日本を代表する発酵食品である、味噌。味噌の製造過程においては、原料である大豆の体積に占める皮の比率が少ないことが好まれるそうですが、ワイン造りにおいてはこの真逆で一粒の体積あたりに占める果皮の比率が高い、小粒のものほど好まれます。これは、醸造面から言えば、フェノール化合物やアロマ成分の多くがブドウの果実の中でも特に果皮に多く含まれているためです。
ブドウの果皮に含まれる含有成分のいろいろ
ブドウに含まれる各種成分はブドウの果肉もしくは果汁、果皮、種の3箇所に大別して分布しており、その分布の程度はブドウの品種や熟度、成長過程における気象条件などが影響し、常に一定という訳ではありません。一方で、ワインにとって欠かすことの出来ない代表的なブドウの含有成分であるフェノール化合物のなかでも、プロアントシアニジンはその多くが果皮と種に分布しており、主に赤ワインにおけるタンニンの供給源となっています。
さらに赤ワインの色味や熟成に対して大きな意味をもっているアントシアニンは基本的には果皮を構成する細胞内にのみ存在しており、プレスや抽出の過程を通してモストへと取り出され、ワインを色付けます。
ちなみに、白ワイン用のブドウにもフェノール化合物は赤ワイン用品種と比較してその量は少ないながらも存在はしており、その少ないながらも含まれているフェノール化合物が白ワインの経年酸化、もしくは熟成における着色現象に大きな影響を与えています。
また、ワインの香りを決定づけるのに大きな役割を果たしているテルペン系化合物の約60%がやはり果皮に存在しています。そのため、どのような手法によってブドウを加工したかでこの芳香成分の抽出量が変わり、その後のワインの香りを方向づけることになるのです。
ブドウ栽培面でも意味を持つ、果実の大きさ
このように醸造面からみて、ワインの特徴を決定づける大きな要因であるフェノール化合物とアロマ成分を多く含む果皮の割合は大きいに越したことはありません。
意外に忘れられがちではあるのですが、ブドウの果実の大きさは醸造面だけではなく、ブドウの栽培面でも大きな意味を持ちます。
ブドウの栽培における大きな問題の一つが、ブドウ畑におけるカビの蔓延です。
雨が降って果実が直接濡れた後はもちろん、降雨のあとなどに地面から上がってくる湿気の影響などでブドウの果実の表面は簡単にカビに侵されます。このため、ブドウ栽培者はいかに早く濡れてしまったブドウの表面を乾燥させるか、果実のある空間の湿気をいかに迅速に払うかに腐心します。この時にブドウの粒が小さく、房の中にある程度の空間を持っていることは、ブドウの健康を維持する上でとても有利なのです。
ただ一方で、果実が大きいということはそれだけ果汁の量が多い、ということでもあります。
このため果実の大きなブドウ品種からは仮に房の数を制限したとしても、より多くのワインを作ることが出来ます。生産性に注目するのであれば、果実の大きなブドウを栽培することは小粒のものを栽培するよりも遥かに有利なのです。
造るワインに合わせた選択が必要
実際には高品質なワインを作ろうとする場合には面積あたりの容量に基づく収量制限が設けられるため、果実の大きさが大きかろうが小さかろうが、一房あたりの果汁の量という面ではワインの生産性にはあまり影響を与えなくなるのですが、それにしてもブドウの房の数に直結する問題でもあるため、無視できない要素です。高価格帯向けの高品質セグメントでさえこうなので、低価格帯のボリュームゾーンのワインであれば実の大きさは決して無視できない差となります。この点において、小粒のブドウがいいワイン用ブドウ、ということはないのです。
ブドウの粒の大きさは品種やクローン、台木などによっても変わってきます。ブドウの栽培者はブドウ畑の環境や作業の問題に加え、自身のワイナリーがどのようなワインをどのくらい作るのかを考えた上で植える樹を計画的に決めるべきでしょう。