LImited 栽培

目に見える違いは取り除くべき違い | 栽培の心構え

03/16/2020

先日の「ワインは畑ごとに味が違う、は本当か?」と題した記事で、ワインの味はブドウの実一粒単位で味が違うところをたくさん重ね合わせることでその違いを平均化しながら表現したものですよ、と書きました。

こちらの記事をTwitterでシェアさせていただいたところ、拡散してくださる方も何人かいらっしゃり、結果多くの方に読んでいただくことが出来ました。拡散してくださった皆様、どうもありがとうございました。

もしまだ読んでないよー、という方はぜひ一度目を通してみてください。

ワインは畑ごとに味が違う、は本当か?

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ところで、前回の記事ではこの「違い」が具体的にどこから生まれてくるものなのか、という点には触れませんでした。
今回の記事では主に畑に焦点を当てて、このような違いがどのようにして生まれるのかについて、お話をしていきたいと思います。

理想の味はブドウの状態でまず定義される

本題に入る前に、まずは少しだけ面倒くさいお話を先にしてしまいましょう。

先日の記事に書いたとおり、ワインの味は積み上げで造られています。その一方で、造り手が造りたい味としてイメージする、「理想の味」はこうした積み上げの末のものではありません。細かい素材のことはとりあえず考えず、自分が造りたい味をイメージします。

自分はこういう味のワインを実現したい、手元にはこういう特徴を持った素材がある、じゃあ、それぞれをこうやって組み合わせて目的の味に近づけよう、という流れです。

まずイメージがあり、そのイメージに近づけるために積み上げていく、というのが順番です。どんなに優秀なナビであっても、まずは目的地を設定しないことにはそこへ行くための道は案内できないですよね。

ただ、そうはいってもやはりある程度の枠組みは必要です。

例えば、どう頑張ってもブドウが熟さないような冷涼な気候の地域でワインを造ろうとしていたとします。しかしそれにも関わらず、ブドウが完熟していることが大前提となる味のワインを造ろうとすることは可能でしょうか。

絶対に不可能とまでは言わないまでも、やはりなかなか大変です。ですので、まずは「理想の味」の前提は、その「理想」が自分の周りのものすべてのポテンシャルのぎりぎりであったとしても、まずはそのポテンシャルの内側に入っている必要がある、ということです。

狙っているのがポテンシャルとしてのぎりぎりであるとすると、それは「各工程のすべてでベストの結果を得ていくことが求められる」ということです。ポテンシャルの内側に、なんて言われると何となく甘いことを言っているようにも感じられるかもしれませんが、とんでもない。これはとてつもなく大変な挑戦です。

誰の考える「ベスト」なのか

ワインを造る際の最初の工程はブドウの栽培、つまり畑であることはどなたにもお判りいただけることだと思います。この畑という工程での成果物が、収穫されたブドウです。

このブドウの状態がまずは造り手が狙った通りの状態になっていること。それがその後のワイン造りにとってとても重要です。

なおこの点、よくブドウの品質がワインの品質にとって最需要、という表現の仕方で言われています。いいワインはいいブドウから、なんてキャッチフレーズを実際に耳にされた方はとても多いと思います。

これはもちろん間違いではありません。ただ、実は大事な主体が抜けてしまってもいます

ぜひこの文章を読んでくださっている皆さんに考えていただきたいのですが、いいワインを造る「いいブドウ」とはどんなブドウだと思いますか?

「いいブドウ」と簡単に言いますが、どういうブドウが「いいブドウ」なのか、それを定義することは意外なまでに難しいことです。なぜなら、この定義はどのようなワインを造ろうとするかによって、つまり造り手ごとに、しかもワインの種類ごとに変わるからです。

例えば、スパークリングワインを造ろうとしているときに完熟してしまったブドウは決して「いいブドウ」ではありません。逆にパワフルで抽出物の多い力強いワインを造ろうとしているのに熟度が低く酸量の多いブドウは「いいブドウ」とは言えません。

「いいブドウ」とは、そのブドウを使おうとしている醸造家にとってもっとも都合のいい状態のブドウ、のことなのです。

畑では「違い」が増えていく

ブドウの状態を判断する要因は次の3つの要素に大別することが出来ます。

これらの要素はそのすべてが畑の中で生じ、そしてブドウの状態、ひいてはワインの味に大きな影響を及ぼす直接的な原因となります。

健康状態
ストレス状態
熟度

健康状態とはそのままブドウの実が健康を維持できているかどうか、ということです。
ワイン造りにおいて許容される病気とは唯一、Botrytis (ボトリティス) だけです。これにしても貴腐ワインを造る場合のみ許容されるだけで、それ以外のワインを造ろうとするときには避けるべき病害となります。

ブドウの健康状態というとついつい病気ばかりに目がいってしまいがちですが、実際には最近増えてきている日焼けなど、ブドウに何らかのダメージを与えるもの全部が健康状態を悪化させる対象となります。

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二つ目のストレスとは病気とは似て非なる要素です。

水分や温度、日照などの大幅な過不足が原因となってブドウにかかる負荷のことで、これが過ぎれば病気になるケースもあります。

ブドウの日焼けなどはこの典型で、ブドウの果実にかかる気温によるストレスが大きくなりすぎると目に見える傷害として発生するのがこの日焼けです。日焼けは近年の夏場の猛暑化に伴って発生リスクが上昇している疾病の一つですが、こちらについては過去の記事で解説しています。

ご興味がある方はそちらの記事をご一読ください。

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なお日焼けの例は原因となるストレスと結果となる傷害が直接対応しているケースですが、このようなケース以外にも何らかのストレスが複合的に関わりあうことで生じる病気や傷害というものも存在しています。

最後の熟度は上記の二つと違ってネガティブなイメージは持ちにくいものですが、やはり先に挙げた「いいブドウ」の例で書いた通り、ワインの味に対して良い影響、悪い影響の双方をもたらす要因といえます。

ブドウの収穫時における熟度は総酸量、果汁糖度、pH値、抽出物量といったパラメーターを通して、アルコール度数、残糖度、ボディ、果実感、そして香りの構成といったワインのテイスティング時に重要となる点に直接的に影響します。
狙った熟度に対して未熟であったり過熟であったりするケースではその後の醸造工程でのリカバリーが効かない場合があり、最終的なワインの品質に及ぼす影響が大きくなることがあります。その一方で他の2つの要素よりも比較的人の手の介入がしやすいという特徴もあります。

健康状態の悪化、ストレスの上昇、熟度の誤差という各要素はそのすべてがブドウの風味や味、香りに対して、それぞれを原因とした何ら別の特徴を加える形でその影響を及ぼします。具体的にはカビのついたブドウを搾ってしまえばその果汁にはカビの臭いが追加されますし、日焼けしたブドウが混ざっていれば焦げたようなニュアンスが追加されます。

つまり、こういった畑で発生する要因はそのすべてがすべからく、もともと造り手が狙っていた「理想の味や香り」に対して不要な何かを追加する形、「狙い」に対して「違い」を増やす方向で影響するのです。

今回のまとめ | 大事なのは「違い」を減らす畑作業

畑作業における重要な点は、醸造家が狙った「理想の状態」のブドウを収穫するために、可能な限りブドウに追加される何かを「減らす」ことです。

病気という理想とは異なる状態を減らし、狙った結果を得るために必要な水準を超えた過度なストレスを減らし、収穫時における熟度の誤差を減らすこと。それが畑作業における最大の目的です。

もちろんブドウの栽培は自然を相手にしたものですので、どうしても人の手が入れられないこと、どうにもならないことも発生します。しかし仮にそうした事態が生じたとしても、それらによる影響を最小限まで減らし、結果物である収穫時のブドウの品質と醸造家として狙った品質との間に生じる差を減らすことが求められています。

人手によるものであろうと機械によるものであろうと、作業の品質は常に不均一です。さらに言えば、ブドウの樹も全くおなじ状態のものなど一本もありません。一本の樹のなかでさえ、房のある位置、一粒の置かれた状況ですべてが大きく異なります。

ですので、いくら畑の作業品質を均一化し、それぞれの違いを減らそうとしていったとしても、必ず「違い」は生じます。これをゼロにすることは絶対に不可能です。

そして、こうした「減らす」ことのできない「違い」の積み重ねだけでワインとしての差、個性は十分すぎるほどに大きくなります。

避けることのできない「違い」だけで十分な差を生み出しているのですから、それ以外の避けることのできる「違い」など過剰なノイズでしかありません。

このノイズをどこまでコントロールすることが出来るかが、最終的なワインの味に如実なまでに現れる本当の意味での「差」となるのです。

神は細部に宿る。
醸造家が、そして栽培家が忘れてはならない真実です。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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