以前、ロゼのワインは産地や品種が分かっていても内容が想像しづらい、という話題を見かけたことがあります。
これはとても興味深い半面、ワインを実際に造っている側からすると、「あぁ、まぁそうかもしれないな」と納得できてしまう点でもありました。ではなぜ、ロゼは仮に飲む前から産地や品種が分かっていてもそこと実際のワインを結び付けることが簡単ではないのでしょうか?
今回はそんな疑問に対して、「ワイン造りの方法に基づく理由」に焦点を当ててみていきたいと思います。
普段からロゼを飲んでいてどうもモヤモヤすることがある、という方はこの記事を読んでいただくとすっきりできるかもしれません。
そもそもロゼってなんだろう
世の中にはたくさんのロゼワインが存在していますし、まだロゼワインは飲んだことがない、という人はそれほど多くないのではないかと思える程度には市民権のあるワインだと思います。その色合いから日本では桜の季節に合わせて販促をかけていたりもするので、近年は目にする機会も増えているのではないでしょうか?
露出の増えてきたロゼワインですが、ロゼワインとはどんなワインでしょうか?
ロゼワインの定義とは何でしょう
こう聞かれて、明確に回答できる方はもしかしたら意外に少ないかもしれません。
ワインの種類は3種類。それは赤、白、ロゼである。と言われている割にはそれくらい、分かりにくい立ち位置にあるのがロゼというワインでもあると言えるのではないでしょうか。
非常にざっくり言ってしまうと、ロゼワインとは色の薄い赤ワインです。
かなり乱暴に聞こえるかもしれませんが、実際にこれ以上の定義はありません。赤ワインの色を薄く造ればそれはロゼワインです。
え、ドイツには白と赤を混ぜて造るロゼがあるよね?シャンパーニュだって赤ワインと白ワインを混ぜるよね?、という疑問があるかも知れませんが、前者はロートリング、後者はシャンパーニュもしくはスパークリングワインとして明確にロゼとは区別されたカテゴリーであって、「ロゼワイン」ではありません。
どれもこれも色がピンク色をしているからロゼワイン、というわけではないのです。ここが面倒なんですが、
ロゼ = 色の薄い赤ワイン
ですが、
ピンク色のワイン = ロゼワイン
ではありません。
ここは各々がその「造り方」に基づいて明確に区別されています。極めて簡単に言ってしまえば、黒ブドウ以外を使って色をピンク色にしたワインはロゼではない、ということです。
ロゼの肝は色にある
とはいっても、ロゼが「色の薄い赤ワイン」である以上、ロゼワインにとって最も大事なのはその色合いです。
誤解を恐れずに言ってしまうと、味わいは重要なパラメータではありません。これまた乱暴な表現ですが、色がピンク色になるように調整して造るとよほどこだわりを持って造り込まない限りは大体、ロゼとして連想されやすいワインの味の範疇に落ち着きます。
ですので、ロゼを造る際における醸造的な注意事項はほぼすべて、色の調整に関わる部分に置かれます。そしてその手法は以下の2つの方向性に大別されています。
色を抑える造り方
色を加える造り方
実はこのそれぞれが共にロゼが事前情報を知っていても何となく想像しづらいという事態を招く原因になっています。
ワインを飲んで感じた特徴が事前の情報と違和感なく適合するためには、まずは飲み手の方の頭の中にある品種や産地のイメージとワインの持っている実際の味や香りがある程度の粒度で一致している必要があります。
そこでまずは大方一致、という合意形成が成されてはじめて、細かいところに視点がうつり、全体像が形成されます。しかし上記のような造り方はどちらもこうした大前提となる部分での合意形成を難しくする傾向があるのです。
色を抑える造り方
ロゼの造り方としてモノの本を見ると、
- セニエ法
- ダイレクトプレス法
- 混醸法
- ブレンド法
辺りがよく紹介されています。
このうち、混醸法とブレンド法はすでに書いたとおり、厳密に言えばピンク色をしたワインの造り方であって、ロゼワインの造り方ではありません。そうなると一般的なロゼの造り方として残るのが、セニエ法とダイレクトプレス法ですが、この両者はともに色を抑える造り方に属している醸造手法といえます。「色を抑える」造り方とは、言ってしまえば赤ワインが赤くなる理由の物質であるフェノール類、その中でもアントシアニン等の含有”割合”を減らすことです。アントシアニン類の濃度を下げてしまえば自然と色は薄くなります。
濃度を下げるには、
希釈溶媒の量を増やす
対象物質の量を減らす
のどちらかしかありません。ワインにおける希釈溶媒とは果汁に含まれる水分量のことなので、醸造過程で水を足す、という選択肢を取らない場合には果汁量を超えてこの量を増やすことは不可能です。
このため取れる選択肢は実質的に対象物質、つまりアントシアニン類の量を減らすしかありません。赤ワインを赤くしているこれら原因物質については「徹底解説 | 赤ワインはなぜ赤いのか?」という記事で詳述していますので、そちらをご覧ください。
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徹底解説 | 赤ワインはなぜ赤いのか?
赤ワインはなぜ赤いのか? こんな疑問を持ったことがある人は多いのではないでしょうか? この疑問の回答を得るべく調べてみると、割と簡単に得られるのが以下のような情報です。 これは正しい回答です。 赤ワイ ...
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詳細は上記の記事に譲りますが、ワインに含まれるアントシアニンを中心としたフェノール類の量は抽出の時間と状態にほぼ比例します。特に色で話をすると、アントシアニンが多く含まれる果皮と果汁との接触時間が長いほど抽出が促され、果汁への蓄積量が増えるため色は濃くなります。逆に言えばロゼを造りたい場合には原則としてこの果皮と果汁の接触時間を減らす必要があります。
一度抽出されてしまったフェノール類の量に対しては希釈溶媒を増やせない以上、後から薄くすることが困難だからです。
メモ
醸造テクニックの一つとしてフィルターなどを通すことで一度抽出されてしまったフェノール類を取り除くことも不可能ではありませんが、そうすると今度は取り除かなくていいものまで取り除かれてしまうため通常はそのような目的でフィルタリングを行うことはありません
着色をほとんど招かないダイレクトプレス法
この果皮と果汁の接触を最大限まで引き下げるのが、ダイレクトプレス方式です。
ダイレクトプレスの場合、プレス前のブドウの状況次第ですが仮にブドウが全く傷ついていない状態でプレスに入れられたのであれば、搾られた果汁の着色度合いは極めて低いものとなります。これは同じくこの醸造手法を用いて造られる、Blanc de Noirが見た目は完全に白ワインと同じになっていることからもお判りいただけるかと思います。
このことから予想できると思いますが、ダイレクトプレス方式だけでは実際にはロゼを造ることはほぼ出来ません。色が薄くなりすぎてしまうためです。確かにロゼは「色の薄い赤ワイン」ですが、「色の薄すぎる赤ワイン」はそれはそれでロゼではないのです。
ロゼで最も重要なのがその色味、と冒頭に書いたのはこうしたことにも関係しています。
着色途中の果汁を抜くセニエ法
一方で適度にフェノール類が抽出されたところで果汁を抜いてしまおう、という考え方をしているのがセニエ法になります。
セニエ法はブドウを破砕して果皮と果汁を接触させた状態で一定時間置く、マセレーションもしくは醸しと呼ばれる工程の最中に果汁を抜く醸造手法のことをいいます。ちなみにこの時に「果汁を抜く」のか「果皮を取り除くのか」によって醸造的な目的は大きく異なります。
「果汁を抜く」場合にはメインの醸造対象は赤ワイン、逆に「果皮を取り除く」場合にはロゼのみを造ることを目的としています。
よくある方法としては果汁を全量抜くのではなく一部に留め、一定量の果汁を抜いた後もマセレーション自体は継続させます。こうすることで残された果汁に対しては抽出物量が増えるためよりしっかりとした味わいの赤ワインを造ることが可能となります。これはまさに「果汁を抜く」方式の例で、本来の目的は抽出の効いたしっかりとした赤ワインの醸造にあります。
このケースにおいてはロゼの醸造は赤ワインの醸造のおまけ的な位置づけになるうえ、ワイン法上の規定でも赤ワイン用果汁の凝縮と解釈されますので、水分量の減少が最大で20%となる量までしか果汁を抜くことが出来なくなります。つまり、ロゼとして造ることのできる量の上限が低めのところで制限されることになります。またこのケースにおける醸造的な特徴は、プレスをしないことです。
果汁を抜いた元のタンクでは引き続きマセレーションが行われていますので、果皮をプレスにかけることが出来ません。この結果、抽出物の量も種類も本来の含有量に対して大きく下がります。さらに前述の通り量も少ないためほかのタンクなどから抜いた果汁と混ぜられることも多く、こうした積み重ねが出来上がったロゼの輪郭をぼやけさせることにつながることが往々にして起こり得ます。
一方でワイナリー的にはあくまでも本来の目的は赤ワインの醸造ですので、少々、おまけで造ったロゼワインがぼんやりしていても良しとすることが多いのです。これに対してプレスをするのが「果皮を取り除く」ケースです。
こちらのケースでは果皮を取り除いてしまう関係上、それ以上色が濃くなることはありませんので全量がロゼの製造に回されます。
本気でロゼを造る場合にはこの方法をとることがもちろん多いのですが、この手法ではせっかく果皮に蓄積された成分のかなりの量を無駄にすることになります。一度プレスしてしまった果皮を別の果汁に漬け込むことは通常はしませんので、この「ある意味における無駄」を取り返すことは出来ません。
時々、プレスを通してフェノール類の抽出が行われる、という話を聞きます。
確かにプレス圧を上げて果皮の細胞の破壊率を上げていけばプレス中の抽出もある程度は期待できると考えられますが、これをやってしまうと雑味の多い味や香りになってしまうことに加え、色の程度の制御もできませんので通常はプレス圧を極端に上げることはありません。つまり、プレス前に抽出された量がワインに含まれる最大値、ということになります。
早摘みブドウによるロゼの醸造
早摘みブドウを使ったロゼ醸造あまり紹介されることがありませんが、実はもう一つ、「色を抑える」造り方に基づくロゼの造り方があります。
紹介される機会は少ないのですが、実際の現場ではおそらく最も多くロゼが造られるパターンです。それが早摘みのブドウによる醸造です。
早摘みの理由は様々ですが、いずれの場合にも実の熟成が完全には進んでいない状態で収穫をしてしまっていることが特徴です。こうするとブドウの色づきも十分ではないケースが出てきます。ブドウにもともと十分な量のアントシアニン類が蓄積されていませんので、いくら抽出をかけてもそもそも抽出されるべきものがないため色が濃くなることはありません。結果、自然とロゼになります。
またこのケースを選ぶ場合の収穫物は多くの場合、長時間の抽出も高圧でのプレスもできないことが色が濃くならない理由でもあります。
前述の二つの手法は「そこにあるもの」を使わないで色を薄くするポジティブともいえる方法でしたが、こちらの方法は「そもそもない」ので色の出しようがないというネガティブな手法となります。アントシアニン類が蓄積されていない、ということはフェノール類全体にわたって蓄積がないということですし、ブドウの糖度も十分に確保できていない一方で酸量が多いケースがほとんどですから、こうしたブドウを使って造られたワインは、全体的にワインとしての”特徴”が出にくいワインとなります。
この手法は出来上がるワインの品質を考えればどちらかといえばネガティブな醸造手法となります。しかしその一方でそもそも色の心配をしなくていい、という前提はロゼを造る上では非常に使い勝手のいい手法とも言えます。何より判断が楽ですし、果皮に蓄積させたのに使わないという無駄も表面的には生じません。
最終的な品質の良し悪しは別の手法と組み合わせることである程度まで調整することが出来ますので、醸造家としては選択しやすい手法であるとも言えます。
ロゼの醸造は早摘みの場合に限らず、ほぼすべての手法において何かしら別の手段を用いての”調整”が加えられていることがほとんどです。これがそのワインのプロフィールもしくはtypicité (ティピシテ) をより分かりにくくしている原因だとも言えます。単に「色を抑える」造り方であればそこにあるのは本来の品種や産地に紐づいた要素だけですので、多少インパクトは弱くても特徴自体は残ります。
しかし、色味を抑えることを通して本来ブドウが持つ要素を抑えつつ、さらに”調整”を加えることで本来の特徴が調整用のワインの持つ特徴によって上書きされてしまい本来のプロフィールが部分的にマスクされるということが起こり得ます。
ここからはこの”調整”に関わるお話をしていきます。
色を加える造り方 | ロゼワインの調整手段
ロゼワインにおける各種調整は冒頭にお話しした2つの醸造手法の後者、「色を加える造り方」を用いて行われます。
これはそもそも色を加える必要がないほどしっかりとした抽出をかけられる状態のブドウから造られたロゼであれば、元の味や特徴がしっかりしているため後から調整の必要が無いためでもあります。調整とは欠けている部分を補う作業になりますので、常に何かが不足しているものが対象になります。
繰り返しとなりますが、ロゼの場合は色の抽出が出来ていないケースでは必然的にその他の抽出物の含有量も少なく、相対的に薄っぺらいワインになってしまっているケースが往々にしてあります。ダイレクトプレスであったとしても早摘みであったとしてもそうした色をはじめとした各種の不足を補うための調整が必要となるのです。さて、ロゼの造り方として一般に知られる手法に
- セニエ法
- ダイレクトプレス法
- 混醸法
- ブレンド法
があること、そして最初の2つは「色を抑える造り方」であること、混醸法、ブレンド法は厳密には”ロゼ”の造り方ではないことをすでに書きました。
そうなると「色を加える造り方」としてこれ以外のなにがしかの手法があると思われるかもしれませんが、実はそういうわけではありません。調整は主にブレンド法を用いて行われます。
ブレンド法が”基本的には”ロゼの造り方ではない、という理由は、そのブレンドの対象が赤ワインと白ワインだからです。これが許可されているのは多くの国においてスパークリングワインにおける場合だけで、スパークリングワインは独立してスパークリングワインという種別なのでロゼワインという種別には属さない、という理屈に則ったお話です。
一方でこれは”赤ワイン”と”白ワイン”という組み合わせでのブレンドの話です。この作業の何が問題なのかといえば、赤ワインと白ワインという”スティルワイン”カテゴリーの中でさらにそれぞれ別の種別に属しているもの同士を種別の壁を超えて混ぜるから問題なのです。逆にいえば、スパークリングワインのケースのようにそもそも別のカテゴリーになってしまえば、そのカテゴリー内には”赤ワイン”という種別も”白ワイン”という種別も存在しませんのでこれらを混ぜることが許可される、と理解してください。
もう一度言います。
”同一カテゴリー”に属する、”異なる種別”のものを混ぜるから、問題なのです。
これは、”同一カテゴリー”に属する、”同一種別”のものを混ぜるなら問題にはならないということでもあります。そしてロゼとは”色の薄い赤ワイン”ですので、実際は赤、白に並ぶ種別ではなく、”赤ワインの下位種別”です。つまり、”ロゼ”と”赤ワイン”の混合を禁止するルールは存在しない、ということです。
これはグレーゾーンの話ではあります。しかし実質問題として赤ワインとロゼを混合してしまうとそれは必ず、例外なくロゼになります。なぜかというと、色が確実に元の赤ワインよりも薄くなってしまうからです。もちろんある程度の範囲はあるにしても、原則として色が本来の状態よりも薄くなった赤ワインは”ロゼ”であってもはや”赤ワイン”ではなくなります。ですので、赤ワインを造りたいワインメーカーが赤ワインとロゼを混ぜることはありません。そして、ロゼは”色の薄い赤ワイン”であればいいので、赤ワインとロゼを混ぜたものがロゼになるのであればそれ以上のルールは必要ありません。
つまり、この両者を混ぜてはいけない、というルールを作ることに実質的な意味がないのです。
ロゼワインを調整するというトリック
さて、調整の具体的な話に入りましょう。ロゼにおけるもっとも重要な”調整”項目はその”色味”です。セニエ法にしてもダイレクトプレス法にしても、そして早摘みの収穫物を使ったプレスにしても得られる果汁は多くの場合、色味がかなり薄くなっています。このため、より美しく映える色味に仕上げるためには色を足す必要があります。
どうやって色を足すのか。簡単です、
濃い色味をもった赤ワインを足せばいいのです。
そしてこの時、”どのような”赤ワインを足せばいいのか”は決めれていません。造り手の自由です。
例えばドイツであれば、エチケットに品種や産地を記入するのであれば、混ぜられる上限は15%までですが、これは異なる品種、産地であった場合の話です。同一の品種、同一の産地であればこのような制限は存在しません。この点から、実際のブレンドの際に考えられる組み合わせは以下のようなものとなります。
- 同一産地の同一品種の赤ワインを上限設定なしで添加する
- 同一産地、異なる品種の赤ワインを15%を上限として添加する
- 異なる産地、同一品種の赤ワインを15%を上限として添加する
- 異なる産地、異なる品種の赤ワインを15%を上限として添加する
1.のイメージとしては、セニエ法を延長して造るロゼが想像しやすいのではないでしょうか。
例えば果汁を抜いて醸造したロゼに、果汁を抜いた後もマセレーションを継続し醸造した赤ワインを数%添加するやり方です。この場合には完全に同一のブドウから造られたもの同士でブレンドをしていますので産地や品種といった事前情報とワインの中身が食い違うことはまずありません。
これに対して、2.以降の手法は事前情報とワインの印象が大きく食い違う可能性が出てきます。特に4.のケースはその乖離が大きくなります。
もちろんこういったブレンドはロゼに限らず行われています。ですので、理屈だけならロゼだけが食い違いを大きくする理由はないように感じるかもしれません。しかしロゼは混ぜる主体であるベースワインがもつ特徴がどうしても薄いものになってしまっています。このため例え数%でも別のワインを混ぜると、その混ぜたワインのニュアンスが他の白ワインや赤ワインに同じようにブレンドした場合と比較してより強く感じられるようになるのです。
この結果、事前情報として知っていた品種や産地のイメージと実際のワインの味わいの特徴が食い違い、想像できないワインとして認識されやすくなるのです。
産地というトリック
また”産地”という区分もこの傾向を助長します。
確かにラベルに書かれた産地が畑であったなら産地の特徴はたとえブレンド条件が同じであっても出やすくなります。これに対して、もともとラベルに記載された産地が地域などより広域な括りであった場合にはベースワイン自体がもつ特徴がそもそもより一層、ぼやっとしたものになっています。ここに別の産地の、特徴を強く主張するタイプの赤ワインを混ぜてしまったりするとおそらくエチケットに表記された産地を出来上がったワインから想像することは相当、難しくなると思われます。
ブレンドするワインというトリック
ブレンドするワインの特徴も出来上がったロゼのプロフィールを不明確にします。
例えばローストが強めの新樽を使い、乳酸菌発酵まで完全に完了させることで仕上げたワインをステンレスタンクのみで低温・還元状態で仕上げたロゼに混ぜたらどうなるでしょう?
しかも早摘みのPinot Noirのロゼワインに産地の異なる完全に熟成させたCabernet Sauvignonを混ぜていたら?
もしくはそこにさらに数%のMerlotを足していたら?
出来上がったワインから正確に品種や産地を予想することは、もしくは事前に仕入れた品種と産地の情報からこのワインの味を予想することは相当に難しいはずです。味はおそらくCabernet Sauvignonが支配的になるでしょうし、そうなるとCabernet Sauvignonを使ってセニエ法で造ったロゼワインと思ってしまうかもしれません。
この例の最たるものが、とあるドイツのPinot Sektのお話です。
もちろんこの話はSektというスパークリングワインカテゴリーでの話ですので状況はスティルワインカテゴリーの場合とは異なりますが、味の予想という意味では同じことです。
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今回のまとめ | こうして人は騙される
このSektではPinot Sektとピノ系品種から造ったSektであることがエチケットに明記されていました。液体の色はピンクです。
こうなると、飲み手はまず最初にPinot Noirから造ったロゼタイプのSektなのだろうと考えると思います。もしくはPinot Noirをベースに他のPinot BlancやPinot GriといったPinot系品種を少量、ブレンドしたのだろうと。
しかし、実際の造りはPinot Blanc 80%、Pinot Gri 18%の完全な白系Sektに2%のMerlotを混ぜることで色をピンク色にしたSektだったのです。
原料の実に98%がPinot系の品種から造られていますのでエチケットの記載には何の問題もありません。さらにSektなので白ワインと赤ワインを混ぜていることも合法です。しかし、飲み手がラベルと色から想像したであろうPinot Noirは全く配合されておらず、完全に予想されていないであろうSektとして仕上げられていました。飲み手からすると詐欺だと言いたくなる事例だと思います。
しかし、先のCabernet Sauvignonによって色付けしたPinot Noirのロゼも、実際はほぼ白ワインを原料にしているロゼっぽいPinot Sektも何一つ間違ったことはしていません。完全に法律に則って造られた、非の打ちどころのないワインであり、Sektです。これを事前情報から想像される味とは違う、として非難することは誰にもできません。
一方で、こういうことなのです。
赤ワインや白ワインと違い、ロゼはベースワインの芯が細くブレンドをするとその対象からの影響をより強く受けやすいワインです。また元がBlanc de Noirのように造られていると、色味の濃いワインによる色味と合わせた味の調整幅はより広くなります。こうしたワインはある意味において醸造家が自分の好みの味に造り込みやすいですし、実際にそのために自由に使えるのりしろが大きいのです。そうして文字通り”作り上げられた”ワインというものは額面通りではないことが多くなります。
こうしたロゼワイン独特の事情が、品種や産地といった事前の情報からもたらされるイメージと実際のワインの味や香り、特徴が一致しない、想像しにくいという結果をもたらしていると言えるのです。