栽培

成長点をいつ落とすか

06/14/2018

ドイツ各地では南部地域を中心に相変わらず雹の被害が報告させており、悲惨としか言いようのない被害を受けた畑の写真なども目にします。特に枝が十分に長くなり、それにあわせてワイヤーを上げ、枝の整理も始めていたらしい畑でそのような被害があった写真をみると、本当に心が痛みます。

このような被害が出ている一方で、雹の被害を受けていない地域では順調すぎるほど順調にブドウは成長を続けており、枝の長さは2メートルをゆうに超えるほどになっています。

そうなると、ブドウ栽培者はいつ枝の先端を切り、高さを揃えるのかの判断をする必要が出てきます。

枝を切ることは成長点を落とすこと

ブドウの枝の成長点は枝の先端にあります。これはつまり、ブドウの樹の中でもっとも細胞分裂が活発な部分が枝の先端だということです。そしてこの成長点の位置は不可逆であり、枝の状況によって変化することはありません。

何を言っているのかというと、仮に枝を途中で切り落とした場合、切り落とした状態における枝の先端、切り口の部分が改めて成長点になることはない、ということです。このことは枝の先端を切り落とした場合、その枝はそれ以上長くなることはないという意味でもあります。仮に2メートルの位置でブドウの枝が切りそろえられた場合、そのシーズンにおける枝の高さは2メートルに固定されます。ときにブドウ畑を見ていると、一度は高さが低くなったのに数日するとまた高くなっているように感じることがありますが、これは成長点を落とした枝が伸びたのでなく、その枝から伸びた副梢が伸びた結果、枝が伸びたように見えているのです。

この成長点の存在はブドウの樹における栄養素の流れをコントロールする一因もまた担っています。成長点が存在しているうちは栄養素は枝の先端に向かって積極的に、一方通行に近い形で流されますが、成長点がなくなるとこの流れの方向性が変わり、根に向かって流れ始めます。このことが果実の成長に対して大きな影響をもたらす要因となります。

早い時期に成長点をおとすと果実は大きくなる

前述のとおり、成長点の存在はブドウの樹における栄養素の流れに大きな影響を与えます。

成長点があるうちは栄養素は一方通行で枝の先端に向かいますが、成長点がなくなると、この方向が逆転します。このことは成長点があるうちは果実へは積極的に栄養が供給されることはないのに対して、成長点が落とされると今度は果実に対して積極的に栄養素が供給され始める、という意味でもあります。栄養が供給され始めた果実は、それまでの栄養の供給がなかった時と比較して明確にその成長を速めます。

つまり、果実が大きくなる傾向が強くなるのです。

果実を大きくすることはいいことか?

単純に果実が大きくなる、と聞くととてもいいことのように思えるかもしれません。しかし、以前の記事、大豆は大粒、ブドウは小粒でも書いたとおり、ブドウの果実が大きくなることは必ずしも望ましいこととは言えない面があります。

もちろん、果実が大きくなるということは収量が増えるということなので量を作りたい栽培家にとっては悪いことではないのですが、品質を追っていく上では収量だけの問題ではないところでも病気などを含めていろいろな問題が発生するリスクが高まります。このため、あまりに早い時期に枝の先端を切りそろえてしまうとそれはそれで秋の収穫に向けて余計なリスクを背負い込むことになりかねないのです。

では、枝の先端の切り落としをしなかったりその時期を極端に遅らせればいいのかというと、それはそれで問題があるのが頭の痛いところでもあるのです。

遅い時期の作業は何をもたらすのか?

遅い時期の成長点の切り落としは、単純に樹や枝の成熟や果実の成長を遅らせる要因になります。

また成長点が残っているということは枝の成長が継続しているということであり、枝の成長が続くということはそれにあわせて葉の枚数が増えていくということでもあります。単純に考えるならば葉の枚数が増えるということはそれだけ光合成が行われることを意味しますので、いいことではないかと思いがちなのですが、ことはそう簡単ではありません。なぜなら、枝や葉の成長にはそれに見合った水や栄養素が必要だからです。

ブドウの樹を必要以上に成長させることは、それだけ土壌に対して大きな負担をかけることになります。肥えた土壌で保有水分量にも富んでいるのであればあるいは逆にこのような選択肢を積極的に視野に入れる必要がある場合もあるのですが、そのような場合は稀です。

そして、栄養素の不足は樹の成長だけではなく、その後の醸造の部分においても発酵の低活性化をはじめ様々な問題を引き起こす原因となりえます。つまり、これはこれでリスクの高い選択肢となりかねないのです。

いつが成長点を落とすベストタイミングなのか?

残念ながら、成長点を落とす時期として固定してベストタイミングといえる時期はありません。その年のブドウの生育状況、天候、畑の状態、栽培者自身が望む果実の状態などの各種要因を総合的に判断して決める必要があります。いつ、どの高さにあわせて枝をきるのか。そんなこと一つにもブドウ栽培者の意図と判断を見ることができるのです。

ワイン用ブドウ栽培やワイン醸造でなにかお困りですか?

記事に掲載されているよりも具体的な造り方を知りたい方、実際にやってみたけれど上手くいかないためレクチャーを必要としている方、ワイン用ブドウの栽培やワインの醸造で何かしらのトラブルを抱えていらっしゃる方。Nagiがお手伝いさせていただきます。

お気軽にお問い合わせください。

▼ おいしいものがとことん揃う品揃え。ワインのお供もきっと見つかる
  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

-栽培
-, ,