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フェノレ、という言葉をご存知でしょうか?
ワイン、それも赤ワインをお好きな方なら馴染みのある言葉かもしれません。
また、フェノレには馴染みがなくてもブレットという言葉なら知っている方は多いのではないでしょうか。
これらは一般的に同じワインのオフフレーバーを指しています。
この記事の全体の流れ
- ブレタノマイセスによる「フェノレ」
- ブレットだけではないブレタノマイセスの悪事
- ネズミ臭の原因物質
- ブレタノマイセスだけではない原因菌
- ネズミ臭発生の原因
- 予防と対策
- 今回のまとめ | 単独では生じにくいネズミ臭
ブレタノマイセスによる「フェノレ」
フェノレ (phénolé) とはワインに生じるフェノール性の異臭 (オフフレーバー) の名前です。原語であるフランス語では「フェノール性の~」を意味する形容詞だそうですが、これがそのまま名詞として使われ、前述ような「フェノール系のオフフレーバー」や「揮発性フェノール (volatile phenol) 」を指す言葉として使われています。
一方でフェノレと同じオフフレーバーを指しているブレットは、このオフフレーバーを引き起こす原因である「ブレタノマイセス (Brettanomyces bruxellensis / Dekkera bruxellensis / ブレタノミセスとも) 属の酵母の生成する香り」との意味からつけられた名称です。
このブレットの名称が一般的になりすぎた結果、ブレタノマイセス (Brettanomyces) 属の酵母が働くとブレットになる、とやや短絡的に認識される場合が多いですが、実はそうではないことを皆さんはご存知でしょうか。
ブレットだけではないブレタノマイセスの悪事
フェノレ、ブレットと呼ばれるオフフレーバーはエチルフェノール類、特に4-エチルフェノール (4-ethylphenol) を原因とするオフフレーバーです。ブレタノマイセスが持つ酵素によって生成される物質ですが、この酵母の生成する物質は実はエチルフェノール類にとどまりません。
ブレタノマイセス属酵母が作り出す物質によって生じる別のオフフレーバーが、「ネズミ臭 (Mousey taint)」です。
ネズミ臭は原因の一部が同じためにブレットと同時に出てくる場合も多く、単独で認識されずにまとめてブレットとして扱われている場合も多いように思います。
しかしこの両者の原因物質は全く異なるものです。
ネズミ臭の原因物質
エチルフェノール類が原因物質とされるブレットに対して、ネズミ臭の原因物質は窒素系複素環式化合物である以下の3つが知られています。
- 2-ethyltetrahydropyridine
- 2-acetyl-1-pyrroline
- 2-acetyltetrahydropyridine / 2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridine
このなかでも特にアセチル系の2番目と3番目がワインの香りに強い影響を与えることが分かっています。これらの物質はポップコーンや白パン、クラッカー様の香りと表現されることの多い物質です。
特に2-acetyl-1-pyrroline (2-アセチル-1-ピロリン) はダダチャ豆特有のポップコーンの様な香りの原因でもあり、これ以外にも、パンの耳、シリアル、タイ米、アイスクリームのコーン、コーンスープ、トウモロコシ、フライ、天ぷら、マウスの尿などと表現されます。
それぞれの閾値は水に添加した場合で2-acetyl-1-pyrrolineが1.6 μg/l、2-acetyltetrahydropyridineにいたっては0.1 μg/lと極めて低く、ごく微量の混入が問題となり得ます。
一方でこれらの物質は単体でワイン中に存在しているわけではなく、複数の物質が同時に存在していることもわかっています。2002年に発表された研究では、ネズミ臭が確認された複数のワイン中における各物質の存在量の測定結果として以下の数値が報告されています。
- 2-ethyltetrahydropyridine: 2.7 ~ 18.7 μg/l
- 2-acetyl-1-pyrroline: ~ 7.8 μg/l
- 2-acetyltetrahydropyridine: 4.8 ~ 106 μg/l
(Costello and Henschke 2002)
ブレタノマイセスだけではない原因菌
ネズミ臭の原因であるピロリンやピリジンがブレタノマイセス属酵母によって生成されることはすでに書いた通りですが、実はこれらの物質、ブレタノマイセス以外の微生物によっても生成されます。むしろネズミ臭の原因菌としてはブレタノマイセス属酵母よりもそちらの微生物の方が中心的役割を果たしているともいわれています。
ブレットの発生比率に対してネズミ臭の発生比率が比較的低くなっているのも、この原因菌の影響度の違いによるものと考えられます。
次のページ以降では以下の内容に沿ってお話を続けていきます。
- ブレタノマイセスだけではない原因菌
- ネズミ臭発生の原因
- 予防と対策
- 今回のまとめ | 単独では生じにくいネズミ臭