ワインといえばブドウから造られているので、菜食主義の方であっても安心して飲めるもの。
この考え方は必ずしも正しくはないことをご存じの方は多いと思います。
-
ワインは菜食主義者に優しくない
ワインはブドウから作られているので菜食主義の方が飲んでも問題ない。そんな風に思っていませんか? ワインにも動物由来のものが使われる可能性 これは必ずしも正しくない認識です。一部のワインではその醸造過程 ...
続きを見る
なぜ正しくないのか。
ワインの原料はブドウであっても、ワインを造る工程の中で動物性由来の材料を利用している可能性があるからです。動物由来の材料の多くは"清澄剤”と呼ばれる種類のものに使われており、その代表例が卵白であり、カゼインです。
-
ワインとアレルギー
ワインには意外と多くのアレルゲンが含まれている可能性があることをご存知でしょうか。 頭痛の原因となる可能性のあるアセトアルデヒドや生体アミンはワインの種類やその醸造方法を問わず、どのようなワインにでも ...
続きを見る
こうした材料はヴィーガンにとっての問題としてだけではなく、より深刻なアレルギー物質としてたびたび取り沙汰されています。
ワインを造る過程でこうした動物性由来の材料が使われていることは分かったけれど、多くのワインは瓶詰めされるまでにろ過をされているはず。であれば、ワインにはこうしたモノは残っていないのではないか。
こう考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この考え方は正解であり、間違いでもあります。
何が正解で何が間違いなのか。なぜ一部のワインはヴィーガンの方やアレルギーをお持ちの方には楽しんでいただけないのか。この記事を読み終わる時にはこれらの疑問は解決しているはずです。
[circlecard]
フィルターで取り除けるもの
ワイン造りの現場ではワインをろ過することをフィルターにかける、ろ過に使用する装置を単にフィルターと呼ぶことが多くあります。
このフィルターですが、いくつか種類があります。一方でどの種類のフィルターにも共通していることがあります。
固形物しか濾し取れないこと、です。
またそれぞれのフィルターではこの濾し取れる、つまりろ過できる固形物のサイズが違っています。ですのでより厳密に言うのであれば、フィルターではそのフィルターが対応できるサイズまでの固形物しか除去できない、のです。
とはいってもこれはより小さいサイズの固形物のお話。ある程度大きなサイズをもった固形物であればおおよそどの種類のフィルターを使っても除去することが出来ます。
そしてこのワインに含まれる固形物のサイズを大きくするために使用するのが、清澄剤と呼ばれる醸造補助剤です。
清澄剤を入れるなぜ
なぜワイン造りの工程で清澄剤などというものを使うのかといえば、ワインに含まれている微細な固形物をまとめて大きな固形物にすることでフィルターをかけやすくするためです。
固形物のサイズが小さいままでもそのサイズの固形物に対応したフィルターを用いることで除去することは可能ですが、これでは簡単にフィルターを目詰まりさせてしまいます。一方でこうした細かな固形物をまとめて大きな塊にしてからフィルターにかけてやればフィルターは目詰まりしにくくなります。
また、固形物の種類によってはあまりに細かすぎて普通にフィルターにかけただけでは除去できないモノもあります。こうしたモノも清澄剤に吸着させることで大きな塊としてしまえばフィルターで除去できるようになります。
これが清澄剤を使う理由です。
ワインに含まれる固形物はそれがフィルターで除去できないほど微細なものであったとしても、時にワインを濁らせます。ワインが濁っていることは従来の評価基準に従えば許されないことですので、我々造り手はこうしたワインを濁らせる可能性があるものは事前に可能な限り除去しておきたいのです。
-
濁ったワインは何が悪いのか
「濁りワイン」 日本では意外に市民権を得ている印象の強いワインのカテゴリーですが、これは日本独特な動きと言えます。 もちろん世界にも醸造過程を通してフィルターろ過を行わない「unfiltered」のワ ...
続きを見る
清澄剤はろ過できないのか
清澄剤はワインに含まれる固形物をまとめて大きくするためのものです。この結果、従来はフィルターで除去することのできなかった固形物が除去できるようになります。
であれば、微細な固形物をまとめて大きくしている清澄剤がまとめてフィルターで除去できない、というのはおかしな話です。
清澄剤はフィルターで除去されています。
原則として清澄剤はフィルター後のワイン内には残りません。
ではなぜヴィーガンの方に対してやアレルギーをお持ちの方に対して問題になるのかといえば、残留のゼロを保証できないためです。
問題となり得る3つの要因
清澄剤を製造工程内で使ったワインがヴィーガンの方やアレルギーをお持ちの方に対して問題となり得る理由は3つです。
- 動物由来の成分を持つモノを使った事実
- フィルターを通過する可能性
- 一部がワインに溶け込む可能性
最初の「使った事実」は主にヴィーガンの方や宗教上の禁忌をお持ちの方に対して問題となり得る点です。
主義や信条として動物由来のものを摂らない方にとっては、最終製品の中に動物性のものが含まれているかどうかが問題なのではなく、その製品自体の成り立ち全体として動物性のものが介在していないことが重要とされている場合が多くあります。
そういった方々に対しては使った後にフィルターで除去できているかどうかが重要なのではなく、ワインを造る過程で動物性のものが一度は入ったことこそが重要です。
だからこそ、ヴィーガン対応ワインは一切の動物性のものを製造工程内に入れていないことが求められます。
一方で2番目と3番目に挙げた点はもっと物理的な問題です。
前述の通り、フィルターはそのフィルターが対応できるサイズの固形物しか除去できません。逆に言えば、対応できるサイズよりも小さな固形物や、溶けて液体化したものは除去できないのです。
フィルターの限界
現在、ワイン造りの現場で使われているフィルターは様々で、対応できる限界も幅広く設定されています。
中でもシート型フィルターと呼ばれるタイプのフィルターでは使うフィルターシートの種類によって、最小で0.1μm (マイクロメートル) までの固形物を除去することが出来ます。(厳密にはフィルターシート状の孔のサイズが0.1μmなので除去できる固形物のサイズはこれ以上のものになります)
-
何が違うのフィルターシート
画像引用: https://www.thomasnet.com/profile/10013647/ertelalsop.html 最近はノンフィルターのワインが話題になることが多くなっていますが、それ ...
続きを見る
一般的に考えれば粒径0.1μmのモノを除去できていれば清澄剤がフィルター後にワイン中に残っているとは思えませんが、では可能性が本当にゼロかといえばこれは断言できません。理由はフィルターシートの孔のサイズが完全に0.1μmで全数が保証されているわけではないからです。
フィルターシートのカタログを見ると、各フィルターシートの孔のサイズは"normal retention rate"という表現が使われています。つまり偏差や確率上の数字としてその辺りにあるというだけで、このサイズよりも大きいものも小さいものも含めて、存在していないわけではないのです。しかも清澄剤は清澄剤で、そのサイズが必ずしも一定とは限りません。
つまり、たまたま大きいサイズの孔がある場所にたまたま小さなサイズの清澄剤の欠片が流れ込んでしまえば、その清澄剤の欠片はフィルターで除去されることなくワインの中に混入します。確率としては非常に低くても、絶対にありえないということは出来ません。
同様に清澄剤が疎水性で水やアルコールに溶けない性質を持つモノだったとしても、本当に、絶対に、100%全く溶けていないかと問われれば、誰にも溶けていないことを保証することは出来ません。
今回のまとめ | 保証できないものは入っていることを前提とする
フィルターを偶然通過したモノにしても偶然ワインに溶け込んだモノにしても、検査にかければ検出することは可能です。
一方でこうした検査には薬剤を使用したり、熱をかけたりしています。一度検査にかけてしまえばその検査したものはもはや飲用には適しません。つまり、全量検査済みとして最終製品を出荷することは不可能なのです。
これが清澄剤を製造過程で使用したワインがヴィーガンの方やアレルギーをお持ちの方に楽しんでいただけない最終的な理由です。
- フィルターを通過して残留する可能性
- ワインに溶け込んで残留する可能性
- 全量検査できず残留なしを確率でしか示せない現実
どこまでも確率論ではありますが、どこまでいっても可能性がゼロになりません。アレルギーの場合は言うに及ばず、それが信条や宗教上の禁忌であったとしても時に命にかかわります。であれば、確率が100%ゼロにならない限りは入っている前提で話をするべきだと判断されているのです。
なお、ヴィーガンワインを表明していないからといってすべてのワインが動物性の清澄剤を使用しているわけではありません。
現に私は自分が造っているワインには一切の動物性のものを使っていませんが、ワインにヴィーガンワインを謳ってはいません。造っているワインにヴィーガンワインを表示するかどうかはワイナリーごとの判断になりますので、心配な方は直接ワイナリーに問い合わせをなさることをお勧めします。