シャンパーニュ

夏の暑い日に暑気払いとして飲みたくなるのは白ワインの炭酸割りですが、食前酒としてなら断然、スパークリングワインです。 

 

スパークリングワインとしておそらく世界で最も有名なのはシャンパンとも呼ばれるシャンパーニュですが、世界中には沢山のスパークリングワインが存在しています。 

スパークリングワイン、つまり、炭酸ガスを含んだ発泡性のワインの1番の特徴はこの発泡性。冒頭の白ワインの炭酸割りは通常の白ワインを炭酸水で割ることで後付けで発泡性を持たせますが、スパークリングワインでは醸造方法、つまり造り方でワイン自体に発泡性を持たせています 

 

スパークリングワインの造り方は以前、「徹底解説 | スパークリングワインの造り方」という別の記事で書いたのでそちらを参考にしていただくとして、今回は少し違った視点、このスパークリングワインになる前の原料であるワイン (ベースワインと言います) について書いていこうと思います。 

徹底解説 | スパークリングワインの造り方

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ベースワインは低品質ワインか 

ワイナリーで働いていると、否応なく天候に恵まれない年にも当たります。雨が降り続き、畑には病気が蔓延し、、、こうなるとそれまでにいくら手塩をかけて育てたブドウであっても品質が望めず、普段通りの品質のワインを造ることが困難になることが比較的早期に見込まれることがあります。 

そうした場合に非常によく話題に挙がるのが、ロゼにするか、早期に収穫してスパークリングワイン用のベースワインにするか、というものです。 

 

天候に恵まれない非常に厳しい年だったので早期に収穫しスパークリングワインにした、という説明をされるとついつい、ベースワインの品質が低い様に受け取られがちなのですが、その判断は少し違っています。ベースワインの品質が特に低いわけではありません。 

 

え、でもブドウの品質が低かったし、普通のワインが造れないからスパークリングワイン用のベースワインにしたんでしょ?なら、ベースワインの品質も低いよね? 

 

と思われるかもしれません。 

ちょっと分かりにくいところですが、ここは切り分けて理解する必要があります。 

 

まず、ブドウが完全に腐っていたような場合。これは全く使えません。普通のワインにも、スパークリングワイン用のベースワインにもしません。ただただ、廃棄します 

一方で、ブドウはまだ腐ってはいないけれど、十分に熟してもいない場合。そして天候が悪く、今後、ブドウの腐敗が予想される場合。 このケースが先に挙げたような事例の対象になります。 

 

通常のワインを造るには現時点でブドウの熟度が足りない。でも、目標とする熟度まで待とうとすると高い確率でブドウの腐敗が進み、収量、品質共に満足なものが得られない可能性がある。 

それでも待つのか、別の方向に進むのか、という決断です。 

 

その際に出てくる、別の方向というものの一つがスパークリングワイン用のベースワインにする、というものです。 

この時点ではブドウの品質は比較的高いところに留まっていますので、ベースワインが傷んだブドウから造られているということではないのです。 

 

ベースワインに望まれる品質とは 

ワインの品質はブドウの品質、という言葉がよく聞かれます。 

スパークリングワイン用のベースワインは傷んだブドウから造られているわけではないとは言っても、通常のワインを造れるほど十分に熟したブドウから造るわけでもありません。この点だけを見てしまうと、相対的にベースワイン用に使われるブドウは通常のワインを造るために使われるブドウよりも品質が低いと見えなくもありません。 

 

実際にシャンパーニュに使う黒ブドウは3/4程がまだ青い状態で収穫されます。通常の赤ワインを造ることを考えれば、まずあり得ない収穫のタイミングです。 

 

ではこれが低品質かというと、そうではありません。シャンパーニュにおいてはこれこそがベストな品質なのです。逆に彼らにとって、完熟して色濃くなったブドウは使うことのできない、ある意味において低品質なブドウとなります。 

最終的にどのようなスパークリングワインを造ろうとするのかによってはきますが、スパークリングワイン用のベースワインと通常のワインとでは求められる品質の種類が変わるのです。 

 

完熟してはいけないブドウ 

ブドウの品質は熟度で判断されることが一般的です。この場合の熟度とは、どれだけ甘いか、ということです。 

甘いブドウはそれだけ果汁内に沢山の糖分を含んでおり、これが発酵という酵母の代謝活動を通してアルコールと二酸化炭素に変わります。つまり、甘いブドウを使うほどアルコール度数の高いワインを造ることが出来ます。 

 

ちなみにブドウからワインにするための発酵を一次発酵と言いますが、この際に出てくる二酸化炭素、つまり炭酸ガスはまだ単に空気中に排出されるだけでスパークリングワインの発泡性とは関係しません。 

 

メモ

この一次発酵時に出てくる炭酸ガスを利用して微発泡ワインを造る場合もありますが、それは一般に弱発泡性スパークリングワインと呼ばれ、今回のテーマにしているものとはまた別のカテゴリーとなります 

 

スパークリングワインの最大の特徴である高い発泡性をワインに持たせるためには、二次発酵と呼ばれる2回目の発酵をすることが必要となります。2次発酵と名前はなんとなく変わっていますが、発酵自体のメカニズムは一次発酵と全く一緒です。ワインに含まれる糖分を酵母が分解してアルコールと炭酸ガスが作られます。 

ただ一次発酵の際には炭酸ガスよりもアルコールが重要視されていたのに対して、二次発酵では炭酸ガスの方が注目されます。言ってみればこれだけの違いです。 

 

ただ、ここで忘れてはいけないのが二次発酵でも変わらずアルコールも作られている、という事実です。 

一般にスパークリングワインで求められるガス圧は6bar前後。これだけの炭酸ガスを二次発酵で作ろうとすると、同時にアルコール度数が体積比でおよそ3%上がります。このため、もしもベースワインのアルコール度数が12%だったとすると出来上がるスパークリングワインのアルコール度数は15%になってしまう、ということです。 

 

アルコール度数が15%もあるスパークリングワイン、あまり一般的ではありません。フレッシュさなどが求められるスパークリングワインとしてのカテゴリー特徴的にもここまで重厚な骨格は望ましいものとは言い難いところです。 

このような事態を避けるために必要なことは、ブドウの熟度を上げないことです。 

 

ワインの勉強をしていると、甘く完熟したブドウを使っていてもわざとアルコール発酵(一次発酵のことです)を途中で止めてアルコール度数の低い、甘口のワインに仕上げることがあることを知る機会があると思います。 

なので、ベースワインでも一次発酵を途中で止めてアルコール度数を低くしておいてから二次発酵させればいいと思われるかもしれません。なんとなく正しいようにも思えますが、実はこれはあまりいい手ではないのです。 

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その理由は大きく分けて二つあり、一つ目が醸造管理上のリスクです。 

二次発酵ではワインに含まれる糖分が使われます。そこに元々ワインに含まれていたものか、二次発酵のために添加されたものなのかは問われません。つまり、ベースワインに元々糖分が残っているとそれも二次発酵時点でアルコールと炭酸ガスになる原料として使われます。そうなると往々にして狙っているアルコール度数やガス圧にキッチリ合わせるのが難しくなります。 

簡単に言ってしまえば、スパークリングワインの醸造の手間と品質管理場のリスクが増えます。 

 

そして二つ目の理由ですが、この理由がベースワインに残糖を残さない一番の理由です。 

 

ベースワインに求められる最も大きなこと 

完熟したブドウから低アルコール度数の甘口ワインを造る時に絶対に欠かせない手順があります。 それが、発酵の中断です。 

 

一次発酵中のワインの発酵を止める方法はいくつかありますが、安定してその後も発酵を止め続けるための方法は基本的に一つです。酸化防止剤とか亜硫酸塩の名前でも知られる、二酸化硫黄 (SO₂) を添加することです。一度発酵を止めたワインにこの二酸化硫黄を必要量添加することでワインに含まれる酵母を死滅させ、発酵という彼らの代謝活動を止めることができます。さらにこうしたワインはその後の再発酵を避けるためにフィルターをかけ、生き残った酵母もワインから取り除きます。 

この二酸化硫黄の添加、という行為がスパークリングワインを造るうえでとても大きな問題となるのです。 

 

甘口のワインを造るうえで添加される二酸化硫黄ですが、その添加の目的は「酵母の失活」です。 

一方で二次発酵で必要なのは、「酵母の働きによる炭酸ガスの生成」。つまりベースワインに求められる最低限度の条件は「酵母が働けること」なわけです。それにも関わらず、一次発酵を止め、さらにその後の再発酵を防止するために多めの二酸化硫黄を添加したワインは二次発酵をしなければならないベースワインとしては極めて不向きなのです。 

 

ベースワインとして使うためには二酸化硫黄の添加量を最低限度に抑える必要があります。そのためにはベースワインに残糖を残すことはできません。ということは収穫された時点のブドウに含まれている糖分はその全量が一次発酵を通してアルコールと炭酸ガスに変換されている必要があります。しかし、そうして造られたベースワインのアルコール度数が高すぎるのは問題となるので、ベースワインを造るために使われるブドウはそもそもそれほど甘くてはいけない、ということになります。 

こうした理由から、ベースワイン用のブドウは完熟していてはいけないのです。 

 

ベースワインが持つべき品質 

ここからはスパークリングワインを造るためのベースワインが備えるべき品質や特徴を具体的に見ていきます。



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