ワイン 栽培

数字からみる南アフリカワイン | なぜ南アフリカワインは安くて美味しいか

06/18/2021

南アフリカワイン

安くて美味しいワインとして今や欠かすことのできない存在です。一時期は「安くて美味しい」といえばチリワインが代名詞でしたが、最近は南アフリカがこのカテゴリーの筆頭に挙げられることも増えてきたように思います。

南アフリカワインを語る時によく耳にする三拍子が次のようなものではないでしょうか。

  • フルーティーで果実味がしっかり感じられる
  • 甘さもあるけれど酸味もしっかりしている
  • コスパがいい

さらにこれにセットで、ワイン用ブドウの栽培に適した気候、地球最古の土、低コストでプレミアムワインを造る最適な環境、といったようなことが言われます。

こうした文言を見るとなんとなくそれだけで、ほうほうなるほどだから南アフリカのワインは安くて美味しいのね、と思えます。でもこれ、確かに「なるほど」とは思えても、本当に納得するにはちょっと根拠が弱いです。

そこで今回は少しブドウ栽培の知識を使いつつ、数字の面からこの「なるほど」をより確かな実感に変えていきたいと思います。

しっかりした酸と果実味を支える気候

「ワイン用ブドウの栽培に適した気候」であるが故に出来上がったワインにしっかりした酸味と果実味が残る

南アフリカのワインがフルーティーでありながらもしっかりとした酸味を持っていることを、この一文ですべて説明済みのように書かれている場合も多く見受けます。

確かにブドウの生理を知っていればこれだけで納得できます。しかしそれは一般的とはいえない知識を持っているからです。何となく雰囲気的に納得してしまう場合もあるかも知れませんが、どういう気候でなら酸が残り、どいう条件なら果実味が乗るのかという専門的な知識を持っていなければ本当の意味で理解するのは難しいです。

非常にざっくりいうと、酸が残るかどうかはブドウの熟成期の気温に、果実味が乗るかどうかは日照時間に左右されます。つまり、「酸味があって果実味もある状態のワインが造れる」は「ブドウの熟成期の日照時間が長いが気温が高くなりすぎない」栽培条件を意味します。

暑すぎた夏の代償

そこで注目したいのが年間平均気温です。

特に今回重要なのはブドウの生育期間中の気温の動き。南アフリカは南半球に属していますので、ブドウの収穫時期はおおよそ2月から3月です。ここから逆算すると、ブドウが開花するのが11月下旬から12月中旬頃、その後に熟成期に入るのがおおよそで1月中です。

この期間の気温の動きを見ていくと、期間中の平均最高気温は20 ~ 25度の間で推移しています。これに対して最低気温を見てみると、15 ~ 17度ほどの間での推移です。最高気温がそれほど高くなく、気温の上下ともに変動が少ない推移で比較的涼しく快適な温度帯といえます。

生育期の初期の温度が低いためにそもそもの酸量が多くなり、かつ熟成期の気温がそれほど高くならないためブドウの熟成期における酸量の減少幅と減少速度が少なく、ゆっくりになります。つまり、ブドウに含まれる酸量は相対的に多い水準で移行します。これが南アフリカワインではしっかりとした酸味を感じる理由です。

果実味を得る日照時間

酸量が多くなる理由は分かりました。続いて果実味です。

ワインに感じる果実味は収穫時におけるブドウの熟度から来ています。そしてブドウの熟度はその大部分が日照量に影響されます。

ケープタウンにおける平均日照時間は12月中旬が最も長く、14.5時間に迫ります。11月から収穫期までの期間で見てみてもほぼ13時間を超え得る水準で推移します。しかもこの間の降雨量は少なく、晴天割合が年間のピークの時期に当たります。

つまり、ブドウが日照をもっとも必要とする時期を外すことなく、最大の日照時間と晴天割合とが得られているのです。

こうした天候を背景にブドウは十分に光合成を行い、生理成長が促されます。この結果、ブドウの熟度がしっかりと高くなります。

ブドウの熟度が高くなると果汁糖度と呼ばれる、ブドウの果汁に含まれる糖分の量が多くなります。高い果汁糖度からはアルコール度数の高い、しっかりとしたボディのワインが造られますし、辛口であっても微妙に残糖を残したワインにすることもできます。また残糖量は多くなくてもアルコールの持つ甘さを感じるワインになる場合も多くなります。

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収穫を待てる気候

ワイン用のブドウに限らず、食用植物の栽培では気温や降雨量は非常に大事な要因です。しかしそれと同様に極めて重要なのが、気温や降雨量の推移のタイミングです。必要な時にしっかりと晴れ、必要な時に雨が降る。これがとても大事なのです。

ブドウの栽培でこれを具体的に言えば、「収穫を待てるかどうか」です。

夏場やブドウの生育期の気温推移や降雨量がどんなに理想的でも収穫のタイミングで長雨が降るようならその土地は理想的な栽培地域とはいえません。その点、南アフリカの2月は年間で最低の降雨量です。つまり、雨に悩まされずブドウの熟成を待ち、焦らずに収穫のタイミングを計ることのできる気候です。

この点はワインの旧世界と言われる欧州の昨今の事情とは対照的です。

最近の欧州では夏の気温が度を越して高くなってしまっているためにブドウの酸落ちが大幅に、しかも速いタイミングで生じます。こうした事態を嫌い、ブドウに、ひいてはワインに酸を残すためにブドウの収穫時期を前倒しするのが近年では普通のことになってきました。場合によってはまだ青いブドウを収穫するケースさえあります。こうした国や地域ではブドウの収穫をもはや待つことが出来ないのです。

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品質と価格に影響する健全さ

収穫を待てるかどうかは収穫されるブドウが健康かどうかにも左右されます。

収穫すべきブドウが病気にかかってしまっている場合、病果が広がる前に収穫せざるを得ません。このため収穫できるだけの熟度になったらそれ以上は待たずに一刻も早く収穫します。待てば待つほど病気が広がり、使えないブドウが増えるのですから当然です。ここで無理に待ってしまうとロスが増えるだけではなく、ワインの品質が下がるリスクも高くなります。

ブドウが収穫の時まで健康でいられるかどうかは生育期の天候に左右されます。そしてこの病気への罹患リスクはそのままブドウの栽培コストに反映されます。病気の罹患リスクの低い地域ではブドウの栽培コストも下がり、ワインの価格も低く抑えられます

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南アフリカの気候はその点、病気のリスクを相対的に低く抑えられる推移をしています。

ワイン用ブドウ栽培でもっとも警戒すべき病気はベト病やウドンコ病、灰色カビ病といったカビ系の病気です。これらの病気はカビですので、ブドウの生育期の降水量や湿度がその発生に強く影響しています。

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振り返ってケープタウンではブドウの生育期に当たる時期がもっとも降水量が少なく、乾燥しています。しかもこの時期は年間を通しても風が強めに吹く時期です。多少の湿度があっても風で散らされるため、カビが発生しにくい環境といえます。

もともとカビが発生しにくい環境であれば、防除に必要となる薬剤の量は少なく済みますし、実施の回数も減らせます。ブドウの防除はコストの高い作業ですので、この量と回数を減らせることはブドウの栽培コストの引き下げに役立ちます。しかもブドウの品質低下リスクを背負っての防除の低頻度化ではありません。

こうした事実が「低コストでプレミアムワインを造る最適な環境」と言われる所以です。

乱暴な言い方をすれば、手間をかけなくても良質なブドウが収穫できる環境、なのです。

低い労働コスト

南アフリカワインの価格を考える際に、忘れてはいけない点に労働力の安さがあります。

まず事実として、南アフリカにおいてワイン用ブドウを栽培するためのコストは低いです。

ここには畑を取得、維持するためのコストが低い、防除にかかるコストが低い、という点もありますが、圧倒的に人件費が安く抑えられます。南アフリカではワインにフェアトレードの認証制度を適用しており、労働搾取が行われているわけではありません。しかし依然として国内における貧富の差は大きく、黒人労働力は安く買い上げられる傾向が強く残っています。

ワイナリーの例でみれば、経営者をはじめとする数名の上位層が管理運営を行い、畑での作業は黒人労働力を利用しているケースは多く見られます。欧州の現場で見られる東欧諸国からの季節労働者の利用と同じです。違うのはコストです。南アフリカの国内物価を反映するように、黒人労働力は欧州における季節労働者と比較しても圧倒的に安いのです。

安い人件費を背景に低いコストで畑を手厚くフォロー出来る点は、間違いなく南アフリカワインのコスパの高さの理由であり、「低コストでプレミアムワインを造る最適な環境」を構成する環境要因の1つです。

今回のまとめ | 将来にみる不安と展望

現状における南アフリカワインの評価は恵まれた気候、確かな技術力、低い栽培コストに基づくものです。およそワインを造るのに必要と思える要素をほぼ網羅しています。これで評価が低い方がむしろ不思議と思えるくらいの充実度です。その意味で、南アフリカのワインが「安くて美味しいワイン」の代名詞のようになってきたことは納得の結果です。

南アフリカにはここしばらくで海外からのワイン関連投資も続いています。

さらにブドウの栽培農家数は減少傾向にありつつもワインの生産量は拡大しており、1生産者当たりの規模の拡大が見て取れます。規模の拡大によるコストの引き下げを見込みつつ、労働力を引き継げる環境といえますので、国内物価の上昇といった逆風はありつつも、今後もこの国で造られるワインのコスパの高さは維持されると予想できます。

天候にいくら恵まれていても十分な量の働き手が確保できなければブドウの品質、ワインの品質を上げることは困難です。その点、規模が拡大していてもコストをかけずに必要な労働力を安く確保できるメリットは非常に大きいといえます。

一方で世界中で問題になっている気候変動の波は南アフリカにも訪れています。旱魃も常態化してきています。

今後、気温の上昇や夏場の降雨量の増加があった場合、ブドウの病気の拡大リスクが高くなる可能性があります。特にこれまでは自然に病気への罹患リスクが抑えられてきていましたので、いざ対応しようとするとそのためのコストが大きく膨らみ、これまでワインの価格を低く抑えてきた前提が一気に崩れる可能性もあります。

失業率との兼ね合いはあるものの、物価上昇による人件費の増加も想定されます。

ワインが造れなくなる日

天候不順と人件費の増加

世界中のワイン産地が抱える問題ですが、南アフリカもその例外とはいえません。今後の南アフリカワインがどうなっていくのかに、引き続き注目したいと思います。

おまけ | 南アフリカワインといえばこの人、このお店

最近話題に上ることの多い南アフリカワイン。せっかくだし飲んでみたい、試してみたいという方も多いと思います。

そういった方はぜひ、南アフリカワインといえばこの方、KOZEさんのブログをチェックしつつ、南アフリカワインといえばこのお店、アフリカーさんを訪れてみてください。きっと素敵なワインと出会えると思います。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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