ワイン

アイスワインを造るというギャンブル。果たして気温は下がるのか

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この記事は2018年12月2日に公開したものに一部加筆修正したものです

異様なまでに暑く、乾燥した夏を経験した2018年のドイツ。そんな気候から一転して湿度の高い冬に、多くのワインメーカーが頭を抱えています。

 

最近は世界的にも辛口のワインが存在感を増してきているとは言っても、外から見たらまだまだ甘口ワインの印象が強く残るドイツのワイン。そんなドイツの甘口ワインの中でも毎年その生産の可能性が話題になるのが、アイスワイン(Eiswein)です。

 

 

アイスワインは凍らせるものではなく、凍ったもの

そもそもこのアイスワインというワイン、”アイス”という名前が付いているがために凍らせるワインだという勘違いを受けることが往々にしてあります。アイスワインとは”凍らせた”ものでも”凍らせる”ものでもなく、自然に”凍った”ブドウから作ったワインのことを言います。アイスワインを造る際の規定に関しては、「カビネットって甘いんですよね?」の記事にまとめていますので、そちらも参考にしてみてください。

カビネットって甘いんですよね?

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その”凍った”とする条件も、外気温がマイナス7度以下になることとワイン法で明確に規定されており、冬にこの気温まで外気温が下がらない年にはアイスワインはいくら造りたいと思っていても造ることができません。毎年このアイスワイン造りに挑戦するワイナリーはそれなりの数あります。しかし彼らの期待や祈りとは裏腹に冬中を通して気温が下がることはなく、待っているうちにブドウが傷んでしまったりして泣く泣く諦める姿を見ることも多くあります。

アイスワインというワインは、まさに自然の恵みによってしか造ることのできないとても貴重なワインです。特に最近のように温暖化の影響で冬の気温が上がってきている状態では、アイスワインを造ることはワイナリーにとって相当なリスクを背負う必要のある行為となってきています。

 

2018年は期待の年

そんな気象条件に生産可能性が左右されてしまうアイスワインですが、実は今年、2018年は期待の大きい年でした。その理由は、

 

  • 夏が暑く乾燥していたためにブドウの健康状態が非常に良かった
  • 夏の反動なのか、10月下旬から例年よりも冷え込む日があり、寒い冬が期待された

 

という2点が大きかったのです。

 

特にアイスワインの収穫は例年寒さが厳しくなる12月から年によっては翌年の2月になるような場合もあります。このためぶどうの健康状態は極めて重要です。

そんな中でカビ系の病気が少なかった2018年という年には、否が応でも期待が大きくなっていたのです。実際にブドウ畑を見渡してみると、それなりの頻度でアイスワインの収穫を行うための準備をしている場所を見つけることができます。

 

まだ希望はあるが

ところがここに来て、雨の降る回数が増え、気温もそれほど下がらない日が続いているのです。

特に雨は強く降るのではなく、短時間ではありつつもにわか雨やしとしと雨のような、雨脚は弱いけれどじっとりと濡れてしまうような降り方が連日続いています。

陽射しが出ることは少なく風もそれほど強くないため、乾燥しにくい状況が続いています。ここに気温が下がりきらない状況が加わって、空気中の湿度はこの時期にしては比較的高めを維持したままとなっています。非常に残念なことですが、ブドウが腐るには絶好の環境が揃ってしまっているのです。

 

もともとのブドウの健康状態が良かったこともあり、まだ待てる状態を維持しているところも多いです。しかしそれがこの状況下でいつまで保つのか、またその待てる期間内に気温が下がるのか、という問題が今まさにワイナリーの醸造担当者の頭を悩ませています。もしアイスワインが期待できないのであれば、今のうちに収穫してしまわないとブドウがワインにすることのできる品質から逸脱してしまうリスクが高くなるからです。

 

いつ収穫するのか

前述のとおり、アイスワインはその年の天候次第で造れたり、造れなかったりします。そして、その年に本当にこのワインを造ることが出来るのかどうかは、秋の本収穫の時点では誰にも予想ができません

そんな中でアイスワインを造ることに挑戦することを決めたワイナリーは、そのためのブドウを収穫せず、なるべく早い時点で気温が十分に下がってくれることを期待しつつ畑に残します。こうして冬を迎えてもブドウの樹に吊るされたままのブドウの実にはいくつかの未来像があります。

 

一番いいのは、気温が無事に下がって、期待したとおりにアイスワインの原料として収穫されることです。一方で一番望ましくないのが、天候に恵まれずにブドウの房に病気が出たり、腐ってしまったりして廃棄せざるを得なくなることです。こうなってしまっては廃棄分が丸々損失となってしまいます。そして、この両者の中間となる未来が、アイスワインにすることを諦めてブドウを収穫することです。

この場合、普通であればブドウの房は過熟ともいえる状態のはずですので、果汁糖度は高くなっています。ですので、アイスワインにすることは無理でも、アウスレーゼやベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)としてワインにすることが出来るのです。

 

今年は、というより今は、まさにこの決断が迫られている場面だといえます。

 

高い湿度と気温でブドウがやられてしまうことを避けるために、早々に摘むのか、ブドウの健康状態を確認しつつ、気温が下がることを願ってリスクをとるのか。すでに半ば博打のようなもので、ある種の諦めが必要になる場面でもあります。

 




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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。フリーランスとしても活動中

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