栽培

ブドウ栽培の基礎知識 | ブドウの樹のとらえ方

エネルギー源は太陽

枝はエネルギーの交通路

幹はエネルギーの貯蔵庫

たった3行。このたった3行がブドウ栽培でもっとも大事なことです。

これさえ知っておけばほかのことは忘れてしまっても大丈夫。だから、この記事もこれで終わり。とはさすがにいかないのでもう少し内容に踏み込んでいきましょう。

今回はブドウの栽培の基礎知識をちょっと普通とは違った視点から解説していきます。キーワードは、エネルギーです。

3つの部分からできているブドウの樹

ブドウの樹は葉、枝、幹の3つの部分からできています。根を入れれば4つです。

これをそれぞれエネルギーの流れにそった役割で見てみます。

  • 葉は入口
  • 枝は交通路
  • 幹と根は貯蔵庫

エネルギー源は太陽です。

太陽から出てきたエネルギーは葉という入口から入って、交通路である枝を通って、貯蔵庫である幹や根にとどまります。この流れが基本です。ちょっと高速道路に似ています。

入口が多いほうが車はたくさん高速道路に入ってこれます。道路は車線がたくさんあれば流れはスムーズですが、どこかで事故があって3車線が1車線に狭まれば渋滞してしまいます。パーキングエリアやサービスエリアの駐車場が大きければたくさんの車が止められますが、あまりに小さいと駐車場からあふれだしてしまいます。

ただ、パーキングエリアやサービスエリアの駐車場は勝手に大きくすることはできませんが、樹は幹を太くしたり根を伸ばしたりして駐車スペースを広げられます。枝も同じです。エネルギーがたくさん入ってくれば、そのエネルギーを使って自由に拡張工事をしていきます。

ブドウは勝手に延伸する高速道路です。

たくさんの輸送量を高速にスムーズに流せる高速道路が優秀な高速道路です。ブドウも一緒。たくさんのエネルギーを詰まることなく流して貯められるのが理想です。でもブドウは浪費家でもあります。せっかくエネルギーを取り込んでも、放っておくとそれを道路を拡張することばかりに使おうとします。枝を際限なく伸ばしていってしまうのです。

ブドウの生長とエネルギーの流れ

春先は貯蔵庫に貯められたエネルギーがどんどん使われる時期です。

芽を開くのにも、そこから若枝を伸ばして最初の葉を開くのにも、幹や根に蓄えられていたエネルギーが使われます。収入がないまま貯金を取り崩していく一方のいやな時期です。太くて長い幹や根を持っているほうが貯められるエネルギーの量が多いので、こうした時期でも多少は余裕があります。

でも、ブドウは浪費家です。

エネルギーがあればあるだけ使ってたくさんの芽を開かせようとします。将来のことを考えて貯蓄しておこうなんて考えません。いきなり首都高を全面開通させようとします。

ですので、事前にエネルギーの出口の数を制限しておきます。これが冬の剪定です。

それなりの広さをもった、整備されていて渋滞しなさそうな道1本だけを残してほかの枝を切ってしまいます。さらにいきなりいくつもインターチェンジを開通できないように芽の数も制限しておきます。いくら浪費家でも町に1軒のスーパーしかなければ使える額はたかが知れています。

ブドウが気前よく貯蓄を取り崩すと、枝が伸び、葉が開きます。開いた葉が大きくなってくると、いよいよ収入が入り始めます。使ったエネルギーを回収する時期の始まりです。

この時、ブドウの枝は対面2車線の道路です。

入口から入ってきたエネルギーの一部は下り車線を通って幹や根に届きます。残りは上り車線を通って枝の先のほうに運ばれ、道路の延伸作業に消費されます。道路が伸び、それにともなって入口の数も増えてくると、徐々に貯められるエネルギーの量が増えていきます。そうなるとブドウの樹には余裕が出てきます。樹は即座に余裕の出てきたエネルギーを使って臨時の駐車場を作ろうとします。

これが、果房です。

この時はまだ対面する2車線の道路の太さは同じです。

下り車線で幹や果房に流れ込むエネルギーと同じくらいの量のエネルギーが上り車線を通って道路の延伸作業に使われ続けています。これをどこかのタイミングで不均一にします。夏季剪定とか摘心とかいわれる作業です。

枝の先にある生長点を切り落としてしまうことで、それ以上の道路の延伸をできなくする作業です。こうすると上り車線はほとんど使われなくなり、ほとんどすべての量のエネルギーが下り車線を通って幹や果房に向かうようになります。

成長点をいつ落とすか

臨時駐車場の数と駐車台数を調整する

ブドウの果房は臨時の駐車場です。新設のパーキングエリアとかサービスエリアといってもかまいません。

臨時なので必要になってから用意すればよさそうなものですが、浪費家なブドウはそんなこと考えません。必要性の有無も考えずにいきなり道路1本に対して2 ~ 3個の臨時駐車場を用意します。そこに何台の車が入ってくるのかなんてお構いなしです。結果として、どの駐車場もガラガラだった、なんてことだって起こります。

ブドウはそれでも困りませんが、ワインを造りたい側にとってはそうでもありません。確かにガラガラで粒と粒の間に空間の空いた房は望ましいですが、あまりにスカスカでは困ります。甘くならないからです。そこで適度に駐車台数を調整します。収量調整と呼ばれる作業です。

道路を下り車線のみの一方通行にして入ってくるエネルギーの量を増やしても、そのエネルギーを貯める駐車場の大きさが大きすぎては意味がありません。そこで、まずは駐車場の数自体を減らします

ただ駐車場の数を減らす時期が早すぎると残りの駐車場の駐車台数が増えすぎます。なにしろこの駐車場は入ってくるのみ。出ていくことができません。そこで、ある程度の時期までは道路は上り下りの2車線のままにした上で、駐車場の数も多いまま維持しておきます。その後にタイミングを見計らって上り車線を封鎖し、さらに溜まったエネルギーごとまとめて余分な駐車場を廃棄します。これをグリーンハーベストといっています。

考えなしな浪費家であるブドウに、意味のある浪費で対抗するのです。

ブドウの収量制限とはなんなのか | 考え方、方法、そして注意点

ブドウ栽培の現場では常にこうして入ってくる車の台数と、その車を止めるための臨時駐車場の数と広さを調整し続けます。

とはいっても、せっかく使用する車線を決め、エネルギーの流れる方向を指定し、流れてきたエネルギーを溜めるための臨時駐車場の数と広さを調整しても、実際にエネルギーが入ってこなかったら何の意味もなくなってしまいます。

エネルギーの物流を阻害する際たるものが、病気です

葉が病気にかかれば高速道の入り口が封鎖されてしまったようなものです。枝が病気になると道路のあちこちに穴が開いたようなもので、車はまともに走れなくなってそこかしこで渋滞が起こります。病果はせっかく貯蔵したエネルギーごと駐車場をダメにします。

通常の道路よりも高速で車が走行する高速道路は常にメンテナンスをされている必要があります。ブドウでも同じです。常にエネルギーの流れが健全に保たれ、意図した台数が意図した場所に駐車するように状態を保たなければなりません。

このための方法が、防除です。

栽培とは無関係の除葉作業

ブドウの栽培をエネルギーの流れとその使い方の視点から見てみると、1つの疑問が生まれます。除葉の必要性です。

ワイン用のブドウ栽培では除葉が欠かせない作業の1つとして捉えられています。

除葉とはブドウの果房周辺にある葉を取り除いてしまう作業のことをいいます。こうすることで果房周りの風通しがよくなり、房がカビなどの病気にかかりにくくなります。また房に直接日が当たるようになることでメトキシピラジンなどの一部成分の生成量が変わる一方、日焼けの原因になったりもしています。

除葉の季節

除葉をどこまでやるか?

ワインにおけるメトキシピラジン量と環境要因

ただこれらはいずれも、果実の健全性を保ったり、果実に含まれる成分を調整することが目的です。実は除葉はブドウの樹の生育自体に対しては特に必要はありません

除葉によって入口の数が減り、それによって臨時駐車場に止まる車の数が変わるということはあります。でもそれだけです。ブドウのエネルギー流通の視点からは、入口の数の多さはあまり問題になりません。

入口の数を確保するために果房の周辺に葉を残すのも、枝の長さをその分長くして葉の枚数を増やすのもエネルギー量の収支からは同じことです。大事なのは、必要な量の入り口を、きちんと使える状態で確保できているのかどうかだけなのです。

除葉とはブドウの栽培上で必要になる作業なのではなく、果実の品質を確保するために必要になる作業です。

今回のまとめ | 浪費家にいかに貯蓄をさせるのか

ブドウはとにかく浪費家です。少し油断して目を離すと、すぐに無駄使いを始めます。

ブドウ栽培はこの浪費癖を抑えて、バランスのいい支出をさせていくための作業でもあります。

いかに無駄使いが好きなブドウといえども借金してまで浪費することはできません。そこでブドウに浪費をさせないための最初の方法が、過剰な収入を持たせないことです。入ってくるエネルギーの量とその流れを調整し、適切な交通量を維持させます。

そして、都度、タイミングをみてエネルギーを使うべき場所を指示します。

もちろんブドウに人の言葉はわかりません。こちらがいくら口で指示を出してもブドウはそのようには動いてくれません。そこで強制的に選択肢をなくします。エネルギーを使いたければ、そこにしか使えない状況を作り上げていくのです。

これは1つの矯正作業でもあります。

ひもで縛りつけてがんじがらめにしたうえでいうことを聞かせるのは見た目が悪いですが、自然と、それとなく、選択肢を絞り込んでおいてそちらの方向に誘導してやればやっていることは最終的には同じでも印象はずいぶんと変わります。従う側も無理なく従うことができます。これをいかに上手く裏で整えていくのかが、栽培に求められる技術です。

こうした作業を上手くこなすためには、最初の時期にきちんとした完成予想図を持っておくことが必要です。行き当たりばったりで整然として効率のいい道路は作れません。

出来上がった高速道路の路面図がきちんと頭にあれば、先回りしながら適切なタイミングで効率的な物流を確保できます。適切な量のエネルギーを入れ、適切な方向に流し、適切な場所に蓄えさせる。

ブドウの樹を1つのエネルギーの流れとしてとらえることで見えてくる視点です。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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