醸造

醸造に関わる測定項目

10/14/2018

ぶどうの収穫から始まるワインの醸造は、知らないとその意外さに驚くほど科学的(化学的)に進めていきます。その代表的なものが、各種項目の測定です。

もちろん醸造家によっては、昔ながらの経験に基づく勘であったり、その意味をわかった上での哲学的もしくは信条的な判断に基づいて細かい測定を行わずにワインを醸造していく場合もありますが、全体から見ればそれはごく少数の、稀なケースに分類されます。

何よりもまず知らなければならないもの

まず、もっとも知らなければならない数値、それがぶどうの果汁糖度です。

果汁糖度はぶどうの熟度を知る上でも重要な項目です。ぶどうの栽培家はこの果汁糖度の状況をみながらぶどうの収穫時期を決定しますので、この項目に関しては収穫前から重要な意味を持つものであると言えます。また、この果汁糖度と併せて収穫前から注目しておきたい項目が、総酸量です。

以前の記事で触れましたが、ぶどうに含まれる酸の量はぶどうの熟成とともに低下していきます。一方でワインの味わいはアルコール度数、残糖度そして酸量でその中心となる骨格が決まります。またアルコール度数と残糖度の間には基本的には密接な関係があり、その数値は発酵前のぶどうの果汁糖度で決定しています。このことから、収穫時にぶどうの果汁糖度と総酸量をどのようなバランスにするのか、ということがその後のワインの味の方向性を決める極めて重要な因子となります。つまり、ぶどうの果汁糖度と総酸量、この2者が収穫前後からすぐに必要となる、重要な測定項目ということができるのです。

※ ぶどうの熟度と酸量の関係についてはこちらの記事も参考にしてください

※ ぶどうの果汁糖度の高さとアルコール度数の関係についてはこちらの関連記事にて詳細を確認してください

それぞれの測定方法

ぶどうの果汁糖度と総酸量に関しては、極めて簡単に測定することが出来ます。

果汁糖度は専用の器材を用いることで測定できますし、総酸量は単純な滴定法によって知ることが出来ます。

一方で少し注意しておきたい点は、発酵の前後でぶどうの果汁糖度の測定に用いることのできる器材が変わる、ということです。

一般的にぶどう畑で直接ぶどうの果汁糖度を測定する場合にはリフレクトメーターと呼ばれる器材を使用します。一方で、ケラー内においてはドイツ語でシュピンドルなどと呼ばれる、先端の太った体温計のような器材を使用します。このシュピンドルに関しては発酵の前後に関わらず使用することができるのですが、この器材を使用するには一定以上の量のジュースが必要となるため、ぶどう畑で直接使用するには向いていません。

これに対して、リフレクトメーターは一滴のジュースで測定ができる上に持ち運びしやすい小型の形状なのでぶどう畑などで直接ぶどうの果汁糖度を測定したい時には重宝するのですが、この器材は測定対象となる液体の比重に基づく光の屈折差を利用した測定を行っているため、発酵が始まってしまうとアルコールが混ざることによって液体の比重が変化するために使用に問題が生じてしまいます。このような理由から、ワイナリーでは一般的にリフレクトメーターとシュピンドルの両方を備えておく必要があります。

醸造に関わる測定項目

ではぶどうの果汁糖度と総酸量以外に必要となる測定項目とはどのようなものがあるでしょうか?

まず、極めて一般的なところでは発酵中における液温が挙げられます。発酵中の液温の変動はそのまま発酵の状態を知る重要なパラメーターとなりますし、測定されるぶどうの果汁糖度は液温によって多少の修正が必要となります。また発酵中の液温は、発酵時に生じる発酵香にも影響を及ぼします。

※ 発酵香については以下の記事を参考にしてください

なお、シュピンドルにはもともと温度計が内蔵されており、果汁糖度と液温は常に同時に測定することが可能となっています。

これ以外のところでは、pH値、YAN、FAN、FANもしくはN-OPA値などと少しずつ異なった内容と名称で呼ばれる窒素量の数値などはわかっていると醸造面で助けになります。また赤ワインの醸造においては総酸量のみではなく、その内容としてりんご酸の量が把握できているとマロラクティック発酵を行った後の酸量について事前にある程度の見当をつけることが出来ます。

この一方で、上記のなかではpH値以外は測定に高価な測定装置が必要となりますので、まず個々のワイナリーで測定することは出来ず、ラボに依頼することになります。なかでもりんご酸の測定は高価な試薬と特殊な光学機材が必要なため、非常にコストがかかることに注意が必要です。

測定が楽な分野に分類されるpH値の測定についても、機材の使用頻度や測定前後における機材のキャリブレーションのための試薬の管理などが必要なこともあり、測定用の装置を備えていないワイナリーも少なくありません。pH値の測定用としてある程度の普及を見せているハンディータイプの器材については、キャリブレーションの問題なのかは分かりませんが、精度があまり良くない、という話もちょくちょく聞こえてくるため、正確な測定を期待するのであればやはりある程度のコストをかけてラボに依頼することが多くなっています。

含有されるカリウムの量やタンパク質の量に関しては分かれば発酵時やその後のワインの挙動などで役立つことはあるものの、一般的にワイナリーの業務に必要な数値として測定されることはまずありません。これと同様に、搾られたジュースや発酵が終わったワインに含まれる香り成分はガスクロマトグラフィーによって測定自体は可能ですが、実際にワイナリーとして測定するようなことは余程のことでもなければありません。このあたりに関しては、醸造家の嗅覚と味覚に拠る、数値化されないものとして扱われているのが一般的です。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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