すでに何度もこのBlogでも書いてきましたが、今年のドイツは本当に暑く、まだ5月だというのに日中の気温が30度を上回る日が続いています。場所によっては洪水が起きるくらいに大雨が降っている一方で、ラインガウ近辺では雨が極端に少ないわりに湿度が高い、雨が降りそうで降らない毎日です。
こんななか、ぶどうは順調すぎるほど順調に成長しています。順調、というと聞こえは良いのですが、実際には速すぎる、というのが実感でもあります。ぶどうの高さはすでに2mを超えるほどになり、ワイヤーは柱の一番高い位置に設定する必要が出てきています。畑ではワイヤーを上げなければならないのですが、それ以外の、本来ならこのワイヤー上げの前に済ませておかなければならない類の仕事が終わっておらず、結果として表から見える成長の順調さとは裏腹にあまり理想的とは言えない状況に陥っています。
顔を出し始める病気の数々
そのような状況が常態化してしまうと何が起きるのかと言えば、病気の発露です。
特に今年は日中が暑く、夜はまだ涼しい気温が続く中、湿度が終始高めの状況が続いています。そしてさらに、時々、思い出したようににわか雨が短時間で降ります。これで病気が出ないほうがおかしいほどです。
もちろん、ぶどう栽培家たちはそういった病気を防ぐために薬剤の散布も行っていますが、前述のとおりのぶどうの状況ではその効果も限定的にならざるを得ない、というのが実情でもあります。今、ぶどう畑はいろいろな意味において、とてもむずかしい状況にあります。
人為的な害もある
そんな中、今年は例年よりも目立つ印象の強い症状が一つあります。
この写真のような症状です。写真を見ていただければひと目で分かる通り、この症状の典型的なところは葉にシワが出ることと、葉が”上向き”に巻き上がることです。
この”葉が巻く”という症状で言えば、代表的な病気はBlattrollkrankheit(英:leafroll virus)です。英語名でVirusという単語が入っているとおり、ウィルス系の病気で、ぶどうだけではなくじゃがいもなどでも見られるものです。症状としてはまず葉が黄色や赤い色に変色し、その後に葉が”下向き”に巻きはじめ、やがて落葉してしまいます。この病気の怖いところは、葉が変色してしまうことに始まり、シュリンクするかのように巻き、やがて落ちてしまうという一連の病気の進行過程全体を通して、本来であれば確保できたはずの光合成による代謝が行えない、もしくはその効率が著しく低下してしまうことです。ぶどうにしてもじゃがいもにしても実が成熟するなかで蓄えられていく糖類は光合成を経て獲得されていますので、光合成ができないということは実が糖分を獲得できない、ということになります。
一方で、この病気では葉は基本的に”下向き”に巻きます。つまり、上に掲載した写真の症状とは異なるものです。
では、この写真に見られる症状は何なのでしょうか?
実は、この症状が見られる畑にはある一貫した条件があります。それが、除草剤の散布の有無です。
つまり、この”葉が上向きに巻く”という症状の原因は、除草剤の散布量の誤りにあります。本来、散布されるべき適正量の散布量に適合しない量の除草剤が散布されることによってこのような害が生じてしまうのです。ただ、きちんと適正量が計量された上で使用されていればこのような弊害は生じませんので、これをもって除草剤の弊害だ、というのは少なくともフェアではありません。この症状は、明らかな人為被害なのです。
今年はすでに何度も述べてきたとおり、ぶどうの成長速度が常軌を逸して早いため、ぶどう畑での作業者は一切の余裕なく作業に追われています。このため、一つ一つの作業の質がどうしても下がり気味になる傾向があります。もちろん、ワイナリーによっては極めてきちんと、高い品質を持って仕事をしているところはいくらでもあります。あくまでも全体的な平均値として、例年よりも質が低下する傾向が見られる、というだけです。
しかし、今年はなんとなくでもこの除草剤の散布量のミスを原因とした症状が例年よりも多い気がする、というところに今シーズンのぶどう畑の困難さを見ることができる気がしています。
このような傾向が今後、もっと致命的な病気の感染が出てしまった時に悪い方向に強く出てしまわないことを祈るばかりです。