Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。ドイツのワイナリーで醸造責任者を歴任。栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーの醸造家兼栽培醸造コンサルタントとして活動中

ワイン 不快臭

2021/9/11

ワインの個性か汚染か | ブレットを知る

ワインを飲んでいると避けることのできない悲劇がいくつかあります。 真っ白いシャツに赤ワインのシミを作ってしまう。ついつい飲み過ぎて翌日に酷い頭痛に悩まされる。誰にでも経験があると思います。そうした悲劇の1つが、楽しみにしていたワインからおかしな臭いや味がする、というもの。楽しくなるはずの時間が一瞬で崩壊する可能性の高い、とても大きな悲劇です。 ワインから本来はしないはずの臭いや味がすることを一般に、ワインの欠陥臭 (オフフレーバー、不快臭とも) といいます。コルクが原因となってカビのような臭いのするブショ ...

ワイン

2021/9/4

ブドウの収穫が開始 | 2021年ハーヴェストの幕開け

ここ数年間の夏と比較すると冷夏と表現できるほどに涼しい日の続くドイツですが、この気候の違いを如実にあらわすように昨年から遅れることおよそ2週間、ついに2021年最初の収穫の報告が入りました。 DWI(Deutsches Weininstitut / Wines of Germany) によると、8月23日にラインヘッセンのリェルツヴァイラー (Lörzweiler) という町で今年最初のブドウの収穫が行われたそうです。また同日中にPfalzでも最初の収穫が行われたとDWIのプレスリリースには記載されていま ...

Brettanomyces bruxellensis

ワイン 不快臭

2021/9/8

ワインの欠陥臭ブレットを生む酵母 | ブレタノマイセス

楽しみにしていたワインのボトルを開けて、グラスに注ぐ。そこから立ち上るかぐわしい香りを嗅ごうと鼻を近づけると、何かが違う。 こんな経験をお持ちの方は意外と多いと思います。 本来はしないはずの、特に不快に感じる臭いがするワインを欠陥臭 (オフフレーバー) を持つワインといいます。ワインのオフフレーバーにはいくつも種類がありますが、中でも有名なのものの1つがブレット (Brett) です。ブレットは馬小屋の臭い、馬の汗の臭い、動物的な臭い、などと表現される欠陥臭で、赤ワインで特に感じる機会が多いのが特徴です。 ...

ブドウの病気 栽培

2021/8/21

ブドウの病気 | 黒とう病を知る3つの視点

ブドウは世界中で栽培されている果樹作物で、その栽培面積は地球上でも最大規模だといわれています。 北はイギリスやカナダから南はニュージーランドまで、地球の表面をほぼ覆うほどの規模で栽培されていますのでその栽培条件も様々です。年間通して涼しく乾燥した地域もあれば、一年中暑くて湿度の高い地域でもブドウは栽培されています。 そうした土地の違いを端的に表すのが、病気です。 ワインの旧世界と呼ばれる欧州ではブドウの病気といえば、ベト病、ウドンコ病、そして灰色カビ病です。最近はESCAも無視できない重要な病気として捉え ...

販売戦略

2022/4/11

ワインの新しいかたち | バッグ・イン・ボックス

大容量で家飲みに最適だとしてバッグ・イン・ボックスが人気です。 バッグ・イン・ボックス (Bag-in-Box: BIB) とはワインが入れられた袋 (Bag) を紙の箱 (Box) に入れたもののこと。容量が2L以上あるものがほとんどで、中には5Lというものも販売されています。その外見からボックスワインとも呼ばれています。 密閉された袋の注ぎ口から飲み大量のワインを注いで飲めるため酸化のリスクが低く、開封後も数週間かけてゆっくり飲めるといわれています。ガラスを使わず紙とプラスチックの袋だけなので軽いほか ...

栽培

2021/8/4

除葉の時期とその効果 | 開花前の除葉がもたらす色への影響

ワイン用のブドウ栽培で重要な作業の1つに除葉があります。 除葉とは読んで字のごとく、ブドウの樹から葉を除去する作業のことです。 葉は植物が光合成をするための重要な器官。にも関わらずその葉を取り除いてしまうなんて、と思われるかもしれません。しかしこの作業はブドウの栽培をするうえで重要な意味を持っています。 除葉についてはいろいろな議論がされています。手で行った方がいいのか、機械でやってしまった方がいいのか。どれくらいの量の葉を除去するのが適切なのか。そして、いつやるべきなのか。 こうした議論のいくつかはすで ...

Tree Leaves Arrows Sustainability  - geralt / Pixabay

栽培

2021/7/20

ブドウ栽培の基礎知識 | ブドウの樹のとらえ方

エネルギー源は太陽 枝はエネルギーの交通路 幹はエネルギーの貯蔵庫 たった3行。このたった3行がブドウ栽培でもっとも大事なことです。 これさえ知っておけばほかのことは忘れてしまっても大丈夫。だから、この記事もこれで終わり。とはさすがにいかないのでもう少し内容に踏み込んでいきましょう。 今回はブドウの栽培の基礎知識をちょっと普通とは違った視点から解説していきます。キーワードは、エネルギーです。 3つの部分からできているブドウの樹 ブドウの樹は葉、枝、幹の3つの部分からできています。根を入れれば4つです。 こ ...

ワイン 栽培

2022/1/31

ワインと土壌とテロワール | 粘板岩の色とワインの個性

ワインの持つ個性を説明する時、よくテロワールと関連付けて話をされます。 そうしたテロワールを構成する要素の1つが、土壌です。 土壌にはいくつもの種類があります。 粘土や石灰岩と並んで土壌の一角を占めているのが、シーファー (Schiefer) です。日本語では粘板岩、英語ではスレート (slate) やシスト (schist) と呼ばれます。 シーファーの土壌はドイツに多く、ワイナリーではシーファーの種類ごとにワインを分けて仕込んでいる場合も多く見られます。そう、シーファーには種類があります。 シーファー ...

栽培

2021/7/4

ブドウとワインと気候変動 | 早い発芽のメリット・デメリット

今年はもうブドウの芽が開いた。 ここ最近、毎年のようにブドウが発芽したニュースを前年よりも早いタイミングで聞くようになりました。 2021年のドイツでは4月以降の気温が例年よりも低い状況が続いたためにブドウの萌芽が数年ぶりに長期平均よりも4日ほど遅くなりましたが、2019年は長期平均よりも9日早く、2020年に至っては16日も早い芽吹きが記録されています。 こうした早いシーズンの到来はドイツに限ったものではありません。 ブドウの芽が早く開く原因は多くの場合、気候変動の結果と説明されます。では、ブドウがより ...

ワイン 栽培

2021/6/19

数字からみる南アフリカワイン | なぜ南アフリカワインは安くて美味しいか

南アフリカワイン。 安くて美味しいワインとして今や欠かすことのできない存在です。一時期は「安くて美味しい」といえばチリワインが代名詞でしたが、最近は南アフリカがこのカテゴリーの筆頭に挙げられることも増えてきたように思います。 南アフリカワインを語る時によく耳にする三拍子が次のようなものではないでしょうか。 フルーティーで果実味がしっかり感じられる甘さもあるけれど酸味もしっかりしているコスパがいい さらにこれにセットで、ワイン用ブドウの栽培に適した気候、地球最古の土、低コストでプレミアムワインを造る最適な環 ...