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ワインのオフフレーバー | UTA / ATA

投稿日:09/01/2020 更新日:

ワイナリーやワインショップで試飲して気に入った白ワイン。買って帰ってきたけれど、まだ飲み頃には少しだけ早い気がしてもうしばらく自宅のセラーで寝かせることにした。

その後半年経ったある日の食卓。

本当はもう少し寝かせておいた方がいいと分かっていながらもついつい我慢できずに取り出してきたのがこのワイン。まだ早いんだろうなぁ、と頭の片隅で考えながらもコルクを抜いて、さぁお楽しみの時間!と思ったらなんだか違う。

まるで何年も寝かせていたような、酸化したようなニュアンスがある。自分の保管方法が悪かったのだろうか?ちゃんと温度を管理して、開ける日を楽しみにしていたのに…

 

そんな残念な経験をしたことはないでしょうか。

それはもしかしたら、UTAかもしれません。

 

UTAとはなんなのか

主に白ワインに見られるオフフレーバーの一種。この症状が出たワインはまだ数か月から1年程度の熟成であるにもかかわらず、すでに長期間熟成したような酸化系のニュアンスが出るようになります。またナフタレン臭や豆臭、ハイブリッド臭 (フォクシーフレーバー)、汚れた洗濯物の臭い、と言われることもあります。

ブドウ品種の特徴香はそのほとんどからすべてがマスクされてしまって感じられなくなってしまいます。

 

UTAとはドイツ語のUntypische Alterungsnoteの略です。英語ではAtypical aging (ATA)といい、まさにワインの異常な熟成の意味です。

ドイツでは1983年に最初に確認されましたが、その時には普段にない不快な臭い、という程度の扱いでした。その後に1989年にフランケンで再度確認され、1991年からはそれ以外のブドウ産地でも確認されるようになりました。現在ではドイツに限らず、世界中のワインに見られるオフフレーバーでもあります。

 

UTAの原因はAAP

UTAの原因となる物質はすでに同定されています。それが、2-Aminoacetophenon (AAP / 2-アミノアセトフェノン) です。この物質は最近になってMethyl anthranilateと並んでフォクシーフレーバーの原因となる成分であることが分かっています。

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UTAの原因となるアミノアセトフェノンですが、それ自体がブドウに含まれているわけではありません。現在の研究からは、アミノ酸の1つであるTryptophan (TRP / トリプトファン) を出発点にしてIndole-3-acetic acid (IAA / インドール-3-酢酸) が生成され、そこから何段階かの反応を経由してAAPになると予想されています。

このIAAはオーキシンと呼ばれる植物の成長ホルモンの1つでもあり、植物の生長において重要な働きをする物質でもあります。

またこれ以外にも以下の物質もAAPを生成する原因になることが分かっています。

  • Indolmilchsäure (インドール乳酸)
  • Indol-brenztraubensäure (インドール-ピルビン酸)
  • Indol-3-essigsäureethylester (インドール-3-酢酸エチルエステル)

 

UTAがワインの中に認識されるかどうかはそのワインのスタイルや品種などにもよりますが、AAPの含有濃度がおおよそ0.5 ~ 1.5 μg/l 程度になるとヒトの感覚器で知覚することが出来るようになるとされています。

 

AAPの生成にはSO₂が介在

UTAの原因物質となるIAAですが、この物質自体は前述の通り植物に重要な成長ホルモンの1つです。このため、トリプトファンからの生成があっても植物の生長過程において消費されてしまえばその後に問題とはなりません。

ワインのオフフレーバーであるUTAの原因物質としてIAAが認識される場合、その生成にはワインに使われる酸化防止剤として知られているSO₂ (二酸化硫黄 / 亜硫酸) が関係しています。

 

1996年に行われた研究では、APPの生成反応は亜硫酸とIAAの共酸化から始まり、微量の酸素がスーパーオキサイドやヒドロキシルラジカルに変換され、IAAがフォルミルアミノアセトフェノン (Formylaminoacetophenon) を介してAAPに分解されることを突き止めています。

IAAそのものを出発点としていない、Indolmilchsäure、Indol-brenztraubensäure、Indol-3-essigsäureethylesterからAAPが生成されるケースにおいてもSO₂の介在が必要となる点は同様です。

 

大本の原因はブドウの受けるストレス

UTAの原因となる化学物質がAAPであり、その生成にIAAが関わっていることをみてきました。

一方でUTAを引き起こしやすい事象としての原因は、ブドウの受けるストレスにあります。

 

早すぎる収穫
多すぎる収量
強すぎる乾燥ストレス
栄養不足
ブドウがストレスを受けやすい栽培・醸造手法

 

これらの事象を通してブドウが強いストレスを受けると、酵素の反応によってブドウ内におけるIAAの生成量が増えるとされています。また、高温環境下における太陽光の照射もやはりIAAの生成量増加に影響します。しそして過剰に生成されブドウの中に残ったIAAと、醸造過程で添加される亜硫酸が反応してAAPが生成されUTAを引き起こすのです。

 

UTAをどうやって回避するか

UTAの回避に関してはいくつかの対策が考えられています。

このオフフレーバーの原因となる物質は分かっていますので、根本的な対策としてはその先駆体であるIAAの生成量を抑える、つまりブドウの受けるストレスを減らすことが最優先の対策となります。

この方面の対策としては、以下のような方法が考えられます。

栽培面での対策

  • 施肥により栄養面のストレスを排除する
  • 潅水により乾燥ストレスを避ける
  • 十分に熟した状態で収穫をする
  • 事前に収量調整を行い過剰な収穫を行わないようにする

醸造面での対策

  • 長すぎるマセレーションは避ける
  • 発酵速度の早すぎる酵母の利用は避ける
  • 発酵温度やタンク内での熟成温度を低く保つ
  • 酸化を可能な限り避ける
  • ストレスの強い醸造機器の使用を避ける

一方で最近では世界規模で気候変動と気温の上昇が続いており、降雨の時期にも変化が出てきています。こうした事情からブドウが畑で高温ストレスや乾燥ストレスに晒されるリスクは高くなっていますし、収穫したブドウの酸量を確保する必要から収穫時期の前倒しも避けにくくなってきています。

現在は必然的にUTAが発生しやすい状況となってきています。

 

赤ワインには生じないUTA

近年、何かと取りざたされることの増えてきているUTAですが、指摘件数の増えている白ワインに対して赤ワインでUTAが報告された事例はこれまでありません。また白ワインであってもマセレーションされたものであったり、プレスの最後の段階で搾汁された部分に対しても同様です。

この理由はUTAが形成される根本的な原因となるラジカル機構にあると考えられています。

 

UTAの生成に際してはワインの持つ抗酸化作用および抗ラジカル作用のポテンシャルが極めて重要な役割を果たします。この点において影響力が大きいと考えられているのが、赤ワインや一部の白ワインに多く含まれているポリフェノールです。とはいってもワインに含まれるポリフェノールの量を自由にコントロールすることはほぼ出来ませんし、前述したような栽培面や醸造面からの対策をしたからといって必ずしもUTAの発生が回避できるわけでもないことも分かってきています。

 

また白ワインに高濃度のポリフェノールが含まれるケースはあまりなく、含有量が増えることによるワインへの影響も小さくありません。つまり白ワインにおいて赤ワインのようにポリフェノールの濃度でUTAを回避しようとするのは現実的な手法とはいえません。

こうした事情を背景により手軽にコストをかけずにできる対策として提案されているのが、アスコルビン酸 (ascorbic acid / ビタミンC) を用いてワインの抗酸化力を向上させる手法です。

 

アスコルビン酸によるUTAの防止

アスコルビン酸は亜硫酸にならぶ酸化防止剤としても知られており、ワインにも添加されているケースは多くみられます。ドイツの例ではワインへの添加は法的に150 mg/l を上限として認められています。

一部ではワインに二酸化硫黄を添加することを嫌い、アスコルビン酸で代用しようとする動きも見られます。しかし、アスコルビン酸は酸化防止剤としては優秀な効果を発揮しますが、二酸化硫黄と違って微生物の抑制効果などはないためワイン醸造の観点からは二酸化硫黄の代替物としてそのまま使うには向いていません。

また仮に対象となるワインがUTAを発生するリスクが高いワインであると分かっているのであれば、UTAを引き起こすきっかけとなる二酸化硫黄の添加を行わず、代わりにアスコルビン酸を添加する対応は理にかなっています。しかし、そのワインがもともとUTAを生じるリスクが低い、もしくはリスクのないワインであった場合、二酸化硫黄を添加せずにアスコルビン酸のみを添加してしまうとワインが微生物による影響を受けるリスクを高めるのと同時に、強すぎる抗酸化作用によってワインの良好な熟成までも妨害してしまうことにつながります。

アスコルビン酸の添加はUTAの防止には確かに明確な効果を発揮しますが、この効果だけを期待してむやみやたらとワインに添加するのはかえって逆効果となる可能性が高い手法ともいえるのです。

 

こうしたリスクを回避しつつ、的確にUTAの発生を回避するためには果汁やワインが持つ抗酸化力を測定し、アスコルビン酸添加の必要性の有無を都度、判断する必要があります。しかしワインの抗酸化力の測定には非常に高いコストがかかります。このため、現在はUTAの発生する可能性を予想するための簡易テストが開発され、必要に応じて実施されるようになってきています。

 

次回の記事ではアスコルビン酸がワイン中で果たす具体的な効果や、添加したワインの評価について説明をします。

アスコルビン酸の添加がワインに及ぼす影響

先日公開した記事「ワインのオフフレーバー | UTA / ATA」で、まだ若いはずの白ワインで熟成したようなニュアンスを感じたらそれはUTAと呼ばれるオフフレーバーの1つかもしれない、というお話をしま ...

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また本文中で触れたUTAの簡易テストについてはサークル内にて別途ご紹介します。

 

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