ワインの勉強をしていると世界各国のワインの情報に触れます。特にソムリエールやワインエキスパート、WSETといった試験を受けようとする方はその膨大な量の情報に頭を悩ませているのではないでしょうか?
そんな中にあって、特に分かりにくいと評判なのがドイツワイン。
JSA、日本ソムリエ協会が管轄しているソムリエやワインエキスパート試験の対策を行う際にはドイツワインは捨て問として最初からなかったものにする、なんて話も聞こえてくる程です。
実際にドイツでワインのことを細かく規定しているワイン法という法律は、非常に難関な法律としてドイツ人にも知られているほど。ドイツ人に分かりにくいものが外国人の我々に分かりやすいはずもありません。
そこでこれから複数回に渡ってドイツで実際にワインを造っている筆者がこの法律の内容を分かりやすく噛み砕いて解説してみたいと思います。
第一回目の今回は、ドイツにおけるワインのカテゴリーについてです。
この記事を読んだあとには
本当はドイツワインについても知っておきたいけれど、限られた時間の中で取り組むには分かりにくいし難しいから手を出しにくい
という悩みは解決しているはずです。
注意
ドイツでは2021年1月に新しいワイン法が施行されていますが、この記事はこれよりも前に書かれたものであり新しいワイン法の内容を前提としたものではないことを予めご理解いただいたうえでお読みください。
ドイツには3種類のワインがある
ドイツのワインは様々なことが詳細に至るまでワイン法という法律によって決められています。ブドウを栽培している「産地」についても実はこの法律で決められている項目の1つです。
ドイツではドイツの国内どこででも気ままにブドウを栽培してそこからワインを造ってもいいよ、という自由はあるのですが、そうして造られたワインに対しては自由に呼称していいよ、という風にはなっていません。
そこで出てくるのが、ワインのカテゴリーです。
ドイツではどの地域で収穫されたブドウを使ってワインを造ったのかによって、そのワインがエチケット (ラベル) に記載することが許されるワインとしてのカテゴリーが決まっています。
クヴァリテーツワインとプレディカーツワイン
ドイツワインを勉強すると最初の方に出てくるのが、
クヴァリテーツワイン (Qualitätswein)
プレディカーツワイン (Prädikatswein)
という2つの名称ではないでしょうか?
注意
ドイツワインは時としてワインという一般的な記載を使わずにヴァインという表記を使っている場合があります。これはドイツ語でワインを意味するWeinという単語の発音がヴァインとなるからなのですが、ワインはワインですのでここではワインという一般表記を使います
この2つの名称には共通点があって、それはこの名称を冠することができるのはワイン法で定められた13の地域で造られたワインのみである、という点です。
詳しくは後述しますが、プレディカーツワインの元となるものがクヴァリテーツワインです。
クヴァリテーツワインとして認められるためには
- 13地域内の畑で栽培されたブドウ100%であること
- 13地域内であっても他地域との混合はNG
- 規定される果汁糖度の最低値を超えていること
- 公的な検定をクリアしていること
- 使っているブドウ品種をはじめ醸造手法等が法的に定められた内容に沿っていること
という項目をすべて満たす必要があります。こうしてみるととても厳しいようにも見えますが、実際にはそれほど厳しい内容ではないため指定された13地域で造っていればほぼすべてのワインがクヴァリテーツワインの範疇に入ると考えて問題ありません。
一方でプレディカーツワインとは等級付きのワイン、という意味です。
前述したようにこの区分もクヴァリテーツワインと同様の指定13地域で造られたワインにのみ付けられるものです。つまりワイン法で定められた13地域外、もしくは地域内であっても上記の規定に一致しないワインにはどんなに収穫時の果汁糖度が高く品質に優れるワインであったとしても一切の等級がつかない、ということでもあります。
等級のついたワインは自動的に、法律によって決められた13の地域で造られたワインということになります。
ドイツワインの等級
ドイツワインの等級区分は以下のようになります。
クヴァリテーツワイン: クーベーアー(QbA)
プレディカーツワイン: カビネット(Kabinett)、シュペートレーゼ(Spätlese)、アウスレーゼ(Auslese)、ベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)、アイスワイン(Eiswein)、トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)
前述したようにこれらの等級は法律で定められた13の地域で造られたワインに「のみ」つけられます。
そしてこの13の地域内で造られたワインであれば、そのワインはほぼ自動的にQbAの等級を取得します。クヴァリテーツ、つまり英語のQuality、品質という意味が名称になっているので如何にも高品質ワインのような印象を受けますが、実際には規定の地域で造っているワインであればほぼそのすべてがクヴァリテーツワインということです。
このQbAの上にあるのがプレディカートというもので、事実上の「等級」となります。
この等級については最終的なワインの品質に基づいて決められているわけではなく、収穫された時点におけるブドウの果汁糖度によって決まります。フランスのように畑に対して等級が与えられているわけでもありません。品質の高い (収穫時のブドウの果汁糖度がより高かった) クヴァリテーツワインがプレディカーツワインである、と理解してください。
等級付けのルールついては「カビネットって甘いんですよね?」の記事に詳しく書いていますのでそちらを参考にしてください。 ドイツワインでカビネットやシュペートレーゼと聞くと、ほぼ自動的に甘いワインのこと、と思ってしまう方はワインの勉強をしている方でも多いようです。ワインの説明をしていると、たびたび聞かれます。でもこれ、半 ... 続きを見る
カビネットって甘いんですよね?
メモ
プレディカーツワインという名称、以前はQualitätswein mit Prädikat (クヴァリテーツワイン ミット プレディカート) という名称でした。2007年にワイン法上の表記がPrädikatsweinに変更されています。
この旧名称、プレディカーツワインを理解するにはとても分かりやすい表現でした。mit とは英語の with です。つまり等級が付いたクヴァリテーツワイン、という名称だったわけです。この名称が、クヴァリテーツワインという土台の上にプレディカート (等級) が乗っている、という構造をとてもよく表していました。
※ プレディカー「ツ」ワイン、プレディカー「ト」と使っていますが、これは文法上「s」が付いているかどうかの違いですので同じものを指しています
ランドワイン (Landwein) という区分
上記のクヴァリテーツワインという指定された13地域で造られたワインに続く次の区分が、ランドワイン (Landwein) と呼ばれる区分です。
これはやはりワイン法によって定められた26地域の畑から収穫されたブドウを使って造られたワインに付けられる名称です。ただクヴァリテーツワインと違うのは、15%までは別の地域で収穫されたブドウを混ぜることが認められているという点です。
メモ
時々、ランドワインを地酒と表記しているのを見かけますがこれは正しいとは言えません。クヴァリテーツワインに指定されている13地域ではクヴァリテーツワインが地酒と言えるからです。
またランドワインはクヴァリテーツワインと比較してすべての点において規制が緩く設定されています。時としてクヴァリテーツワインの規定に沿わなかったワインに付けられる名称でもあります。
このためランドワインというとクヴァリテーツワインよりも品質に劣るワインだと思われがちな側面もあるのですが、実際にはそういうわけでもありません。単にクヴァリテーツワインの指定地域外の畑で収穫したブドウを使っただけで、品質的には高品質なものも多くあります。
それ以外にもクヴァリテーツワインとして指定されている地域を複数混ぜた場合などでもエチケット (ラベル) にはランドワインと表記されます。
なおワイン法の規定上、ランドワインには一切のプレディカート (品質) を付けられないこともランドワインがクヴァリテーツワインよりも品質の低いワインだと誤解される原因の1つです。
それ以外のワインはドイチャーワイン
ドイツワインにおける3つ目、最後のカテゴリーがドイチャーワイン (Deutscher Wein) です。
これは直訳すると「ドイツのワイン」という意味で、広義にはドイツで造っているワインであればすべてがこのカテゴリーに分類されます。一般的にはクヴァリテーツワイン、ランドワインのいずれにも属さないワインのことを指したカテゴリーとなります。
具体的にドイチャーワインに該当するワインを見てみてると、例えばクヴァリテーツワイン用の13地域にもランドワイン用の26地域にも属さない別の地域の畑から収穫されたブドウを使って造られたワインなどはこの区分に分類されます。クヴァリテーツワインとランドワイン、もしくはブドウの収穫地域の異なるランドワイン同士を85%の比率を超えて混ぜた場合なども同様です。
またランドワインの場合と同様に、この区分のワインにも一切のプレディカートはつけることが出来ません。
補足
本文中ではプレディカートについては「つけることが出来ない」という表現を使っていますが、より具体的にはプレディカートを得るための評価試験を受けることが出来ない、ということになります。
そもそも試験の受験資格自体がありませんので、どう頑張っても等級は付与されない、ということです
テーブルワインという区分
レストランやワインショップでの会話で時々、テーブルワインという言葉を耳にします。
このテーブルワインという単語ですが、国によって意味が違って使われていることはご存知でしょうか。
アメリカなどではテーブルワインというとスパークリングワインやフォーティファイドワイン (酒精強化ワイン) などに対する一般的な、食中に飲むスティルワインのことを指し、品質については言及していません。この一方で欧州でテーブルワインというと品質の低い、安価なワインのことを意味します。
ドイツでもテーブルワインに当たるTafelwein (ターフェルワイン) という言葉はありますし、規定上は生産地記載のないドイチャーワインのことを指しています。
しかしこの単語がエチケットに記載されることは基本的にありませんし、うかつに生産者に言ってしまうと侮辱と受け取られることもありますので注意が必要です。
ワインのカテゴリーとしては忘れていただいて問題ありません。
今回のまとめ | ドイツワインのカテゴリー分けはこう覚える!
クヴァリテーツワイン、ランドワイン、ドイチャーワインというドイツワインに存在する3つのカテゴリーを見てきました。
それぞれのカテゴリーはドイツにおけるワイン法によって規定されているどの地域でブドウを収穫したのかによって分けられています。このそれぞれの指定地域を細かく覚えようとすると大変なのですが、一般的なワインの資格に関わるレベルでは以下のように覚えておけば問題ないでしょう。
クヴァリテーツワイン: 指定13地域を覚える
→ Ahr (アール)、Baden (バーデン)、Franken (フランケン)、Hessische Bergstraße (ヘッシッシェ・ベルクシュトラーセ)、Mittelrhein (ミッテルライン)、Mosel (モーゼル)、Nahe (ナーエ)、Pfalz (プファルツ / ファルツ)、Rheingau (ラインガウ)、Rheinhessen (ラインヘッセン)、Saale-Unstrut (ザーレ・ウンストルート)、Sachsen (ザクセン)、Württemberg (ヴュルテンベルク)
ランドワイン: 指定地域は26ある。クヴァリテーツワインの指定地域間でのキュヴェもここに入る場合がある
ドイチャーワイン: ドイツで造られたワイン全部。特にクヴァリテーツワインでもランドワインでもない地域で造られたワインがここに分類される
これにプラスして、等級 (プレディカート)はクヴァリテーツワインだけに与えられる特権、と憶えていただければドイツワインを理解する基礎は完璧です。
今回は以上となります。次回は「味と等級の間で生じる誤解」についてです。