ブドウ畑における緑化というものを考えてみたいと思います。
ぶどう畑を緑化する、と聞くと少し奇妙な印象を受けるかもしれませんが、単純に言ってしまえばブドウの垣根の間の地面に生える下草をどうするのか、ということです。全面を緑にするのか、除草剤の使用有無はともかくとして、完全に更地にしてしまうのか。実はこの対処方法にも重要な意味と目的があります。
下草の持つ意味
一般に畑の下草を生やすということに対しては、畑における生物多様性を確保するとか、何となく自然に優しいというようなイメージが先行するのではないかと思います。このような視点に立つ限り、自然に優しい農業を標榜するのであれば、ブドウ畑における下草は生やすべき、という結論に行きつくことになります。それが自然に優しいように見えるからです。
しかし、実際のところことはそう簡単でもありません。状況によっては下草は刈るべきですし、ただ自然に生えてきたものをそのままにすればいい、というものでもないのです。
以下に順を追って下草の持つ代表的な意味とその管理についてみていきたいと思います。
下草はブドウの競争相手
まず、下草もまた当然植物なので、その生態には主に水分を中心に栄養分を必要とします。
つまり下草の量が多いと、それだけ土中の水分が下草に取られてしまいますので、ブドウは水不足による強いストレスにさらされることになります。降雨量が足りている地域であればそれでも問題は生じないのですが、雨の量が少なく、また地下水等の水の供給源がないところではこれはブドウの成長不順につながります。このような環境では下草は刈られるべきです。
この一方で、下草をブドウに対する水分供給量の調整役に使う、という発想もあります。これは主に降雨量の多い地域で取り得る手段ですが、ブドウの生育環境的に土中水分量が過剰である場合には、下草を生やすことで意図的に水に対する競合状況を強化し、これによってブドウの樹勢管理を行うのです。
下草は栄養の供給源
これは特にLegminosaeと呼ばれるマメ科の植物を意図的に植えることで得られる効果です。
Legminosaeはその根に根粒菌という細菌の一種を宿すことで空気中の窒素を蓄えます。この性質を利用することで、土中における窒素濃度を改善することが可能となります。
土中窒素濃度はブドウの育成だけでなく、その後のワイン造りの過程においても重要な意味を持つ栄養素であり、この供給状況を改善することは大きな意味があります。一方で、このようなLegminosaeの植栽は意図的かつ計画的に行う必要があり、その取扱いは、なんとなくいつの間にか生えてしまっていた雑草を扱うのとは根本的に異なります。
地面の圧縮を緩和し、根の成長を助長する
ブドウ畑の垣根の間は、各種作業のために人やトラクターが頻繁に行き来します。
人の体重などはたかが知れていますが、一方でトラクターをはじめとして各種作業用機械の重量は相当なもので、これらが頻繁に通るとそれだけで地面が踏み固められていきます。踏み固められてしまった地面には降った雨もしみ込みにくくなり、その一方で浸食を受けやすくなります。下草はこれを防止します
また、下草の根が成長することによって地面が耕され、土中に空気を含むようにもなります。このことはブドウの根の成長を助長します。ただし、この恩恵はブドウのみが得るものではなく、当然、下草たちも同様の恩恵を得ることが出来るため、ブドウの根と下草の根の間での競合状態は激化します。このため、どの程度の下草を維持するのか、ということは検討が必要となります。
緑化の管理方法
ブドウ畑における下草の管理方法はいろいろあります。時期を区切るもの、面積を区切るもの、様々です。
ただ、どの方法であっても毎年固定された方法というものは存在しません。上で書いてきたとおり、下草の存在はその年の気象条件によって変わる土中水分量や栄養素の量などの調整役としての意味も担っているため、その管理方法も気象状況に合わせて組み合わせを柔軟に変えていくことが必要だからです。
また、この下草の管理をもってブドウの樹勢を管理することも可能ですので、そのような面からも栽培者はその年の下草をどのようにしていくのかを検討し、決めていく必要があります。確かに一面緑に染まったブドウ畑、というのはいかにも自然に優しいように見えるかもしれませんが、ただ盲目的にそのようにすることは意味はありません。
ブドウ栽培家はどのようにブドウを育てたいのか、そのためにはどのように畑を管理したいのかまで検討したうえで、下草の管理方法を決めていく必要があります。