ワイン 栽培

ワインと土壌とテロワール | 粘板岩の色とワインの個性

07/15/2021

ワインの持つ個性を説明する時、よくテロワールと関連付けて話をされます。

そうしたテロワールを構成する要素の1つが、土壌です。

土壌にはいくつもの種類があります。

粘土や石灰岩と並んで土壌の一角を占めているのが、シーファー (Schiefer) です。日本語では粘板岩、英語ではスレート (slate) やシスト (schist) と呼ばれます。

シーファーの土壌はドイツに多く、ワイナリーではシーファーの種類ごとにワインを分けて仕込んでいる場合も多く見られます。そう、シーファーには種類があります

シーファーの種類の違いは主にその色で見分けられます。そして色の異なるシーファーの土壌で育てられたブドウから造られたワインはそれぞれが違った味や香りを見せます。

同じシーファーと呼ばれる岩石でありながら色が違うと特徴が大きく変わる。今回はそんな不思議な土壌、シーファーについてです。

土壌というもの

粘板岩が出来るまで

シーファー、日本で粘板岩と呼ばれる岩石の個性や色の違いを知るには少し地質学的な内容を知っておく必要があります。

粘板岩は薄い板の様に割れる特徴のある岩石です。その特徴からヨーロッパでは昔から瓦のように建物の屋根に使われていますし、黒板に利用されている場合もあります。

主に堆積岩が軽度に変成したもので、状態によって堆積岩や変成岩に分類されます。

堆積岩は主に水底に堆積した堆積物が続成作用と呼ばれる、さらに上に堆積した堆積物による圧力で押しつぶされ、鉱物同士がくっついていく過程を通して出来上がっていきます。ドイツのモーゼル地域にみられるシーファーはおよそ4億年前のデヴォン紀に堆積した海底堆積物がもとになっているそうです。

堆積岩である頁岩、泥岩、玄武岩が200 ~ 450℃、2 ~ 10 kbarと比較的低温、低圧な環境下で広域変成作用によってさらに変成されることで粘板岩が生成されます。この変成がより進むと片岩 (シスト) と呼ばれる変成岩になります

この変成時に堆積岩が圧縮され、含まれている鉱物類の傾きの方向が一定になることで劈開面に沿って薄く剥がれるという粘板岩の特徴が生まれます。

ちなみに泥質岩と呼ばれる堆積岩が粘板岩よりも高圧の変成作用を受けると千枚岩や黒色片岩 (泥質片岩) と呼ばれるものになります。

粘板岩の特徴

粘板岩は硬い岩石です。また堆積岩が熱と圧力による脱水作用をうけて変成しているため、結晶性が高く、保水力をほとんど持ちません。一方で結晶粒の構造が非常に細かいためにもろく、風化しやすい岩石でもあります。熱を蓄えやすい岩石だといわれます。

土壌になっている際には砕けた板状の粘板岩が重なり合っている状態ですので通気性には優れるものの、植物が根を張りやすい土壌とはいえません。

粘板岩の構成要素には石英を中心に雲母、粘土鉱物、長石、赤鉄鋼、黄鉄鋼などが含まれます。もとが堆積岩ですので、その時に堆積していた堆積物によってその構成成分には大きく幅があります。

粘板岩の特徴的な色は黒っぽくも見える灰青色ですが、含まれる成分によって茶色、緑、赤、紫、または青と幅広く色が変わります

粘板岩の色とワインの特徴

粘板岩の土壌を持つドイツのワイナリーでは、所有しているシーファーの色ごとに区別してワインを造っていることが多くあります。こうしたワイナリーではヴィンテージもブドウ品種も同じで、シーファーの種類だけが違うワインを比較試飲できます。

青や緑の寒色系の粘板岩からは硬くしっかりとした酸味を感じやすく、暖色系から赤や黒に近づくとより軟らかく厚みのある味わいになる印象です。

ではこうした粘板岩の色の違いはどこからくるのでしょうか。

粘板岩の中でもワインの名前として見かける機会の多い、青色、赤色、緑色の3色の場合で見てみます。

複数のシーファー土壌ごとにワインを造り分けるクレメンスブッシュのリースリング

藍閃石で青くなる

青い粘板岩の色は角閃石の一種である藍閃石 (glaucophane: グロコフェン) によるものです。

マグネシウムと鉄を含むケイ酸塩鉱物である藍閃石は組成によって黒藍色から灰藍色や紫青色になります。このためどの色の藍閃石をどれだけ含んでいるかで粘板岩の色も黒に近いところから灰色、そして青まで変わります

この色のシーファーはドイツではモーゼル、ザール、ルーヴァーからミッテルライン、そしてラインガウの下流域近辺に分布しています。

赤い色は鉄の色

赤い粘板岩の色は赤鉄鋼に由来します。茶色い色味から銅が含まれていると思われる場合もありますが、銅は含まれていません。

シーファーとしては比較的軟らかく、高い保水力をもつとされています。

ドイツの産地における分布はモーゼル、ラインヘッセン、プファルツに多いですが、これ以外にも所々に分布しています。ラインヘッセンにあるニアシュタインのローターハング (Roter Hang) はこの赤色粘板岩によるものです。

複数の成分を含む緑色片岩

特徴的な緑の色はchlorite (亜塩素酸塩)、Epidot (緑簾石)、Aktinolith (緑閃石)、Tsavorite (ツァボライト、グリーンガーネット)など緑色をした鉱物各種に由来しています。

カルシウムとマグネシウムを多く含む火成岩や堆積岩を原料としており、青色粘板岩に比べると変成圧力が若干低めで生成されます。火山性活動により生成される典型的な岩石でもあります。

ドイツではナーエに多く見られます。

今回のまとめ | ミネラルと色とワインの個性

粘板岩の色の違いは構成成分の違いに基づいています。

一方でブドウは根から吸収したミネラル分を果汁内に蓄積させません。つまり、現在分かっている範囲では、粘板岩の構成成分の違いはワインの味を直接左右しません。赤い色をしたシーファーの土壌で栽培されたからといって、そのブドウの果汁に鉄分が多く含まれるわけではないのです。

鉄の味はどこからくるのか | ミネラルの一端に迫る

このため色の違う粘板岩土壌から造られたワインに感じる違いは、畑ごとの微小気候を除けば、その色が示す岩石としての特徴から来ていると考えられます。色が違う理由が原因ではありません。

シーファーの色の由来を知ることは、雑学としてお酒の場に話題を提供する以上の意味はないかもしれません。

しかし、シーファーの色とワインの味や香りの特徴を結び付けることには分かりやすさがあります。ワイン造りの現場でもシーファーの名前を付けたワインではやはりそのイメージに沿った味や特徴になるように仕上げています。

そしてそうすることで、より色の違いがワインの特徴の違いなのだと思われるようになっていくのです。

ワインにとって土壌とはなんなのか、を考える

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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