ドイツワインでカビネットやシュペートレーゼと聞くと、ほぼ自動的に甘いワインのこと、と思ってしまう方はワインの勉強をしている方でも多いようです。ワインの説明をしていると、たびたび聞かれます。でもこれ、半分正解ですが、半分は残念ながら間違いなのです。
甘いワインがカビネットやシュペートレーゼであることが多いのは事実ですが、カビネットやシュペートレーゼが必ずしも甘いわけではありません。 、、、ややこしいですね。このややこしさの正体を知るためには、ドイツにおけるワインの等級の格付け制度と発酵の基本を知る必要があります。
ドイツワインの等級はワインの甘さ、ではなく、ブドウの甘さ
そもそも、カビネットとかシュペートレーゼというのは何なのか、そこから話を始めたいと思います。
カビネット (Kabinett)やシュペートレーゼ (Spätlese)、アウスレーゼ (Auslese)というのはドイツのワイン法に基づいたワインの格付けにおける等級の名前です。これらの等級が付加されたワインは、プレディカーツワイン (Prädikatswein)と呼ばれます。ここで注意したいことは、ドイツのワイン法ではワインの格付けは”収穫時におけるブドウの糖度”に基づいて行われている、ということです。つまり、出来上がったワインの状態はワインの格付けとは無関係です。ちなみに出来上がったワインの状態はワインの格付けではなく、Geschmacksangabeという辛口とか甘口とかいう味の分類に影響します。
ドイツワイン法における等級とその条件
さてそのワイン法に基づいた等級ですが、以下のようなものがあります。
ちなみにこの格付けによる等級の付加には、やはりワイン法が定めている13の耕作地域においてヴィティス・ヴィニフェラ種のブドウから作られたワインに限る、という条件を筆頭に醸造手法等に関して複数の前提条件があります。面倒くさいですね。この辺りのことはまた別の機会に詳しく書こうと思います。ここでは比較的簡単に記載します。
クーベーア- (QbA): 等級外の名称
- ワイン法によって定められた13の耕作地域で作られたワインで、以下の各等級に合致しないもの
- ヴィティス・ヴィニフェラ種のブドウから作られていること
- ワインに含まれるアルコール度数が 7 % vol = 56 g/l 以上
カビネット (Kabinett)
- 収穫時のブドウ糖度73エクスレ以上
- ワインに含まれるアルコール度数が 7 % vol = 56 g/l 以上
- QbAとしての条件を満たしている
シュペートレーゼ (Spätlese)
- カビネットよりも収穫が遅く、十分に熟した状態のブドウを使うこと
- 収穫時のブドウ糖度85エクスレ以上
- ワインに含まれるアルコール度数が 7 % vol = 56 g/l 以上
アウスレーゼ (Auslese)
- 完熟、もしくは貴腐菌のついたブドウのみから作られていること
- 人手による収穫であること (地域による)
- 収穫時のブドウ糖度95エクスレ以上
- ワインに含まれるアルコール度数が7 % vol = 56 g/l 以上
ベーレンアウスレーゼ (Beerenauslese)
- 貴腐菌のついたブドウもしくは過熟したブドウのみから作られていること
- 人手による収穫であること
- 収穫時のブドウ糖度125エクスレ以上
- ワインに含まれるアルコール度数が5.5 % vol 以上
アイスワイン (Eiswein)
- 外気温が-7℃以下になり自然凍結した、樹になったままの状態の果実を凍結したまま収穫し、凍結したままの状態でプレスすること
- 人手による収穫であること (地域による)
- 収穫時のブドウ糖度125エクスレ以上
- ワインに含まれるアルコール度数が5.5 % vol 以上
トロッケンベーレンアウスレーゼ (Trockenbeerenauslese: TBA)
- 貴腐菌のついたブドウのみから作られていること
- 人手による収穫であること
- 収穫時のブドウ糖度150エクスレ以上
- ワインに含まれるアルコール度数が5.5 % vol 以上
- 一部の特殊なブドウ品種や特殊な気象条件によっては乾燥した過熟ブドウから作ることも認められる
そろそろ頭が痛くなってきましたか?わかります、私もいつも面倒くさいなぁ、と思っています。まぁ、この辺りはざっくり知っていればいいのです。そして、今回のお話もようやく終わりに近づいてきました。
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発酵とワインの甘さの関係
ドイツにおけるワインの格付けが上記の通り、基本的には収穫時のブドウの糖度を中心に決められていることは分かっていただけたことと思います。ここからは、醸造のお話です。
細かい発酵に関する説明は別の機会に譲りますが、ワイン醸造における基本的な発酵のメカニズムは、酵母がブドウに含まれるブドウ糖を代謝活動を通してアルコールと二酸化炭素に変換することです。ここで大事になるのが、ブドウ糖とそれを使って作られるアルコールの量の関係です。
ワインの醸造において、ブドウに含まれるブドウ糖の100%すべてを酵母の代謝活動に使い切らなければいけないとなんとなく思ってしまっている方も多いようですが、これは違います。わざとアルコール度数を低めに抑えてブドウ糖をワイン内に残すことも可能なのです。言ってしまえば、上記の等級ごとに定められた最低アルコール度数さえ満たしていれば、そこで発酵を止めてしまっても問題ないのです。そして、実際にアルコール発酵を途中で止め、ワインに残糖を多めに残したものが、甘口や中辛口のカビネットだったりシュペートレーゼだったりするのです。
十分な量のアルコールを確保しながらさらに残糖を残すことは、もともとのブドウに含まれる糖度が高くないと出来ないことなので、自然と甘口のワインには格付けの高いものが多くなる、という訳です。
辛口ワインは発酵を最後までやりきったもの
この一方で、ブドウに含まれていた糖分を全量アルコールに変えてしまうこともまた可能です。この場合は当然、ワインの残糖は少なくなり、反対にアルコール度数は高くなります
逆に言えば、発酵後のワインでアルコール度数を12~13%確保しようとすると、どうしてもブドウの糖度でシュペートレーゼ以上のレベルが必須となるのです。
実際のところ、ドイツにおけるVDPの格付けであるグローセス・ゲヴェックスは辛口のワインですが、果実の糖度がシュペートレーゼ以上であることが求められています。つまり、シュペートレーゼの辛口は世界的に見ればいくらでもある、ということですね。
長くなってしまったので、今日はこれくらいで。