前回はエチケットに書かれた見慣れないものの一つして、クラシックとセレクションのお話しをしました。これらはドイツのワイン法によって定められている名称でしたが、今日はそれ以外の動きの中で使用方法が決められているもののお話しをしたいと思います。
前回の記事はこちらから御覧ください
ラインガウ独自の肩書、エアステス・ゲウェックスとカルタ
エアステス・ゲウェックスとカルタはいずれもドイツにおけるブドウ・ワインの産地であるラインガウ地方でのみ使用される肩書です。この両者はその背景が異なっており、エアステス・ゲウェックスは前述のクラシックやセレクションと同じように辛口のワインのみとなりますが、カルタに関しては辛口のワインのみではなく、中辛口のワインであってもこの肩書を使うことが許されています。
Erstes Gewächs (エアステス・ゲウェックス)
- ラインガウ地方の中でもその特徴から選ばれ、等級が定められた畑から収穫されたリースリングもしくはシュペートブルグンダー (ピノ・ノワール) を使ったワインのみに使うことが許された肩書。条件は以下の通り。
- 等級付きの畑から収穫されたブドウであること
- リースリング100%もしくはシュペートブルグンダー100%であること
- 毎年5月1日までに申告し、承認されていること
- 最大50 hl/ha の収量制限がなされていること
- 収穫時のブドウの糖度がシュペートレーゼ相当以上であること
- 手摘みで収穫されていること
- 健康な果実のみを選別していること
- リースリングの場合、残糖が13 g/l 以下でアルコール度数が12% 以上であること
- シュペートブルグンダーの場合、残糖が 6g/l 以下でアルコール度数が 13% 以上であること
収穫時のブドウの糖度の規定についてはこちらの記事を参考にしてください
Charta (カルタ)
1984年にWeingut Georg Breuerの先代当主であるBernhard Breuerが伝統的なラインガウ産リースリングワインを保護し、後援していくことを目的に立ち上げた団体、カルタ・ラインガウの定めている肩書です。辛口のみではなく、中辛口であっても使用が可能となっています。
- リースリング100%であること
- ラインガウ地方の最高の畑から収穫されたブドウを使っていること
- 表エチケットに畑名を記載することは禁止 (裏エチケットであれば可能)
- ワイン法によって定められている各肩書よりも8エクスレ以上高い糖度で収穫すること
- 翌年9月1日以降から販売可能
- 瓶詰めの前後で審査委員会のブラインドテイスティングによる審査を受けること
- 決められたタイプのボトルを使用し、エチケットとカプセルに決められた意匠のロゴを付与すること
カルタに関しては近年、ライン・カルタという名称でライン川流域全体でも取り組みがなされ始めており、ミッテルラインなどでもこのカルタの肩書をつけたワインが造られたりもしています
もっとも正体不明なファインヘルプとマイルド
ファインヘルプとマイルド。この両者が問題です。
この2つの肩書については明確な規定がありません。特にワイン法で決められているわけでもありません。このため、使う人間によってかなり幅のある使い方をされているのが現状です。
まずこれらの肩書の使われる範囲としては、基本的にトロッケンからリープリッヒの間です。つまり、ハルプトロッケン前後の味のワインに使われます。今のところ、トロッケンやリープリッヒ相当のワインにこれらの肩書が使われているところには出くわしたことはありません。
私の個人的な感覚としては、ファインヘルプがハルプトロッケンよりも甘口より、マイルドは糖度よりも酸度に注目して酸の多少弱いものに使われている印象が強いのですが、人によってはファインヘルプの方がハルプトロッケンよりも辛口よりだ、と仰っている方もいらっしゃるので、これは本当に分かりません。前に話をしたワインメーカーは、ハルプトロッケンというよりもファインヘルプといったほうがエレガントに聞こえるからこの肩書を使っている、と言っていたくらいです。
規定がないものなのでどうしても言った者勝ちの印象が強くなってしまうこれらの肩書ですが、ワイナリーによっては毎年ハルプトロッケンとファインヘルプを使い分けているなど、ある程度厳密な内部基準を作って運用しているところもあるのだろうと思います。
醸造家やマーケターにとっては感覚的な表現ができるので使い勝手のいいものでもあるのですが、ワイン消費者としては、この辺りのところはもう少し統一的な運用をして欲しいところでもあります。
トロッケンやハルプトロッケン等の規定についてはこちらの記事も参考にしてください