前回、ロゼであってロゼでない、ドイツのこだわりの名称としてRotling (ロートリン) をご紹介しました。今回はロゼであるのにロゼでないように扱われるヴァイスヘルプストとブラン・ド・ノワールをご紹介したいと思います。
ロートリングに関する記事はこちら
ヴァイスヘルプストとブラン・ド・ノワール
次にご紹介するのがWeißherbst (ヴァイスヘルプスト) とBlanc de Noir (ブラン・ド・ノワール) です。これらはRotlingとは違い、今度はロゼのヴァリエーションの名前となります。
ヴァイスヘルプストとは95%以上同一のブドウ品種から作られたロゼのことです。ただし、ここにロゼはロゼでもより赤ワインとしての意識の強いロゼである、という注意書きが付きます。
これだけ聞くと理解し難いかもしれませんが、単純に言えば1リットルのうち50 ml分までは異なる品種を混合することが許された、限りなく単一品種に近いロゼである、ということになります。分かりにくいですね。実はここに少しした意識的なトリックがあるのです。
ロゼに限らず、すべてのワインは必ずしも単一のブドウ品種から造られなければならないわけではありません。ドイツで言えば、85%以上を単一の品種で造っていればそのワインのエチケットには単一品種の名前を記載できます。つまり、白ワインのエチケットに“リースリング”と記載されていればそのワインは少なくとも85%はリースリングから造られている、ということです。
赤ワインや白ワインではエチケットに記載されたブドウ品種に割と敏感な方が多いのですが、なぜかロゼではこの意識が希薄になりやすいようです。これはおそらく、ロゼを無意識的にでも赤に白を混ぜたもの、という考えがあるため、もしくはシャンパンがそうであるためなのではないかとも思うのですが、ロゼに関しては比較的、元から複数のブドウを混ぜて造っていると思われることが多いのです。
そうは言っても、ロゼのエチケットにブドウ品種名が記載されていれば、当然そのロゼは85%以上、単一のブドウ品種で造られていることになります。
限りなく、単一品種に近い、ヴァイスヘルプスト
ここでヴァイスヘルプストです。
ワイン業界的にはボルドーのような例外もあるものの、なんとなく、単一品種=いいワイン、という意識が根強くあるように思います。これは世界的にもそうで、単一品種で造っていることをアピールすることはプラスになりこそすれ、マイナスになることはまずありません。
そんな中で、ヴァイスヘルプストは95%を単一品種で造っているのです。これは非常に強いアピールポイントである、きっとワイン法でこのワインの規定を決めた人はそう考えたのだと思います。
実際、ワイン法におけるヴァイスヘルプストに関する規定を読んでみても、ロゼである、というよりは単一の赤ワイン用ブドウ品種から造られた軽く絞られた赤ワイン、というようなニュアンスが強く感じられます。
このような意味では、ヴァイスヘルプストもロゼではなく、色は薄いけれど、赤ワインに区分されているようなものなのです。ちなみに面白いことに、しっかり赤ワインに造ったものに関しては上記の85%を区切りにした区分以外には、ブドウ品種の比率に関する規定はありません。なので、いくら単一品種にこだわって赤ワインを造ったとしても、エチケットにヴァイスヘルプストのようにそのことをアピールするような文言を入れることは出来ないのです。
色の薄いロゼ、ブラン・ド・ノワール
ブラン・ド・ノワール (Blanc de Noir) とはもともとはシャンパンの名称なのですが、これがドイツに来て少し意味を変えて使われています。
シャンパンにおけるブラン・ド・ノワールはシュペートブルグンダー (ピノ・ノワール)とシュバルツリースリング (ピノ・ムニエ) を混合して造られたを指していたのですが、ドイツでは一般的なロゼよりもさらに色の薄いロゼ、という意味で使われています。
この名称にはドイツワイン法における定義付けなどはなく、使用者が自分の感覚で自由に使うことが可能です。このため、ブラン・ド・ノワールという記載がエチケットにあるワインでもものによってその色味や味、香りなどは本当に様々です。醸造的にも、ロゼよりも抽出を軽くして色味をより明るく、ほとんど白ワインのように造った赤ワイン(ロゼ)、というイメージです。
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