込み傾向にグラスのサイズや形状は無関係か

今回の実験結果を見る限りにおいては、スワリングによる酸素の取り込み傾向にグラスのサイズや形状が明確に影響しているとは言えません。同じように、ワインを注いだ状態におけるグラス中の空間の大小による違いも見られませんでした。

これ以外にもグラスにワインを注いだ瞬間にも酸素はワイン中に取り込まれており、グラスによってスワリング前の溶存酸素量に違いが見られました。しかし、この結果からもグラスのサイズや形状による有意な傾向は認められませんでした

こうした結果から、一般に考えがちな、大きいグラスほど注いだワインが酸化しやすいと断言するのは実は難しいようです。

また、スワリングを行わずに長時間グラスを静置した場合の溶存酸素量の変化においてもグラスのサイズはおろか、ワインの表面部分の直径 (ワインの表面積) やグラスの開口部の大きさに比例するような結果は見られませんでした

今回のまとめ | 酸素を取り込まないグラスには一貫性がある

これまで見てきたように、今回の実験からは酸素の取り込み傾向についてはグラスのサイズや形状による一貫性はほぼ認められませんでした。強いて言えば、容積の大きいグラスの方が酸素を取り込む傾向は強そうだ、という程度のものに留まっています。これに対して、酸素量に大きな変動がなく、中に注いだワインが安定しているグラスには一貫性が見られましたISO標準テイスティンググラスです。

ISO標準グラスではすべてのワインにおいて、ワインをグラスに注いだ直後、各条件でスワリングを行った直後のいずれにおいても酸素濃度の変化幅が最小限に抑えられていました。またグラスに注いだ後の静置条件においても溶存酸素量が時間の経過と共に増えはするものの、その増加量は他のグラスに比べて圧倒的に少なくなっています。

ワインを飲むときに好みのグラスや合うと思ったグラスをいろいろ試してみるのは楽しいものです。

しかし本当に中立的に、純粋にワインの持つ個性を比較してみたいと思うのであれば、まずはISOの標準グラスを使ってテイスティングをしてから、好みのワイングラスに手を伸ばしてみるのはいかがでしょうか。

おまけ | ISO標準テイスティンググラスってなに?

ISO標準ワインテイスティング用グラスとは、ISO (Internatonal Organization for Standardization) と呼ばれる非政府機関である国際標準化機構が国際基準として制定した規格に則ったワイン用のテイスティンググラスのことです。

ワインの色や味のスタイル、使われているブドウの品種に関係なく、すべてのワインを対象としています。ISOの規格ではグラスの各部位のサイズが細かく決められており、どのメーカーから販売されている製品であっても同型のグラスになるようになっています。

こちらの記事の元になっているレポートの結果の詳細はオンラインサークル「醸造家の視ているワインの世界を覗く部」に特別記事として投稿しています。またその記事の内容を再編集した記事「スワリングによる酸素の溶け込み量」をnote上にて公開していますので、ご興味ある方はそちらをご覧ください。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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