発酵

発酵に酸素は必要か?

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以前の記事”二酸化硫黄、正しく理解していますか? 2”で酸化は酸素と結合することではない、という内容のことを書きました。この内容自体は正しいことなのですが、この一方で、酸素の存在が”酸化”という現象を引き起こしやすいことは事実です。

つまり、そこに酸素があることで電子の移動が生じやすくなる、ということです。

酸素を完全に排除すれば酸化は防止できるのか

ワイン造りの工程のすべての場所から酸素を排除することができれば、確かにワインの酸化はほぼ防止することが可能です。ただし、酸素の介在がなかったとしても電子の移動は起こりうるため、すべてがすべてを防止できる、というものではありません。また、酸素に全く触れなくなることで様々な問題も発生します。

 

酸素との接触がないことで生じる問題としては、還元香などとも呼ばれる、代表的なオフフレーバーである硫化系の香りの生成などが挙げられますが、その最たるものが、発酵の不良です。

 

発酵に酸素は必須?

発酵は酵母の代謝活動であることはすでにお話しをしてきました(関連記事: 発酵について語ろう)。そして、この酵母というものが微生物であることもすでにご説明済みです(関連記事: 酵母ってなんですか?)。酵母は微生物であるため、その生存過程において酸素を必要とするタイミングというものがあります。

 

具体的にいえば、Saccharomyces系の酵母の場合には増殖時点において酸素が必要です。一方で、この酵母は糖をアルコールにする代謝活動には酸素を必要としません。

 

つまり、仮に発酵工程中から完全に酸素を除外したとすると、Saccharomyces系酵母は増殖は出来ないけれど、アルコール発酵自体は行える、ということになります。

これだけ聞くと、発酵過程から酸素を除外しても問題がないように聞こえるかも知れません。しかし、事実は全くの逆で、仮に特殊な手法を用いない状態で発酵過程から酸素を除外してしまったら、問題しか生じません。

 

発酵には数の力が重要

ちょっと想像がつきにくいかも知れませんが、発酵のピーク時における酵母の数は膨大です。具体的にどれくらい、という目安もあるのですが、単位あたりで軽く百万のオーダーを超えます。当然、これだけの数の酵母を人工的に添加したり、野生酵母として天然環境から取得することは通常、不可能です。

この数を満足するためには、発酵過程における酵母の増殖に頼る他ありません。

 

そんななか、発酵の工程から酸素を除外したらどうなるでしょうか?

 

すでに書いたように、代謝活動中に酸素を必要としないSaccharomyces系の酵母であっても、その増殖過程においては酸素を必要とします。このため、仮に増殖段階で酸素を得ることが出来なければ、その酵母は増殖することが出来ず、発酵前に存在していた数のみで黙々と糖を分解し、アルコールを生成していくしかなくなります。

 

もちろん、この一つ一つの酵母が長命で、ゆっくりとではあってもすべての糖を分解できるだけの時間生き延びられるのであれば問題ないのですが、実際はそうはいきません。様々な要因で酵母が死亡し、発酵が途中で止まることになります。そもそも、発酵が始まればマシなくらいです。最初に投入された数程度の酵母では、そもそも目に見える状態で発酵を行えることはまずありません。つまり、始まる前にすでに発酵の工程が終わっているようなものです。

 

一方で、発酵が行われないことによる各種様々な弊害はしっかりとついてきます。そもそも発酵が行われていないということは、それはワインでさえない、という状態なのでそれ以上の問題など無いようなものなのですが、仮に中途半端な発酵が行われてしまったような場合には無視できない問題となります。この場合に発生する問題の多くは、ちょっとした酸化などよりも余程大きな問題となりかねないので注意が必要です(関連記事: 発酵にとってもっとも怖いこと)。

 

酸素を敵視することの弊害

ワイン造りにおいて、酸素を必要以上に敵外視することは多くの場合、かえって大きな問題を呼び込むことになります。

 

もちろん、積極的に酸素と触れさせていくのも(ワイン造りのスタイルとしては存在していますが)どうかとは思うのですが、だからといってあまりに神経質になることもないのです。それに、このような考え方に立てば必要以上に酸化防止を意識して二酸化硫黄をワインに添加する、などという行為はその意味を失います。もちろん、必要以上にワインを酸素に触れさせないための醸造過程における努力は必要ですが、敢えて酸素との接触を恐れずに勇気を持って取り組むこともまた、重要です。

 

酸素=ワインの天敵、という構図にはたくさんの例外がつく、ということを覚えておいていただきたいと思います。


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