仕事の流儀

圧力をどう操作するか

10/07/2018

ようやく終わりが見え始めた2018年の収穫。慌ただしい、なんて言葉が生ぬるいほどバタバタだった日常も徐々に、落ち着きを取り戻し始めています。

多い日には5回ほど回していたプレスも2,3回ほどになり、それにともなうフィルターがけなども併せてその回数を減らしています。

多少の落ち着きが出てきたので、ブログの記事執筆を再開しつつ、この収穫中の仕事を振り返ってみたいと思います。

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収穫期のお仕事

ケラー要員として動いていた筆者の収穫期における主なミッションは、畑に出ることではなく、まさにケラーのなかで働くことでした。

なので今季の収穫に関しては畑に出たのはシーズン最初の収穫時のみ、現地での収穫チームのマネージメントとトラクターの運転を中心にしただけで、それ以降はひたすらケラーでの仕事に従事していました。そんな筆者のケラーでの主な一日の仕事は、

  • プレスの準備
  • フィルターの準備
  • 収穫されたぶどうの受け入れと状態チェック
  • プレスへのぶどうの投入準備および投入
  • プレスの稼働と状態のチェック
  • 前日にプレスし、清澄をかけたジュースのフィルタリング
  • (必要がある時には)フィルターをかけたジュースへの補糖
  • フィルターをかけたジュースへの酵母の添加と発酵タンクへの移動
  • フィルターの清掃と次のフィルターの準備
  • プレスが終了したジュースの状態チェックと状態に応じた清澄剤の添加
  • プレスの清掃と次のプレスの準備
  • 発酵中のワインの状態チェックと管理
  • (赤ワインがある時には)果坊のパンチダウン 等など

というものであり、これらの内容を一日に数回繰り返しています。ちなみに繰り返しの回数は主にプレスを回す回数に準拠します。

その後の状態を左右するフィルタリング

上に列挙した仕事の中でも特に気を使うのがぶどうの受け入れからプレス稼働までのものと、フィルタリングです。プレス自体は稼働してしまえば2時間程度は自動で動きますので、プレスが終了するまではそれほどやることはありません。なのでこの時間を使ってフィルターを回しているのですが、このフィルターが曲者なのです。

この時点でフィルターをかける意味は、添加した清澄剤の除去と収量の向上にあります。

白ワインの製造においては、ぶどうを搾ったあとでその絞ったジュースを一定時間静置し、澱を沈殿させます(ワイナリーによっては逆に浮き上がらせるという手法をとる場合もあります)。その後にその澱以外の部分をとって酵母を添加、発酵過程に回していくのですが、この"澱"を含んだ部分が以外に馬鹿にならない量になります。

ここでのポイントは"澱"の量そのものではなく、"澱を含んだ"部分の量、という点です。

この時点における"澱"の存在はその後の発酵過程にも影響を与える部分があるため、どこまで澱を取り除くのか、または、どこまで澱を許容するのか、という判断は各ワイナリーによります。一方で、澱を全く許容しない、という判断をする場合、ぶどうの状態によっては絞ったジュースの半分程度が微量とはいえ澱が混ざっているために使えなくなる可能性があります。これはあまりに無駄の多い判断です。

しかも一般的に澱の沈降状態はジュースの量が多いほど良くなります。つまり、何かしらの理由で少量のぶどうのみを選択的に限定して搾った結果、得られたジュースの量が少なくなったような場合には澱の沈降状態は悪くなり、必然的に澱が混ざった状態のジュースの量が多くなります。これらを澱があるから、という理由で捨てることは実質的に出来ません。そこで必要になるのが、フィルターなのです。

フィルターに共通すること

ワインの製造過程においては複数のフィルターを状況に応じて使い分けています。

そしてこの、搾ったジュースから澱を取り除く、という目的のためには一般にはKammerfilterpresseとか、Hefefilterと呼ばれるタイプのフィルターを使っています。このタイプのフィルターは高い圧力に対応する必要があるため、一般的にボトリングの前に使用するタイプのフィルターよりも作りが大きく、頑丈になっているのが特徴です。なお、フィルターの使い方としては、珪藻土フィルターに近い運用です。

どのフィルターを使う際にも共通して重要なことは、圧力の調整です。

フィルターをかける際には必ず圧力がかかります。逆に圧力がかかっていないような状況はフィルターがまともに機能していない状況とも言えますので、もし仮にフィルターをかけ始めてしばらくしても圧力が全く上がってこないような場合には一旦作業を止めて、設備の状況をチェックする必要があります。

一方で、圧力が高くなりすぎるのも問題です。圧が上がりすぎると、今度は本来ならフィルターで濾したい対象の物質が力ずくでフィルターを通過して来てしまうような不具合が生じ得ます。このため、フィルター作業を行う際にはいかにして適正な加圧状況下で一連の作業を完了できるのか、ということに注意を払う必要があるのです。

圧力が上がる原因

フィルター作業において圧力が上がる原因は明確です。

フィルター過程において圧力上昇の理由は、設備における機械的な原因以外ではフィルターの目詰まり以外にありません。そして、このフィルターの目詰まりを防ぐこと自体は作業内容的に不可能なので、如何にフィルターの目詰まりを軽減しつつ目的となる量のジュースを流すのか、ということが重要になります。

ちなみに、個人的な感覚としてこのジュースから澱を取り除くという作業における適正な圧力は3~5bar程度と考えています。

この程度の加圧状況下では多少のロスは出るものの、作業の速度を維持しつつ、満足できる品質を維持することが可能です。またロスといっても全体からみれば数パーセント程度というところなので、十分に許容できる範囲であり、フィルタリングという作業においては総合的に見て限りなく満点に近い出来だと考えています。実際に筆者は5000L程度のジュースのフィルタリングを最大圧力5barほどで完了させ、除去した澱を含めて100Lを十分に下回るロスで作業を終えています。この際にかかる時間は、実際にフィルターを通している時間だけでみれば20~30分ほどです。

どのように圧力をコントロールするのか

フィルタリングにおけるもっとも重要な判断は、フィルターの表面積をどの程度に設定するのか、ということです。

一度上がってしまった圧力は、そのままでは下げることは出来ません。実際には流れを逆流させることで圧を下げることが出来ないわけではないですが、非常に手間と時間がかかってしまいます。このため、そもそも圧力を上げないにはどうすることが必要か、という思考が極めて重要です。そのための極めて大きなパラメーターがフィルターの表面積です。表面積に対して澱の量が多くなりすぎれば圧力は上がりすぎますし、逆に少なすぎれば圧があがらないまま無駄ばかりが多くなります。またこの際には、澱の量だけではなくその質も考慮する必要があります。フィルター詰まりしやすい質の澱であれば、それに応じて面積を調整する必要があります。

フィルターの面積の設定が決まったら、次に重要になるのがフィルターの補助剤と流量です。

フィルターの目詰まりを少しでも軽減するためにどのタイミングでどの程度のフィルター補助剤を添加するのか、またその際におけるポンプ側の流量や速度はどうするのか、ということを状況に合わせて判断していきます。これらを状況を見ながら能動的に調整し、圧がかかりすぎないように、かといって低くなりすぎないように、なおかつ徐々に上がっていく圧力を作業品質を維持したままで適正な範囲内で留めるようにしていくのです。

この作業に関してはフィルタリングの対象となるジュースの性質が毎回変わるため、杓子定規にこうすればOK、ということは言いにくい部分があります。しかし一方で、ちょっとしたパズルのような、ゲーム感覚で楽しめるような側面もないわけではありません。毎日複数回の作業を繰り返しつつ、毎回、今回はどうだったか、前回よりもよく出来たか、と考えながら今回は勝った負けたと作業を進めていくことは小さな楽しみでもあります。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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