今更、と言われるかもしれませんが、ワイン用酵母を使用した日本酒というものがあることを知りました。
以前の記事で書いたとおり、日本酒用途に使用されている酵母とワイン用途に使用されている酵母は同じSaccharomyces系統のものです。このため、それぞれの酵母をそれぞれの用途に向けて使用することはさほど難しいことではありません。
酵母に関する記事はこちらもご覧ください。
ワイン用酵母を使うとフルーティな仕上がりが期待できる
特にワイン用の酵母はおそらく日本酒用酵母よりもフルーティーなアロマを発酵副産物として生成するので、この酵母を用いて発酵を行った日本酒は従来のものよりもよりフルーティーなアロマを持つようになることが予想されます。
こう書くと日本酒用にワイン用酵母を用いることはいいことばかりのように思われるかもしれませんが、実際に醸造作業の面から見ると、日本酒の発酵にワイン用酵母を用いることはあまり合理的とは言えません。少なくともワイン用酵母を本格的に日本酒の醸造に使用しようとするのであれば、現在の日本酒製造の工程をかなりのところ変更する必要に迫られると考えられます。
清酒酵母をワイン用に使うほうが合理的
この一方で、条件的には日本酒用酵母をワイン醸造に使用するほうが合理的です。発酵副産物としての香りの生成については本来のワイン用酵母を使用した場合と比較してどうしても弱くなってしまうでしょうが、発酵条件的にはワインの発酵温度をさらに下げられる可能性が高く、その結果、ワインがフルーティーな仕上がりとなり得ます。ここでは、実際には使用する酵母の種類によって変わりますが、第3アロマ(発酵香)よりも第1アロマ(品種香)が中心となった香りの構成を持ったワインを期待することが出来ます。
アロマの種類については、こちらの記事を参考にしてください。
清酒酵母のほうが辛口にしやすい?
また、従来のワイン用酵母を使用するよりも辛口のワインを作りやすくなる可能性も考えられます。これは、実は日本酒用の酵母が遺伝的に欠陥とも言える特徴を持っていることに根ざします。
本来、ワイン用の酵母などではアルコールなどに対する防衛機能を持っています。これは、自己が耐えられる範囲以上のアルコールを生成しないようにするブレーキのようなもので、実質的にその酵母を使った際のアルコール生成量の上限を設定するものとなっています。一方で、日本酒用の酵母ではこのブレーキに関する遺伝情報が欠落しているらしいことが研究で分かっています。このため、日本酒用の酵母は自己が耐えられる以上のアルコールを生成してしまい、結果的に自死してしまうような性質を持っているらしいのです。
このような点から、日本酒用酵母はワイン用酵母と比べて耐性が低いというような言われ方もしているようですが、ここで重要なのは清酒酵母の方がワイン用酵母よりもアルコールの生成能が高い、ということです。つまり、日本酒用途に使われている酵母はアルコール濃度が上がってきた発酵過程の後半においても、その代謝活動を高水準で維持できる可能性が高く、結果として辛口ワインを作りやすいと考えられるのです。