前回は主にドイツにおけるEcoとBioの違い、そしてEcoの認証をとるために求められる条件についての説明をしました。
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今回は、ワイナリーが苦労して取得したEcoの認証が最近ではかえって問題になっているケースについてお話しをしたいと思います。これらの問題は、場合によってはワイナリーの経営自体を揺るがす可能性もある問題であり、決して軽く考えることの出来ないものです。ワイナリーはこの問題に際して、Ecoの認証を守るべきなのか、その認証を捨ててでも対応するのか、重要な決断を迫られています。
物議を醸す、銅の散布量
前回の記事に書いた条件にある、畑における銅の散布量が最近は毎年のように物議を醸しています。
というのも、最近の気候変動を原因に夏の高温と長雨が常態化しつつあることで、ブドウ畑におけるカビ系の病気のリスクが非常に高くなっているためです。
銅を散布している、などと聞くと顔をしかめる方もいるかも知れませんが、昔からよく聞かれるボルドー液というものにはそもそも銅が配合されています。昔はボルドー液を使うこともあったのでしょうが、このボルドー液に配合されている消石灰が問題視されていることから、最近のドイツでは銅が直接散布されているのです。
なお話はそれますが、やはり消石灰の含有を理由として今ではフランスをはじめとして多くの国でボルドー液は使用されなくなってきています。
話を戻しましょう。
実は銅は一部のカビ系の病気に対して、唯一と言ってもいいほど有効な対処薬です。一方で、その銅が特効を見せる、近年リスクが高まっているカビ系の病気はブドウ栽培にとって非常にリスクの高い病気です。このため、雨が多くその病気への感染のリスクが高くなると、必然的に銅の散布量を増やさざるを得なくなるのです。
ところが、Ecoの認証をとっているワイナリーではその使用量の上限を通常のワイナリーよりも低くすることが義務付けられています。仮に今年、あまりに病気が酷いことから上限以上に銅を散布してしまうと、その時点でそれまでのEcoの認証が無効化され、また向こう数年間の移行期間を経なければ再度Ecoをうたえなくなってしまいます。この移行期間中は、Ecoの規定に準じた運営をすることが義務付けられる一方で、エチケット等へEcoの表記をすることは認められていません。
薬を撒かなければブドウが全滅する可能性さえあるなかで、Ecoの認証のためにそれでも散布量を抑えるべきなのか、認証を失うことを承知のうえで散布に踏み切るべきなのか、ワイナリーにとっては極めて厳しい決断となります。
このような事態をうけて、ドイツ政府では例外規定を出してEco認証を受けているワイナリーでもその年限りで、規定されている以上の銅の散布を許容する、というような対応を行うことが多くなっています。
しかし、EcoのシンボルがEU全域で統一されているように、これに関する規定はEUで統一されており、ドイツだけが単独で例外規定を出すようなことは難しいのが実情です。また例外規定で銅の使用量を多くすることを頻繁に認めてしまうと、そもそもEcoの概念に反する部分も出てくるため、病気が酷いからといって必ずしも例外規定が出ると約束されているわけでもありません。
Ecoの認証をとることでワインの単価が高くなることはワイナリーにとってもこの認証をとるためのモチベーションになりますが、一方では最近の気象状況からはEcoでいることのリスクも高まっており、ワイナリーにとっても重要な決断が迫られる場面が多くなってきています。
敢えてEco認証を取らないという選択
ワイナリーの中には、Ecoの認証基準に準じた取り組みを行っていながらも、敢えてEcoの認証を取らないワイナリーもあります。
これは、前述のように万が一の時に対応策を封じられてしまうリスクを嫌うため、という理由ももちろんありますが、それ以上にEcoの認証を取ることで経済的負担が増し、そのコストをワイン価格に転嫁することを嫌うため、という理由が実は多くなっています。こういったワインメーカーたちは、自身のワインを少しでも手軽に飲んでもらえるように、敢えて認証を取らないことでワイン価格を抑える、という選択をした人たちなのです。
確かに認証を取り、そのシンボルがあることは消費者から見てもわかりやすく、そのワインを手に取る動機づけになるのは確かです。仮にEcoのルールに従ってブドウを栽培し、ワインを造っているのであれば、マーケティング的には認証を取ることが正解でしょう。
しかしその一方で、認証をとることの持つ意味を分かっていながら、敢えて名よりも自分の意向という実を選択をするワインメーカーが多いことは、この国の持つ質実剛健さを表すいい事例のようにも思えます。