醸造

暑すぎた夏の代償

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ドイツの今年の夏が暑かったこと、そのせいでブドウの成長が例年にないほど早く進んだことはこれまでの記事でも折に触れて書いてきました。その結果として、実際に今年の収穫はドイツ各地で未だかつてないほど早く始まることとなり、筆者の勤めるワイナリーでもすでに収穫が開始されています。

 

よく夏が暑くてブドウの成長が早くなるのは悪いことなのか、と聞かれるのですが、これは簡単に答えるのが難しい質問です。

暑くなるとワインは力強くなる

この質問の答えの一つが、ポルトガルやスペイン、イタリアといった南欧の、そのなかでも暑い地域のワインです。

往々にしてアルコール度数が高く、ボディのしっかりとした重めのワインが多い傾向にあります。これらの地域では気温が高く、ブドウの成熟が早く進む結果、果汁糖度が高くなり、結果としてアルコール度数の高いワインが出来上がります。

参考

ブドウの果汁糖度の高さとアルコール度数の関係についてはこちらの関連記事にて詳細を確認してください

カビネットって甘いんですよね?
発酵について語ろう

 

赤ワインでは色がしっかりと濃く、とても力強いワインとなります。またこれらの地方では赤でも白でも、アルコール度数は高めでありながらも残糖量もそれなりに多い、というワインを見かけることが増えることも特徴の一つと言えるでしょう。その一方でワインに含まれる酸の量は少なくなる傾向にあります。

多少乱暴な言い方になりますが、気温が高くなるとブドウの糖度は上がりやすくなる一方で、酸の量は減ることになるのです。

 

暑くなることの弊害

ここでもう一度上記の質問に戻ります。

 

暑くなると、ブドウは確かに甘くなります。この結果として、残糖がそれなりに多いにも関わらずアルコール度数の高いワイン、というものが作れるようになります。ここに乾燥がついてくると、ブドウがカビ系の病気にかかる確率がぐっと減りますので収穫するブドウの品質は高いものとなります。ここまでは良いことばかりのように見えます。気象変動万歳、といったところです。

しかし、暑くなると酸が減るのです。これは、少なくともドイツワインにとっては大きなネガティブ要因であると筆者は考えています。

 

最近は国際的な流行の流れに乗って酸を多めに残すよりも多めの残糖と高いアルコール度数を両立させることを目指す醸造家もドイツ国内で増えてきているような印象も無きにしもあらず、です。しかし、やはり個人的にはドイツワインの魅力は酸の量と質にあると感じているため、酸の少ない、または質的にきれいで繊細な酸と残糖の織りなす絶妙なバランスを欠いたドイツワインというものにはあまり魅力を感じられないのです。

 

今年のブドウはあまりにも暑く、長かった夏の影響を直接受け、酸の減少が例年以上に早く進んでしまっています。このため、果汁糖度がまだ収穫する基準には満たないのに、酸量が極端に少ない、といった状況に陥ってしまっています。今の時点でこの状況ですから、果汁糖度が収穫基準に達したときにいったいどれほどの酸が残っているのかを考えると頭の痛いことこの上ありません。

 

なぜ酸量は減るのか

そもそも、なぜ暑くなると酸の量が減るのでしょうか。

 

酸量が減る理由を知るには、ブドウの生態を知る必要があります。これを知るためのもっとも分かりやすい事例としては、ブドウに限らず、果肉植物一般の事例として、その種子の拡散方法を見てみるのが良いと思います。

 

果肉を持つ実をつける植物の種子の拡散方法は極めてシンプルで、他の動物に実を食べてもらって、その動物の移動と排泄を通して種子を拡散していきます。

そして、果肉を他の動物に食べてもらうための大きな戦略が香りと甘い味です。植物は自らの実を甘くすることで他の動物にとって魅力的な食料である、と認識させる戦略をとっているわけです。逆に言えば、種子が成熟するまでは実を食べられても意味がないので、実を甘くせず、酸っぱくしておくのです。そして種子の熟成に合わせて酸っぱさの原因である酸の量を減らしはじめ、その後に実を甘くしていくのです。

 

この説明で行けば酸ばかりが量を減らして糖度が上がらないのはおかしいようにも思えるのですが、ここに”度を越した暑さ”が加わるとまた話が変わってしまうのです。

というのも、酸を減らすための代謝反応と、糖度を上げるための光合成とでは反応を活発化させる温度帯に違いがあります。また上記の説明にもある通り、酸量の減少時期とブドウの糖度の上昇時期にもずれがあります。これらの違いが原因となって酸量ばかりが先行して減りすぎる、という減少が生じうるのです。

 

酸が少ない時の対処法

あまりにブドウの中の酸量が減ってしまうと、味の面以外でもさまざまな不具合が生じます。ワインの熟成可能期間にも影響がでますし、ワインを造る際にも不具合が生じ得ます。このため天候等の影響であまりに果汁内の酸量が少ない場合には、通常は禁止されている補酸処理が例外処置として認可されます。

この特例が認められた場合、ワイナリーはワイン酸を添加することで補酸することができるようになるのです。

 

一方でこの補酸のための特例認可ですが、特例といいながらもここ数年はほぼ毎年のように認められているものでもあります。逆に言えば、天候や環境が変わりすぎてしまって、特例を認めないと従来の規定ではたち行かない所まで来てしまっている、ということでもあるのです。

 

ブドウを完熟させることが容易になった、として最近の気候変動を歓迎する向きもあるにはあるのですが、その代償として伝統的なドイツワインの味からは遠ざかり続けている、ということをどう考えるのか。造る側も飲む側も一度、しっかり見つめてみることが重要だと思う今日このごろです。



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